【レポート】『迂闊な犯罪』リモートQ&A

11月2日、コンペティション部門『迂闊な犯罪』がTOHOシネマズ シャンテ スクリーン1で上映され、上映後には、アメリカに滞在しているシャーラム・モクリ監督とリモートでQ&Aが行われた。本作は、イランの映画館レックス劇場の放火事件をモチーフに、現在のイラン社会をシネマ・イン・シネマの形式で描いた作品。リモートスクリーンに登場したモクリ監督は、「劇場まで足を運んでいただきありがとうございます。劇場で映画を観ることが夢のようなことになっていますが、みなさんと一緒に劇場に座って映画を観られるようになることを願っています」と観客に挨拶した。

まず、映画の中に映画が入れ子のように組み込まれている複雑な構成について説明を求められたモクリ監督は、次のように答えた。
「私は基本的にシネマ・イン・シネマの形式を好んでいます。アッバス・キアロスタミ監督の『クローズ・アップ』(’90)や『オリーブの林をぬけて』(’94)でもこの手法が取られていましたし、シネマ・イン・シネマをいつか試したいと思っていました。レックス劇場の事件を題材にしたいと思っていたところ、これこそシネマ・イン・シネマで撮りたいと考えました。」
 
複雑な構成にも関連するが、本作では時間軸が螺旋のようにずれる。モクリ監督は、「過去の事件のキャラクターたちを現在に置き換えて語ろうとすると、過去と現在を行き来できるように時間軸をずらすことを思いついた」と語った。
 
続いて、タイトル(英題:Careless Crime)に込められた背景や意図について話が及んだ。レックス劇場の火災事件については、反体制運動を抑圧する目的で反体制派にその責任を押し付けようとする政治的な側面から説明されることが多いそうだが、モクリ監督は、事件当日に一体何が起こったのかということを解き明かすために、自ら裁判資料などを調査したという。その結果、政治的なものではなく、単なる不注意で起こった事件ではないかと考えるようになったとか。劇中でも使用されているサイレント映画『The Crime of Carelessness』(1912年、ハロルド・ショウ監督)には、不注意で工場が燃えてしまうという設定があることから、本作のタイトルはそれに倣ったという。
 
一方、事件当日のレックス劇場で上映されており、本作でも映画内映画として引用されているマスード・キミヤイー監督の『鹿』(‘74)は、革命後、公開が許可されていないという。革命前に制作された映画作品の多くは、革命後に許可されておらず、その理由としては、革命前の映画に登場する女性がスカーフを被っていないなど、革命後の社会の変化とも関連しているとのこと。

続いて、撮影時のカメラとライティングについての質問に移った。照明を直接カメラに当てて、画面が白くなる場面があるが、どのような効果を狙っているのかと問われると、モクリ監督は、3つの狙いがあったことを明かしてくれた。その3つの狙いとは、映画館の映写機のような光を表すこと、炎を感じさせる光を表すこと、混乱した精神の状態を表すことだったという。また、本作は異なる時間と異なる場所が複雑に絡み合う構成のため、複数のカメラを使用したと思われる本作だが、実際に使用したカメラは1台のみだったとか。フォローショット、フィックスショットなどテクニックを駆使し、いろいろな角度からシーンを撮っているため、複数のカメラで撮影したかのように見えるとモクリ監督は説明した。
 
最後にモクリ監督は、「素晴らしい質問をありがとうございました」と観客に謝辞を述べてQ&Aを締めくくり、観客から大きな拍手が送られた。
 
 
(文・海野由子)
 

【レポート】『不止不休(原題)』リモートQ&A

11月1日、コンペティション部門『不止不休(原題)』がTOHOシネマズ シャンテ スクリーン1で上映され、上映後には、北京にいるワン・ジン監督とリモートでQ&Aが行われた。本作は実在の新聞記者をモデルに、田舎から上京した青年がB型肝炎キャリアに対する社会的差別に着目し、新聞記者として成長する姿を描いたワン監督の長編デビュー作。
 
