新人監督賞グランプリは二ノ宮隆太郎さんの「逃げきれた夢(仮題)」シナリオ賞グランプリは廣原暁(さとる)さんの 「アンナの黒い犬」が受賞!

日本映画界の次代を担う新しい才能を発掘する「フィルメックス新人監督賞・シナリオ賞」の授賞式が6月28日、東京・六本木のキノフィルムズ試写室で開かれた。新人監督賞グランプリは二ノ宮隆太郎さんの「逃げきれた夢(仮題)」、シナリオ賞グランプリは廣原暁(さとる)さんの 「アンナの黒い犬」が受賞した。(写真下・左から廣原暁さん、二ノ宮隆太郎さん)

「フィルメックス新人監督賞・シナリオ賞」は、「木下グループ新人監督賞」を継承して今年スタートした映画賞。撮影や編集のデジタル化で映画製作が身近になる一方で、若い映画作家が次のステップに踏み出すのが難しい現状を受けて、商業映画のフィールドでオリジナル企画の実現を目指す監督や脚本家を支援する。

新人監督賞は商業映画の実績がない新鋭監督が対象で、シナリオと過去の映像作品をもとに選考。シナリオ賞はプロ・アマチュアを問わず、シナリオのみで選んだ。新人監督賞のグランプリ作品は賞金50万円のほか、木下グループが5000万円を上限に製作費を提供、劇場公開に向けて企画開発や製作・配給を支援する。

新人監督賞の応募作96作品からグランプリに選ばれた二ノ宮さんは初長編「魅力の人間」で第34回ぴあフィルムフェスティバル準グランプリを受賞し、長編第2作「枝葉のこと」が第70回ロカルノ映画祭新鋭監督コンペティション部門なとに選出された。受賞作の「逃げきれた夢(仮題)」は定時制高校の教頭の男性が認知症を発症していることに気づき、今まで距離を置いてきた家族や友人との関係を見つめなおす物語。授賞式で会見した二ノ宮監督は「この企画は初めてテーマをもらって書いた作品。テーマを下さった方々に感謝するとともに、とにかく特別な映画を作らなければと思っています」と意気込みを語った。

シナリオ賞の131作品からグランプリを受賞した廣原さんは「世界グッドモーニング!!」でバンクーバー国際映画祭グランプリを受賞。2017年には共同脚本を手掛けた監督作「ポンチョに夜明けの風はらませて」が全国公開された。受賞作の「アンナの黒い犬」は。海辺の町で起きた自動車事故を起点にした物語。廣原さんは「実在のひき逃げ事件を題材に7〜8年前から書き始めたのですが、なかなかで納得のいくものにできず、いい加減あきらめようかと生殺しのような状態で抱えていました。今回この賞を知り、映画作りの仲間と月1回くらい集まりながら意見を聴いて完成させました。この受賞で、自信というか『映画化してもいいんだ』という声をいただいたような気がしています」と喜びを語った。

新人監督賞の準グランプリは金允洙さんの「怪鳥とトランペット」、飯塚花笑さんの「トイレ、どっちに入る?」、酒井善三さんの「狩人の夜明け」が受賞。(写真下・左から金允洙さん、二ノ宮隆太郎さん、酒井善三さん)

シナリオ賞の準グランプリには内田伸輝さんの「特別」、松本稔さんと足立紳さんが共同執筆した「弱虫日記」、宮瀬佐知子さんの「オロンガポ」が選ばれた。(写真下・左から松本稔さん、宮瀬佐知子さん、廣原暁さん、内田伸輝さん)

審査員を代表してあいさつした東京フィルメックスの市山尚三ディレクターは「応募者にはシナリオコンクールなどで実績がある方もおり、全体的にレベルの高い作品が集まった」と語った。また、審査員講評として瀬々敬久監督からのコメントも発表され、「新しいことに挑もうとしている姿勢の見える作品が魅力的であったように全体としては感じました」と評価した。

より多くの作品に映画化の道を拓くため、各賞の最終選考に残った作品のうち応募者の同意を得られたシナリオは映画製作関係者限定でウェブ公開する。
詳細の問い合わせはinfo@new-directors.jpまで。

