11月28日(木)、有楽町朝日ホールでコンペティション作品『昨夜、あなたが微笑んでいた』が上映された。本作は、カンボジアの首都プノンペンにある集合住宅「ホワイト・ビルディング」が、1963年の建造から半世紀を経た2017年に取り壊されていく様子と、そこに暮らす人々の最後の日々を追ったドキュメンタリーである。上映後には、ニアン・カヴィッチ監督と編集を担当したフェリックス・レームさんがQ&Aに登壇。客席からの質問に答える形で、制作の舞台裏を語ってくれた。
壇上に姿を現したカヴィッチ監督は、まず本作誕生の経緯を明かしてくれた。元々はドキュメンタリーを製作するつもりではなく、2016年に自身が生まれ育ったホワイト・ビルディングを題材にした劇映画を企画していた。ところがその後、政府が取り壊す計画を発表。そこで「人々が荷造りをして退去していき、建物が取り壊されるまで、すべての瞬間を記録してみようと考えました」。
これと並行して、予定していた劇映画の製作も進めるが、そちらは準備に時間を要した。そのため、フラストレーションがたまったこともあり、プロデューサーに「撮影した映像を何かに活用できないか」と相談。また、東京フィルメックスの関連事業「タレンツ・トーキョー」などのワークショップに参加して、撮影した映像を披露したところ、「ドキュメンタリーにしないのか」と聞かれることもあったという。
こういったことが本作の誕生に結びついたことから、カヴィッチ監督は「劇映画の製作に時間がかかりすぎることが、ドキュメンタリー製作の後押しになったのかも」と振り返った。また、予定していた劇映画の方も無事に撮影が終わり、これからレームさんと一緒に編集作業に入る予定だという。
続いて、話題は撮影した映像を1本の映画にまとめる編集作業に移る。当初は、カヴィッチ監督が自分で撮影した50時間ほどの映像を元に、自ら編集に着手したものの、「全て同じように見え、違いが見えなくなった」。そこでプロデューサーに相談したところ、「カンボジア人以外の人に編集をお願いしてみたら」とアドバイスを受けたことで、レームさんに編集を依頼することになったという。
この言葉を受けてレームさんは、カヴィッチ監督から依頼を受けた時のことをまず振り返ってくれた。
「最初は、いくつかのシーンを編集してみてくれないかと言われましたが、それでは意味がないと思い、一緒に映像を見て、話し合おうと提案しました」。
カヴィッチ監督によれば、撮影時は荷造りをして退去していく人々や、カメラの前で話をする人々の姿を記録することだけを考えていたため、ストーリーは特に決めていなかったとのこと。だが、映像を見ながらレームさんと話し合う中で、「記録の映画にする」という方針が決定したのだという。
映像を見たときの印象を「フレームの取り方や長回しの多用が印象的で、静けさや哀愁のようなものを感じました」と振り返ったレームさん。そこで、最初の編集では、監督のこだわりを尊重し、長回しの映像を多く取り入れてみた。ところが、それを見た人から、「建物(ホワイト・ビルディング)がなくなる理由がわからない」などの指摘を受けたため、監督のこだわりと観客に物語を伝えるバランスを意識して、さらに編集を進めたとのこと。
このほか、自身のこれまでの映画制作のキャリアやカンボジアにおける歴史的建造物保存の現状など、様々な質問に丁寧に応じてくれたカヴィッチ監督。「影響を受けた映画監督は?」との質問には、「気に入れば、なんでも見ます」と答えながらも、アピチャッポン・ウィーラセタクン、ホウ・シャオシェン、小津安二郎、アッバス・キアロスタミといった名前を挙げ、アジアの作家に強く影響を受けている様子が伺えた。
(文・井上健一、写真・白畑留美)
ニュース/デイリーニュース
11/23 『夜明け』バリアフリー上映会 トークイベント
11/23 『夜明け』バリアフリー上映会 トークイベント
ヒューマントラストシネマ有楽町
広瀬奈々子(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
根本 理恵(通訳)
日本 / 2019 / 113分
監督:広瀬奈々子(HIROSE Nanako)
11/29 『ビリケン』Q&A
11/29 『ビリケン』Q&A
有楽町朝日ホール
阪本 順治(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
日本 / 1996 / 100分
監督:阪本順治(SAKAMOTO Junji)
Japan / 1996 / 100min.