まず、本作で実在の新聞記者ハン・フードンをモデルにした制作経緯について問われると、ワン監督は社会派作品への熱い思いを次のように語った。
「電影学院を卒業して以来、第1作目ではどのようなものを撮るべきかとずっと考えてきました。電影学院で映画美学を学び、理想としては現実主義的な、社会派の映画を撮りたいと思っていました。中国は広大で、人口も多く、社会ではさまざまな事が起こっています。個人的な問題ではなく、社会的な問題に目を向けて、向き合っていきたいと思いました。主人公の新聞記者はペンを持って社会を見ていますが、私はカメラを持って社会を見ているという点でつながりました。」

続いて、バイ・クーさんを主演に起用した理由について訊かれると、シンプルな理由だと応じたワン監督。とういうのも、脚本を書くときからバイ・クーさんが頭の中にあり、ごく平凡な人の雰囲気が欲しかったという。中国では、バイ・クーさんはネットの短編作品で有名だそう。そうした作品では、毎回、厄介なことに出くわしながらも生きていくという大衆的なイメージがあり、本作の主人公ハン・ドンのイメージにぴったりだったという。
 
次に、2000年代に北京に留学していたという観客から、当時と現在では北京の街が様変わりしているため、撮影に苦労したのではないかと問われた。屋内の撮影については、スタジオを使用していたため、取材を行って、2003年当時の雰囲気を再現することはコントロール可能だったというワン監督。ただし、問題だったのはやはり屋外の撮影で、北京の風景の変化があまりに激しいため、いっそのこと別の場所に変えようかとも考えたとか。しかし、「これは北京でしか撮れない。なぜ多くの人が北京に惹きつけられるのかというのを出さなければならない」と思い直したそうだ。
 
さらに、リアリズムに徹していながら、劇中、ペンと新聞が浮遊するシーンにはどのような意図があるのかと訊かれると、「ふと思いついた演出で、急にアイデアが浮かんだ」と答えたワン監督。中国で2003年を象徴する社会的な出来事として、SARSと有人宇宙飛行の成功の2つが挙げられるそうだが、監督自身、宇宙好きという。「宇宙への夢は人類な壮大な夢で、ハン・ドンの夢は小さな夢だが美しく、夢はどれも同じ。そう考えると、ペンも空中に飛んでもいいのではないかと思いました。こういうシーンの解釈は、見た人の解釈に委ねたいので、自分の解釈を言いたくなかったのですが…」と、ワン監督は少しためらいながらも丁寧に説明してくれた。
 
最後に、このウィズ・コロナ(with Corona)の時期に本作を観ると感慨深いものがあるという観客からは、制作時期はパンデミック前だったのかという質問が挙がった。ワン監督によると、撮影自体は昨年11月から春節(旧正月)頃まで行われ、その時点ではまだパンデミックが明確ではなかったが、ポストプロダクションは完全にパンデミック時期と重なり、すべてリモートで行ったという。「コロナ禍で映画制作を続けるにあたり良かったことは、十分な時間があったということです。試行錯誤しながら、思索により多くの時間をあてることができました。そして、編集スタッフと意見が合わないときは、画面をオフにすればいいだけのことだと言い聞かせました。直接顔を合わせると喧嘩になってしまいますから(笑)」と、ユーモアを交えて語ってくれたワン監督。

ここで時間切れとなりQ&Aは終了した。ほぼ満席の会場では、観客から多くの質問が寄せられ、本作への関心の高さがうかがえた。本作は、詳細な時期は未定ながら、来年日本で公開される予定である。
 
(文・海野由子)
 

【レポート】『水俣曼荼羅』 Q&A

10月31日(土)、TOHOシネマズシャンテにて特別招待作品として原一男監督『水俣曼荼羅』が上映された。本作は日本四大公害病として知られる水俣病の補償を巡って国・県との裁判を戦い続ける患者たちのドキュメンタリーだ。上映終了後、胎児性水俣病患者の坂本しのぶさんのビデオメッセージが上映された。