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【第1回グランプリ・準グランプリ作品の制作状況】
グランプリ作品『AWAKE』(山田篤宏監督)は6月にクランクアップ。
準グランプリ作品『人数の町』(荒木伸二監督)は5月クランクアップ。
両作品とも豪華キャストが出演。来年公開に向け、仕上げの真っ最中です。
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—-審査員講評 瀬々敬久—-

シナリオの巧拙というより、いかに挑戦しているか。このシナリオが映画になった時に、どういう貌を見せるか、それが刺激的であるだろうか、というようなことを考えながら読ませてもらいました。

そういう意味では二ノ宮隆太郎さんの「逃げきれた夢(仮題)」が飛びぬけていたと思いました。今までは自身が主人公となったり、身の回りの日常を題材にした映画を作って来た作者が、中年男性を主人公にして描く九州の一地方を舞台にした物語、そこに新しい挑戦をしようとする気概を感じました。それでも作者独特の他者に対する目線、コミュニケーションの取り方の捻じれたようでありながら純粋性を内部に持った描き方は健在であり、終わり方もある未来へ向かう感じに心揺るがせるものがあったと思います。描かれている世界は小さいけど非常に大きなものを見せられている、そんな気がしました。この映画の完成を見てみたいそう思わせるものがありました。

同じ意味では飯塚花笑さんの「トイレ、どっちに入る?」も作者が描き続けてきたテーマの延長上にあり独自の感性で描かれたものでしたが、小さくまとまり過ぎていた印象が少し残念な気がしました。描かれてはいますが、もっと外への広がりが欲しい気がしました。金允洙さんの「怪鳥とトランペット」は設定とテーマは非常に卓越していましたが、それに対して物語の展開が、そこに追いついていない気が幾分しました。一方で酒井善三さんの「狩人の夜明け」はシナリオとしての物語展開は非常に巧みで読み手を魅了する力のあるシナリオだったと思います。ところがこの映画独自の魅力は何かと問われると、そこが若干弱かった気がします。

<シナリオ賞>では廣原暁さんの「アンナの黒い犬」が一番に惹きこまれました。日常に近い世界でありながらも、独特の世界観と独自の物語展開、素晴らしいものがあったと思います。一方、足立紳さんと松本稔さんの「弱虫日記」は文学や映画で慣れ親しんだ舞台設定です。であるにも関わらず、そういうことを超えて登場人物たちに非常に感情移入しながら読むことが出来たと思います。筆力の確かさが伝わった一篇だと思います。内田伸輝さんの「特別」は男女のギリギリとした関係を描き続けて来たご自身の延長上の作品でありながら、そこから飛び出そうとする意志を感じました。ただ映画では内田さん独自の演出があったうえでそれが成立している部分もあるのだと思いますが、シナリオだけだと幾分食い足りないなという印象も持ちましたが、映画になった時は違うのだと思います。宮瀬佐知子さんの「オロンガポ」は全く新しい才能に出会ったような印象を持ちました。ご自身の経験が下敷きになっているからこそ描ける海外の描写に惹きつけるものがあります。ただ後半の物語展開が幾分弱い気がし、そこに工夫が欲しい気がしました。

どれもシナリオについての感想であり、これが何段階もの作業を経て映画へ成っていった時にはまた違う印象になることだと思います。映画は変化するものであり、現段階での感想であることお許し下さい。また、ここに上がらなかった方々の作品も読ませていただきましたが、やはり新しいことに挑もうとしている姿勢の見える作品が魅力的であったように全体としては感じました。

 

執筆:深津純子、写真:吉田(白畑)留美

【レポート】『共想』舞台挨拶、Q&A

11月18日(日)、有楽町スバル座にて特別招待作品『共想』が上映された。本作は『あれから』(2013)、『SHARING』(2014)(第15回東京フィルメックス特別招待作品)に続く東日本大震災を見つめた篠崎誠監督の最新作だ。上映に先立ち舞台挨拶が行われ、篠崎監督、善美役の矢﨑初音さん、珠子役の柗下(まつした)仁美さん、さらに櫻井保幸さん、大杉樹里杏さん、播磨誌織さん、村上春奈さんが登壇した。