Director: SAKAMOTO Junji
11/29 『波高(はこう)』Q&A
11/29 『波高(はこう)』Q&A
有楽町朝日ホール
パク・ジョンボム(監督)
パク・ジョンヨン(俳優)
チェ・ジョンモ(俳優)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
延智美(通訳)
韓国 / 2019 / 89分
監督:パク・ジョンボム(PARK Jung-Bum)
South Korea / 2019 / 94min.
Director: PARK Jung-Bum
11/28 『昨夜、あなたが微笑んでいた』Q&A
11/28 『昨夜、あなたが微笑んでいた』Q&A
有楽町朝日ホール
ニアン・カヴィッチ(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
大倉 美子(通訳)
カンボジア、フランス / 2019 / 77分
監督:ニアン・カヴィッチ(NEANG Kavich)
Cambodia, France / 2019 / 77min.
Director: NEANG Kavich
11/28 『ヴィタリナ(仮題)』Q&A
11/28 『ヴィタリナ(仮題)』Q&A
有楽町朝日ホール
ペドロ・コスタ(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
松下 由美(通訳)
ポルトガル / 2019 / 124分
監督:ペドロ・コスタ(Pedro COSTA)
配給:シネマトリックス
Portugal / 2019 / 124min.
Director: Pedro COSTA
11/28『ふゆの獣』舞台挨拶
11/28『ふゆの獣』舞台挨拶
有楽町朝日ホール
内田 伸輝(監督)
高木 公介(俳優)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
日本 / 2010 / 92分
監督:内田伸輝(UCHIDA Nobuteru)
配給:マコトヤ
11/30 VRプログラム監督のトークイベントを行います!
ヤイール・アグモン監督が緊急来日!フィルメックス初のVRプログラム『戦場の讃歌』のヤイール・アグモン監督を迎えてのトークイベントを行うことを急遽決定!
16:00 トークイベント「VRプログラム『戦場の讃歌』について監督に聞く。」 |
東京フィルメックス初めてのVRプログラム、『戦場の讃歌』のヤイール・アグモン監督を迎えてのトークイベントを行います。 |
会場:有楽町マリオン11F 有楽町朝日スクエアB 入場無料・日本語通訳アリ ※No English translation available |
戦場の讃歌 Battle Hymn |
イスラエル / 2019 / 11min. Director:ヤイール・アグモン(Yair AGMON) |
毎晩多くのイスラエル国防軍(IDF)の兵士たちがヨルダン川西岸地区のパレスチナの村でたくさんの拘束任務を行っている。イスラエル国防軍の根本的なルーティーンが一時的なピークに達するのを、映画「Battle Hymn(讃歌)」は観客にみせる。そこには男らしさと恥、強さと弱さ、卑しさと権力が混在する。こうしてこの映画は、現実と非現実、そして私が家と呼ぶこの狂った悲しいシュールな場所について物語るのだ。2019年ヴェネチア国際映画祭にて上映。 © 2019 Yalla films – Tal Bacher &Yair Agmon, All Rights Reserved |
フィルメックス会期中、有楽町マリオン9Fの「コニカミノルタプラネタリア TOKYO」にあるVirtuaLinkにてVRのプログラムを実施しています。
会場:コニカミノルタプラネタリア TOKYO VirtuaLink
東京都千代田区有楽町2-5-1 有楽町マリオン9階
料金:1,000円
※コニカミノルタプラネタリア TOKYOの会場ではチケットは販売いたしません。あらかじめセブンチケットにてご購入ください。(チケットは11/16(金)AM0:00~発売予定です)
VRプログラム上映
11/23(土)~12/1(日)
各日11:30~開場 12:20~開場 20:30~開場
※必ず開場時間までに上映会場にお集まりください
上映作品:「戦場の讃歌」 Battle Hymn
イスラエル / 2019 / 11分
監督:ヤイール・アグモン(Yair Agmon)
※日本語字幕ナシ、英語字幕付き
【レポート】トーク「審査員サマル・イェスリャーモワさんに聞く」
第20回東京フィルメックスの特別企画とて、トークイベント「昨年度最優秀作品『アイカ』主演女優、サマル・イェスリャーモワに聞く。」が行われた。
サマル・イェスリャーモワさんは、第19回東京フィルメックス最優秀作品『アイカ』の主演女優であり、昨年のカンヌ映画祭で主演女優賞を受賞した。そして、今年第20回フィルメックスには審査員として来日。