その後、水俣病の被害者であり「水俣病被害者互助会」の団長である佐藤英樹さん、その妻の佐藤スエミさん、事務局長の谷洋一さんが水俣よりリモート出演した。
まず、市山尚三東京フィルメックスディレクターが映画の感想を尋ねた。英樹さんは「水俣のことよく撮っていた」と語った。スエミさんは「被害者が辛い思いをしている水俣病は今も解決に至らないのは、国・県の心の醜さであるとわかった」と語った。
 
続けて、裁判の最近の状況を問われると、国家賠償訴訟は2020年3月に福岡高裁で8人全員が認められず、上告中であること、また、義務付け訴訟はコロナウイルスの影響に遅れていたが、熊本地裁で2020年11月より再開されるとコメント。
市山ディレクターは「本作は今後全国公開されると、水俣病問題に対する日本の人々の認識が高まると思う。今後の裁判がいい方向になるように祈っている」とコメントし、それに対して、英樹さんは「水俣病は全国的に終わったように報道されているが、まだまだ解決されていないので、まだ解決されていないことや国や県が行っていることを知ってもらいたい」と語った。

 
最後にスエミさんより、「被害者は皆患者であるのに、国・県は認定する人としない人と平気で差別してきた」という現状の訴えから、被害者のことをわかろうとしない行政への憤り。そして、福岡高裁の判決を受けて、「悪いことをした人が勝ち、何も悪くない被害者が負ける。どう考えても間違っていることが日本で起こっているんです。国・県が心を入れない限り水俣病はいつまでも終わらないと思います」と語った。
 
その後、原一男監督、二宮正医師が登壇。まず、二宮さんより「水俣病は学生の時から、30年かそれ以上関わってきました。原さんと出会って、映画をなんとか世に出せたこと嬉しく思う」と語り、「坂本しのぶさんを見てわかると思いますが、原因はチッソがメチル水銀を流したことはわかっていますが、結果はまだ(症状が)進んでいるんです。その中でも生きていることが国・県に対しプロテストだと感じています。死ぬまで生きるしかないから、頑張って生きていかないといけないと思います。また、患者以外の支援者の人も水俣病がなかったら全く普通の生活をしたかっただけなのに、どういうわけか皆さんと違う生活をしなければいけなかった」と声を震わせ語ってくれた。
続けて、原監督より「6時間って長さはかかるんだな、と認めていただけると嬉しいです」と笑顔で語った。

 
市山ディレクターより「裁判の話を追っているストーリーだと思っていたが、途中で二宮さんの医学的な話が語られるシーンがあった。我々が知識的に知らなかったことが明らかにされていて、今に至る問題を提示しているのは予想しなかった」と話した上で、二宮さん出演の経緯を聞いた。
原監督は「二宮さんとは撮影最初からの出会い」だと語った上で、「二宮さんは撮影の途中から裏方さんとして、マイクを持ってもらったりしました。ずっと一緒だったんです」と交友を披露した。
二宮さんは「一番最初から最後まで、編集も一緒」と答えると原監督は「16、7年になるんじゃないか」と回顧していた。
 
会場からの質疑応答に移った。まず、タイトルの「曼荼羅」に込められた意味についての質問が挙がった。原監督は「私がやるまでは土本典昭監督が作医学としての水俣病をテーマにした三部作を作っていらっしゃった。しかし、私は医学にまとめる発想はやめようと思った」と語り、「水俣病は患者だけじゃなく、医学者もジャーナリストも映像の作り手も全部ひっくるめて一つの水俣病世界がある気持ちを込めて作ったので、曼荼羅というタイトルがぴったりすると思っています」と答えた。
 
続いて、作品をここで完成にしようと思った判断についての質問に対し、気になっている人やエピソードを15年通って「ここまでかな、と自然に思えたところで終わりにしよう」と原監督。
 
撮影のきっかけについて、大阪電気通信大学の事務局長が関西訴訟の支援をしている人が誘ってくれたそうだ。「100万円出すという話だったが、1,000万円以上出してもらうことになりました」と話すと会場から笑いが漏れた。