挨拶の前に、市山尚三東京フィルメックスディレクターが本作は出来上がったばかりでこの後も変わるかもしれないというギリギリで完成した作品だとコメント。

第1回、第15回に続き第19回東京フィルメックスに参加することとなった篠崎監督は「東京フィルメックスに帰ってくることできて嬉しいです」と喜びの言葉が。また本作品はとても小さな作品だと表現し、「市山さんが観た段階から、ワンシーン増やしました。数日前に出来上がった作品で、まだ僕しか観ていません」と語った。矢﨑さんは「小さな映画ですが、私の中で大切にしたい作品」と話し、柗下さんは「タイトルの通り、皆さんと一緒に大切な人や会えなくなってしまった人を共に想える作品だと思います」と話した。櫻井さんは「すごい心に残る作品」、大杉さんは「演者、スタッフが一人一人自分たちの役割を考えて作った作品です」、播磨さんは「伝えられることは言いたいことは大事に言わないといけないと思えることができる映画です」、村上さんは「篠崎先生は大学の先生で、大学に入学したての頃に撮影に呼ばれて、撮影が始まって、試写が始まって、舞台挨拶をしているのでとても緊張しています」と想いを語った。

上映後、質疑応答には篠崎監督、柗下さん、矢﨑さんが登壇。本作品が持つ雰囲気は脚本の段階から考えていたのか、編集の段階で作ったのかという質問が上がると、「最初から最後まで書いたシナリオではなくて、ワンシーンだけセリフはしっかり書かれていて、あとは大体の展開を考えて、説明しました」と篠崎監督。また柗下さんと矢﨑さんに本作撮影の前に3月11日に何をしていたのかをインタビューをするところから始めたそうで、矢﨑さんは「1回目は実際に自分たちが経験した話を撮影して、その後、善美はこうだ、珠子はこうだったというのを付け加えて、2回目で実際役を通して撮影しました」と語ってくれた。出演者に「こういう経験はありますか」と聞いて、それを踏まえて矢﨑さんや柗下さんと話して、さらに撮影当日に2時間くらい話して、テストなしで本番撮影を行ったそうだ。「なので、脚本の段階というより、撮りながら考えて作っていきました」と篠崎監督は語った。また編集の段階でも順番を変えたり、一回撮影したものを落としたり戻したり、悩みながら作っていくうちに作品の雰囲気が形作られていったと話していた。

本作から2人でいることについての映画だと感じた観客より、監督や出演者にとって、2人でいることの意味について質問があった。回答に当たって、矢﨑さんが自分と柗下さんが同じ専門学校出身の友達同士であることや、ラストシーンは撮影の2日目、3日目の早い段階で撮影したというエピソードを語り、「自分たちのどこがゴールなのかわからない状態でラストシーンを撮ったのですが、柗下さんとの関係もあって、珠子が柗下さんで良かった。ラストシーンが2人で居る意味の答えになって、そこに向かってどんどん映像を埋めていったって感じです」と振り返っていた。柗下さんも「矢﨑さんじゃないと成立しませんでした。何もセリフを決まっていなかったんですが、私がしゃべったらそれに応えてくれると信頼して委ねていたので、2人でできてよかったです」と語った。篠崎監督は「2人は僕が言ったことを覚えてくださって、頑張ってくれていました。(撮影時は)緊張しながら観ていて、ラストシーンでは2人の何年か積み重ねがちゃんと映っていて、僕はカメラ脇で観てて泣きそうになりました。そのシーンを見た時、この映画は出来た。ここに向かっていければいい」と話した。

作中に出てきた詩についての質問があり、詩は篠崎監督の娘が小学校の時に学校の課題で書いた詩で、非常に印象に残ったそうで、「いつか映画で使ってもいいと、許諾を得たんです」と言うと会場から笑い声が。続けて「この映画を撮った時に、これはいいかな、と思って使った」と答えた。

ラストシーンは丘で撮影した理由を聞かれ、篠崎監督が学生時代、『おかえり』(1996)で撮影に使用した場所であり、35年かけて3回撮影しているエピソードを語ってくれた。また、本作は室内で撮影する映画なので、最後は広い場所で終わりにしたいと考え、採用したそうだ。