『アイカ』は、キルギス人であるアイカが大雪の舞うモスクワで過酷な不法移民としての生活が厳しく描かれた、セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督作品である。ドヴォルツェヴォイ監督とは、『アイカ』の前作でカンヌ映画祭「ある視点」賞を受賞、東京国際映画祭でもグランプリを受賞した『トルパン』でもタッグを組み、ドヴォルツェヴォイ監督10年ぶりとなった新作『アイカ』でもサマルさんが主演のアイカ役を務めた。
サマルさんは、「こんにちは(日本語)。日本に来れてとても嬉しいです。以前も『トルパン』が東京国際映画祭に出展した際に一度来日させていただきましたが、今回市山さんにお招きいただき、第20回東京フィルメックスの審査員として招待していただいたことをとても光栄に思っています」と挨拶された。
『トルパン』からサマルさんと日本との縁が続いており、2020年に劇場公開が決まった新作『オルジャスの白い馬』は、カザフスタンと日本の合作映画であり、森山未來とのダブル主演が話題となっている。
市山ディレクターは、第19回東京フィルメックスに来日されたドヴォルツェヴォイ監督とお話した時に『アイカ』が数年に渡って撮影されたと聞いて驚いたとし「実際どれくらいの期間にどのように撮影されたのか」を問うと、イェスリャーモワさんは「『アイカ』は6年という歳月がかけられています。しかし、映画の中での時間軸が出産直後の女性のとても短い期間となっているので、撮影の際に毎回その状態に戻らなければならなかった」と答えた。
実際、撮影の際にサマルさんは出産後の女性の身体を演じるために錘をつけて雪の中を走ったり、わざと疲れるように運動してから撮影に挑んだ。「疲れ過ぎても演技に支障が出てしまうので、そのバランスを取るのが難しかった」と語った。
長期間の撮影になった理由としてドヴォルツェヴォイ監督の映画の中での天候に対するこだわりがあったことも語り、毎年冬の大雪の日を狙って撮影されていたことを説明した。
また、もう一つの理由として、『アイカ』の時代設定が1990年代であり、旧ソ連が崩壊したロシアに周辺から逃げてきた不法滞在者を描いた作品であることにもこだわった。ドヴォルツェヴォイ監督は撮影の中で出てくるサマルさん以外の不法滞在者役を本当の不法滞在者に依頼していたという。
「彼らは本当の不法滞在者であったため、撮影中に警察に捕まってしまったり、仕事がなくなり国へ帰ってしまったりすることがありました。そうした理由からカットせざるを得なくなったシーンを役者を変えてもう一度取り直すこともあったのです」とサマルさんは明かした。
こうした過酷な撮影があったからこそ、臨場感溢れる作品が生まれたのだと市山ディレクターは述べた。
観客からは絶賛のコメントと共に、「ラストシーンでアイカが赤ちゃんをどうするかといった究極の選択を迫られるような難しいシーンが沢山ある中で女優として演じたサマルさんはどのような思いで演じられていたか」と問われると、「アイカはたしかに望んで母親となったわけではなかったが、ラストシーンによってアイカと赤ちゃんの絆はまた結ばれることになったというのが監督の考えでした。多くの恵まれない女性たちが不幸の中、子を捨てなければいけないという現実がある中で、それでも人間の心を忘れないということが大切なのだということをアイカを演じながら学びました」と語った。
2020年上映される新作『アルジャスの白い馬』は、『トルパン』でドヴォルツェヴォイ監督の助監督を務めていたエルラン・ヌルムハンベトフが監督を務めている。
市山ディレクターから主演に選ばれた時のことを聞かれるとサマルさんは、「エルランさんからは『アイカ』の撮影中の時から『オルジャスの白い馬』の主演はサマルさん以外いないから出て欲しいと言われていました。そして、去年のカンヌ国際映画祭で実際にお話しし出演を決めました」と当時のことを語った。また、「『アイカ』とは異なり、『オルジャスの白い馬』はプロフェッショナルな俳優たちと共演しました。中でも全編をカザフ語で演じた森山未來さんとの演技には驚き、感動しました」と語った。
限られた時間の中、濃厚なトークイベントとなった等イベントは、会場に訪れた人々に惜しまれながらも大きな拍手で幕を閉じた。
『オルジャスの白い馬』は、韓国の第24回釜山国際映画祭オープニング作品としても上映された。
日本では2020年1月18日(土)より、新宿シネマカリテほか全国ロードショーが決定。
(文・柴垣萌子、写真・明田川志保)
11/27 『熱帯雨』Q&A
11/27 『熱帯雨』Q&A
有楽町朝日ホール
アンソニー・チェン(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
松下 由美(通訳)
シンガポール、台湾 / 2019 / 103分
監督:アンソニー・チェン (Anthony CHEN)
Singapore / 2019 / 103min.
Director: Anthony CHEN