今作はエチュードの手法が取り入れられた経緯を問われると、「1本撮り終えてから次の映画まで時間がすごくかかります」と語り「もう少し身軽にとは言わないのですが、かつて中学校の時に8mm映画を撮った時は、同級生に『今日夕方空いてる?』と声をかけて、そこで集まったメンバーの顔を見ながら即興で話を作っていたのを思い出し、その場で『一緒に何かやりませんか』と言って、『いいよ』って言ってくれた人たちとやってみたい」と話した。
2017年3月に撮り始めて、今まで時間をかけるつもりはなかったが、「自分の中で映画が終わり切れていないという想いが消えずにいて、無理やりまとめるより、少し距離を置いて作ろう」と思ったそうだ。「本来はデッサンとかエチュードのつもりでしたが、結果としてものすごく中断しつつ長い映画になりました。そうしないと次の映画が作れないような気がしました」と篠崎監督。

質疑応答後、篠崎監督は東京フィルメックスのスタッフ、本作品に携わってくれたさまざまな人への感謝、何らかの形で本作品を上映したいと想いが述べられた。東日本大震災を通じて変化していく人々を描く篠崎監督の作品に胸を打たれた観客から盛大な拍手が送られた。

文責:谷口秀平、撮影:明田川志保

【レポート】『名前のない墓』Q&A

11月18日(日)、TOHOシネマズ日比谷12にて特別招待作品『名前のない墓』が上映された。多彩な文学作品を引用しつつ、クメール・ルージュの支配がいかに無軌道であったかが語られる。上映後のQ&Aにはリティ・パン監督が登壇した。

パン監督は『S21 クメール・ルージュの虐殺者たち』(03)で犠牲者と加害者の関係を問い、「Duch, le maître des forges de l'enfer」(11)で政治犯収容所S21の所長だったドッチを撮った。15年以上前から温めてきたテーマは、「人々の心に宿った暴力性」であるという。

「これらの映画をつくる過程で考えたのは、どうすれば死者を悼むことができるのか。よく『赦す』などと言いますが、それは何が起こったかが分かって初めてできること。大量虐殺の場合、犠牲者の遺体の所在が分からないことが問題です。この映画では死者のさまよえる魂を探求することになりました」

映画には監督自身も出演している。「出るつもりはありませんでしたが、あるとき、この映画のアプローチを尊重しなければならないと思ったのです。例えば、霊媒師や僧侶が儀式に参加するよう、私を手招きします。そうすると、どうしても頭の一部や手の先が写ります。霊媒師の一人が、私の父の魂を呼び出して自らに憑依させたとき、父が私を呼んでいるのだと分かりました。そのとき、私はカメラを回し続けて後ろにいるべきか、父に会いに行くべきかを考えました。そして、後者を選んだのです。あまりにも強く彼女が私を抱きしめたので、本当に父の魂がそこにいるのだとはっきり分かりました。その時から、自分がフレームの中に存在することが当然のことになりました。けれども、実に謙虚な気持ちでカメラの前に立っています」

観客からは、「2人の村人の証言が重要な要素となっているが、彼らは犠牲者と加害者のどちらの側にいたのか」という質問が挙がった。

「村には新人民と旧人民がいました。新人民は1975年にクメール・ルージュによって『解放』され、都市から地方へ強制移動をさせられた人々です。私もその一人でした。インタビューを受けているのは、2人とも元から村にいた旧人民です。一人は農民で、新人民より権力を持っていました。もう一人は軍人で、1950年代から革命に参加し、戦争にも出陣した幹部です。この映画は、彼らのような旧人民、犠牲者、私を含めて生き延びた人々という、三角関係で成り立っています」とパン監督。さらに、霊媒師も重要な役割を果たしていると言い、「霊媒師は村人が心を打ち明ける相手です。ですから、彼らはその土地で起こっていることや、人々の抱える苦しみもよく理解しています。トラウマを癒やすには、薬よりも言葉が効くこともあるのです」と説明した。

上映の数日前、クメール・ルージュの幹部2人に大量虐殺の罪で有罪判決が出された。そのニュースをどのように受け止めたかとの質問に、「このような犯罪を裁ききるのは不可能だと思います」とパン監督。「その判決は、チャム族とベトナム系民族に対してのみ認められました。『大量虐殺』は、ルアンダ、ボスニア、カンボジアのケースでそれぞれ異なり、毎回定義し直す必要があると思います。犠牲者の数だけでなく、イデオロギー的な暴力が行われ、個人の尊厳が破壊されていることも考えなければなりません」。続けて、「ロヒンギャやイエメン、そしてカンボジアでも再び、同様のことが起こっています。だから私は過去に戻り、起こった出来事を再び理解しようと努めている。カンボジアで200万人の犠牲者がいるとすれば、200万本の映画が必要です。私にとって映画とは、再び生まれる行為で、今を生きる存在証明のようなものです」と熱く語ると、会場からは自然に拍手が起きた。

最後に、映画を作り続けた上での変化を問われると、「以前より心が平穏になったように思います」とパン監督。「私は常に死者と共に生きています。彼らの犠牲の上に、今の私があるからです。私の仕事は、人々の『記憶』を撮り続けること。当時何が起きたのか、誰が犠牲者で加害者なのか。それが分かれば、次の世代は重荷を抱えることなく、新しいページに進むことができます。死ぬ直前に思い浮かべるのが、私の好きな人たちの微笑む姿だったら。その瞬間に向けて、映画をつくっているように思います」と語った。

質問は尽きなかったが、予定時間を大幅に上回り、Q&Aが終了。一つひとつの質問に丁寧に答えるパン監督の姿が印象的だった。


※終電間際にもかかわらず、多くの方が残られてトークに耳を傾けておりました。

文責: 宇野由希子 撮影: 吉田(白畑)留美

【レポート】『草の葉』舞台挨拶

11月17日(土)、TOHOシネマズ日比谷スクリーン12にてホン・サンス監督の『草の葉』が上映された。オープニング作の『川沿いのホテル』に続いてホン・サンス監督作品がもう1作品上映されることから、関心も高く、場内は駆けつけた観客で賑わった。上映に先立ち、『川沿いのホテル』上映後にも登壇した出演俳優のキ・ジュボンさんを迎えて舞台挨拶が行われた。

「みなさんにお会いすることができて嬉しく思います。日本の映画館に来るのは生まれて初めてですが、みなさんとお会いできることは、私の人生におけるご縁だと思っています」と笑顔で挨拶したキ・ジュボンさん。

本作は、昨秋の9月~10月に3日間、さらに補充日として1日を追加して撮影が行われたそうだ。市山尚三東京フィルメックス ディレクターによると、今年2月のベルリン国際映画祭で発表されたことから驚きの速さで仕上げられた作品といえる。

直前に上映された『川沿いのホテル』の質疑応答では、キ・ジュボンさんのプライベートな部分が作品に反映されたという話題に及んだが、『草の葉』に出演することになった経緯について、「昨秋、個人的に私生活で少し難しい時期を迎えていたのですが、ホン・サンス監督に『草の葉』に出ないかと誘っていただき、元気をもらいました。この作品の後、『川沿いのホテル』にもつながりました」と述懐。

本作は、喫茶店を訪れる人たちの会話が続く作品だが、その際にセリフは用意されているのか、あるいは、俳優に任されているのかと訊かれ、キ・ジュボンさんは次のように説明した。
「ホン・サンス監督は、撮影の当日に台本を書きます。朝書いて俳優に渡すというやり方です。例えば8時から撮影があるときは、監督が6時にやってきてシナリオを準備します。俳優たちは8時にやってくると、その日の頭の回転にまかせて撮影に入ります。事前に俳優に準備させるのではなく、俳優のその日の考えを反映させるというやり方で撮っています」

ホン・サンス監督の斬新な撮影手法に興味は尽きないが、最後に、夜遅い上映時間にもかかわらず集まった観客から温かい拍手がキ・ジュボンさんに寄せられた。フィルメックスでは、11月21日に『川沿いのホテル』、11月20日に『草の葉』が再上映される。

文責: 海野由子  撮影: 吉田(白畑)留美

【レポート】開会式

11月17日(土)、TOHOシネマズ日比谷スクリーン12にて、第19回東京フィルメックスの開幕式が行われた。今春、長らくフィルメックスの主力スポンサーだったオフィス北野による支援が打ち切られ、一時期は開催が危ぶまれていたフィルメックスだが、新たに木下グループの支援を得て開催の運びとなった。開会式に登壇した市山尚三東京フィルメックス・ディレクターは、「みなさんにご心配をおかけしたかと思いますが、このように無事に初日を迎えることができ、サポートをしていただいたみなさんに感謝したいと思います」と謝辞を述べた。

続いてコンペティション部門の審査員が紹介され、アートディレクターのエドツワキさん(日本)、昨年のコンペティション作品『殺人者マルリナ』で最優秀作品を受賞したモーリー・スリヤ監督(インドネシア)、東京テアトルの西澤彰弘さん(日本)、審査委員長を務めるウェイン・ワン監督(米国)の4名が登壇した。また、開会式には間に合わなかったが、韓国から映画ジャーナリストのジーン・ノさんも審査員に加わる。

市山ディレクターによると、審査委員長のワン監督もフィルメックスの行く末を案じていた一人で、ワン監督から協力の申し出があり、今回の審査委員長の就任依頼に至ったという。さらに、昨年フィルメックスの会期中に来日していたワン監督は、1本ぐらい観ようかというつもりでやって来たが、結局、1日1本観に来ることになるほどフィルメックスに魅せられたというエピソードを披露。ワン監督は、「今回のラインナップを見ても本当に興味深い作品が勢揃いしていて、楽しみにしています。フィルメックスへのご支援をありがとうございます」と述べ、観客から大きな拍手が寄せられた。

今年のコンペティション部門は全10作品。最優秀作品賞と審査員特別賞などの審査結果は11月24日(土)に行われる授賞式にて発表される。今回は、アミール・ナデリ監督の特集上映、日本の6作品をはじめとした個性豊かな気鋭の監督作品が並ぶ特別招待作品のほか、映画批評を検証する<国際批評家フォーラム>、親子で映画&聴覚障がい者向けの日本語字幕付き鑑賞会<映画の時間プラス>、トークショーなど、多彩な関連イベントが組まれている。

アジア各国の秀逸な映画が集う第19回東京フィルメックス。映画作家と観客の出会いの場として、映画の未来へ新たな歩みを踏み出した映画祭が幕を開けた。

 

文責: 海野由子  撮影: 明田川志保、吉田(白畑)留美

第19回東京フィルメックス 連携企画「インディペンデント映画と公的支援~日本の映画行政について考える~」

今年、映画「万引き家族」(是枝裕和監督)がカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞しました。受賞直後から、万引きと貧困を題材にした内容が日本のネガティブなイメージを拡散すると懸念した層から、この作品が文化庁の助成を受けていることへの批判が上がり、公権力と文化助成の関係、その正当性について様々な議論が巻き起こりました。

そもそも、なぜ映画への公的支援があるのでしょうか。映画の多様性を守るため? でも私たちの税金を使う根拠は? 国に頼らないと作れない映画ってどうなの―?

フランスや韓国など諸外国の映画人に聞くと、映画への公的支援を獲得するために連帯して闘ってきた歴史があると言います。一方、日本では、映画への公的支援、とくにインディペンデント映画への支援については、これまでその必要性が深く議論、認知されてきませんでした。

このシンポジウムでは、第19回東京フィルメックス出品監督や審査員も交え、アジア諸国の実情と比較しながら、日本におけるインディペンデント映画と公的支援について考えます。映画製作に携わる人から、観る人、そして納税者まで、あらゆる立場から意見を出し合いながら、今後の映画行政の可能性、そして映画文化の公共性を探ります。

●Part.1 アジアの実情を知る 10:30-11:20

【ゲスト】
モーリー・スリヤ(Mouly SURYA/Indonesia)
[映画監督]
1980年生まれ。オーストラリアの大学でメディア芸術、文学、映画を学ぶ。監督デビュー作『フィクション。』(2008)に続く第2作『愛を語る時に、語らないこと』(13)はサンダンス、カルロヴィヴァリなど多くの国際映画祭に選ばれ、ロッテルダム映画祭でNETPAC賞受賞。第3作『殺人者マルリナ』(17)はカンヌ映画祭監督週間で上映後、世界の映画祭へ。第18回東京フィルメックスでは最優秀作品賞を受賞。本年東京フィルメックスの審査員。

ドゥウィ・スジャンティ・ヌグラヘニ(Dwi Sujanti Nugraheni/Indonesia)
[映画監督]
ジョグジャカルタ出身。ガジャ・マダ大学で政治学を専攻。地元NGO、国際NGOなどで働いた後、映画製作を始める。2003年以降、ジョグジャカルタ・ドキュメンタリー映画祭の運営に携わる。2007年には米国ケンタッキー州のコミュニティ・メディアセンター、2009年にはニューヨーク市の映画配給会社ウィメン・メーク・ムービーズにインターンとして勤務。初長編『デノクとガレン』(2012)が山形国際ドキュメンタリー映画祭2013アジア千波万波で上映。

【聞き手】
市山尚三(Shozo Ichiyama)
[映画プロデューサー/東京フィルメックス ディレクター]

●Part.2 日本の実情を考える 11:30-12:30

【ゲスト】
諏訪敦彦(Nobuhiro Suwa)
[映画監督/東京藝術大学大学院映像研究科教授]
東京造形大学在学中にインディペンデント映画の制作にかかわる。卒業後、テレビドキュメンタリーの演出を経て、97年に「2/デュオ」を発表し、ロッテルダム国際映画祭最優秀アジア映画賞受賞。「M/OTHER」でカンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞。その他の主な作品に「H Story」「パリ・ジュテーム」(オムニバス)「不完全なふたり」「ユキとニナ」など。2018年ジャン=ピエール・レオー主演の新作「ライオンは今夜死ぬ」が公開された。

荒木啓子(Keiko Araki)
[ぴあフィルムフェスティバル ディレクター]
1990年PFF参加。1992年よりPFF初の総合ディレクターを務める。コンペティション「PFFアワード」を通して若き映画人の輩出や育成を積極的に行うと同時に、招待作品部門ではダグラス・サーク、ミヒャエル・ハネケのアジア初特集など、映画の過去と未来を伝える企画を実施。近年ではPFF関連作品のみならず、日本のインディペンデント映画の海外紹介にも力を入れ、日本映画の魅力を伝える活動を幅広く展開している。

近浦 啓(Kei Chikaura)
[映画監督]
2013年、短編映画「Empty House」で映画監督としてキャリアをスタート。第2作短編映画「なごり柿」は、クレルモン=フェラン国際短編映画祭に入選。第3作短編映画 「SIGNATURE」は、ロカルノ国際映画祭の短編コンペティション部門にノミネートされる。 長編デビュー作品となる「COMPLICITY」は、第43回トロント国際映画祭でワールドプレミア上映された。同作品は、第19回東京フィルメックス特別招待作品に選ばれた。

【聞き手】
深田晃司(Koji Fukada)
[映画監督/独立映画鍋 共同代表]

●Part.3 会場を交えてディスカッション 12:30-13:30

Part.1、2の登壇者全員のディスカッションと参加者のQ&Aを行います。
【総合司会】
土屋 豊(Yutaka Tsuchiya)
[映画監督/独立映画鍋共同代表]

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日 時:11月18日(日)10:00開場 10:30開始(13:30終了予定)
会 場:ビジョンセンター東京有楽町 C・D合同ルーム
東京都中央区銀座1-6-2 銀座Aビル3階
東京メトロ有楽町線 銀座一丁目駅(6番出口)から徒歩1分
料 金:一 般 1000円/映画鍋会員 500円
※予約不要・先着順/混雑状況によっては、立ち見や入場をお断りする場合もございます事を予めご了承下さい。

お問い合わせ:特定非営利活動法人独立映画鍋
070-5664-8490(11:00~18:00) info@eiganabe.net

ナデリ監督×入江悠監督 スペシャル対談トークショー

■日時:11月19日(月)開場17:10/トークショー開始17:30
■会場:有楽町朝日ホール スクエアB (東京都千代田区有楽町2-5-1有楽町マリオン11F)
■登壇者:アミール・ナデリ監督、入江悠監督
■入場無料 当日、先着順での入場となります。定員に達し次第、締め切りとなります。

11月17日(土)から25日(日)まで開催される第19回東京フィルメックスにて、特集上映が予定されているアミール・ナデリ監督。これを記念してスペシャル対談トークショーを行います。対談相手には、『SR サイタマノラッパー』『22年目の告白 私が殺人犯です』『ビジランテ』などを監督し、11月23日(金)から新作『ギャングース』の公開を控える入江悠監督。『ギャングース』を鑑賞されたナデリ監督が本作を気に入った経緯からこの対談トークショーが決定しました。このお2人での対談トークショーは初めての顔合わせとなります。お互いの作品の話から映画作りについてたっぷりと語って頂きます。

【アミール・ナデリ Amir NADERI】
1945年、イランのアバダン生まれ。アッバス・キアロスタミやモフセン・マフマルバフらとともにイラン映画が国際的に脚光をあびるきっかけをつくった。テヘランでスチール・カメラマンとして活動後、「Khoda Hafez Rafig (Good Bye Friend)」(71)で映画監督デビュー。『ハーモニカ』(74)以降は主に児童青少年知育協会をベースに活動する。『駆ける少年』(86)、『水、風、砂』(89)は両作ともナント三大陸映画祭グランプリを受賞、世界的にも高く評価された。その後アメリカに移住、現在はニューヨークを拠点に活躍している。日本でも劇場公開された『マンハッタン・バイ・ナンバーズ』(93)、カンヌやサンダンスで上映された「A, B, C … Manhattan」(97)、『マラソン』(02)はニューヨーク三部作として高い評価を得ている。東京フィルメックスでは『マラソン』の他、『サウンド・バリア』(05)、『ベガス』(08)、『CUT』(11)、「山<モンテ>」(16)を上映。『CUT』は日本、「山<モンテ>」はイタリアで撮影された。監督最新作「マジック・ランタン」(18)はヴェネチア映画祭で上映された。

【入江悠 Irie YU】
1979年、神奈川県生まれ、埼玉県育ち。03年、日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。自主制作による『SR サイタマノラッパー』(09)が大きな話題を呼び、ゆうばり国際ファンタスティック映画オフシアター・コンペティション部門グランプリ、第50回映画監督協会新人賞など多数受賞。その後、同シリーズ『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(10) 、『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)を制作。『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(11) で高崎映画祭新進監督賞受賞。その他に、『日々ロック』(14)、『ジョーカー・ゲーム』(15)、『太陽』(17) 、『22年目の告白-私が殺人犯です-』(17)、『ビジランテ』(17)など話題作を次々と手掛けている。最新作『ギャングース』は23日公開。

【追悼・寺尾次郎さん】

今週6月6日に、字幕翻訳家の寺尾次郎さんがお亡くなりになりました。

東京フィルメックスとのご縁では、映画祭期間中は、会場にも何度もご来場され、ゲストや他の来場の映画関係者と交流されていた姿が印象的です。加えて光栄なことに、東京フィルメックスでは毎年必ず上映作品の字幕翻訳を寺尾さんにご担当いただいていました。昨年の第18回東京フィルメックスでは特別招待作品で上映されたジャ・ジャンクー、ウォルター・サレス等が<時間>をテーマに参加したオムニバス「時はどこへ?」が、寺尾さんに字幕をご担当いただいた最後の作品になってしまいました。
また、現在では東京フィルメックスでも恒例のイベントとなっている「字幕翻訳セミナー」。2009年に初めて開催した際、イベントの発起人で中国語通訳・翻訳家の樋口裕子さん、アテネ・フランセ文化センターの赤松さんと共同で講師を務められたのも寺尾さんでした。現場の制作者、翻訳者による貴重な証言を詰めかけた聴衆と共有いただき、貴重な機会となりました。
突然のお別れとなり驚きとともに深い悲しみで一杯ですが、寺尾さんの東京フィルメックスへの長年のご厚情に感謝申し上げるとともに、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
東京フィルメックス一同

【お知らせ】木下グループが東京フィルメックスを支援

このたび、開催中のカンヌ映画祭にて5月9日、木下グループが国際映画祭

「東京フィルメックス」を支援することが発表されましたのでご報告いたします。

発表会には木下グループを代表してキノフィルムズの武部由美子社長と東京フィルメックスの市山尚三プログラム・ディレクターが出席し、現地の映画祭に参加中の国内外の映画・メディア関係者に向け、今年11月に開催する国際映画祭「第19回東京フィルメックス」が木下グループの特別協賛の支援を受けて開催されることを発表しました。

市山プログラム・ディレクターコメント

「東京フィルメックスの新たな出発に際し、木下グループのご支援を得られることになりました。東京フィルメックスは、引き続き、創造性溢れる新たな才能を紹介していきます。」

*第19回東京フィルメックスは、2018年11月17日(土)〜25日(日)、有楽町朝日ホールほかで開催いたします(予定)。

 

*フィルメックスでは皆様からのご寄付を受付しております。
特例認定NPOのフィルメックスへの寄付は、税制優遇の対象になります。

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