作品に取り組まれて、人が人たる所以をどのように捉えられたか、という問いに対して、まずは二宮さん。「水俣病は人が壊されていった歴史だと思います。人が人じゃなくなっている方向に動いている気がします。峠三吉の原爆の詩の中で“にんげんをかえせ”ってありましたが、私もそういう気持ちがあります」。原監督は「二宮さんの人が人でなくなる、という言葉は簡単に言ってしまうと誤解を与えやすいので、丁寧に説明しないといけない」と観客に語りかけ「人が人でなくなるというのは本作のとても大きなメッセージです。映画の中では五感がやられると表現していますが、それだけじゃ足りません。つまり、人が言っていること、考えていることを理解し、受け止め、整理をする。そして、自分の考えを相手に伝えるというコミュニケーション」と説明し、二宮さんは何かを判断をする脳の中枢に障がいが起こっていると補足した。
原監督は「人間が文明を作ってきた。文明を享受するのは五感」と前置いた上で「今、南極で泳いでいる魚の体内にメチル水銀が発見されているというデータがあります。メチル水銀を含む魚が泳ぎ回っているということは水俣病が地球上至るところで広がっていく可能性を持っているということ。そして文明を享受できなくなるということは人間が人間としての優位性を破壊されることを意味します。従って、日本の中で受け止めるのではなく、全地球規模の問題なんです」と訴えた。

観客からの作品の尺を削る際に気にした点はあるか、という問いについて「シリアスなテーマで扱おうが、エンターテイメントとして作らないと誰も見てくれない」ことを念頭に、「メッセージをきちんと入れつつも、6時間飽きずに面白かったよと言ってもらえるかどうかという感覚があります」と原監督。
 
最後に市山ディレクターがお二人にコメントを求められ、二宮さんは「自分のやったことは論文で残しました。さらに映像として残っていくのは、後の人がすぐに見られるのでありがたいことだと思います」とコメント。原監督は「正直に言いますと、いい映画だとしても興行が始まったらお客さんが来ないのかもしれないという不安があります。めげずに戦いますが、(観客のみなさんがたくさんの人に)見てと言って、背中を押していただけたらありがたいです」とコメント。
 
原監督のユーモラスな回答に笑いが起きつつも、水俣病の現状について改めて考えさせられる質疑であった。本作は2021年公開が決定している。
 
(文・谷口秀平、撮影・明田川志保)

【レポート】「愛のまなざしを」 Q&A

10月30日(金)、有楽町朝日ホールにて、第21回東京フィルメックスのオープニング作品として、万田邦敏監督の『愛のまなざしを』が上映された。6年前に妻を亡くした喪失感に苦しむ精神科医・貴志と、彼に心を寄せる謎めいた患者・綾子の愛憎をスリリングに描いた作品。貴志役を『UNLOVED』『接吻』でも主要人物を演じた仲村トオルさん、綾子役は本作のプロデューサーも兼ねる杉野希妃さんが演じ、『UNLOVED』(2002年)、『接吻』(2008年)に続いて万田監督と妻の万田珠実さんが共同脚本を手掛けた。

舞台挨拶には万田監督、仲村さん、杉野さんと、妻役の中村ゆりさん、共演の片桐はいりさんが出席した。万田監督は「出演者のみなさんがとてもいい、すごくいいです」と開口一番キャストを称賛。「今日来て下さった方々、それから斎藤工さん。脇で出て下さった方たちも、それぞれみんなとてもいい。『この人いいなぁ』『この人誰だろう。ちょっとこれから気にしておこう』ということになっているので、そのあたりもぜひ見ていただきたい」と呼びかけた。

 
万田監督とは4度目のタッグとなる仲村さんも、「期待以上の作品に仕上っていると思います」と断言。杉野さんは「もともと万田監督のファンで、特に脚本家の珠実さんとご一緒の作品が好き。万田節を思いっ切り出していただきたいと思い、こういう形になりました。実際にご一緒して、今までにないことを求められ、すごく新鮮でエキサイティングでした」。中村さんも「監督の世界観が明快なので、こちらはただ身を委ねるだけ。万田ワールドを体験できて楽しかったです」と振り返った。
 
観客として東京フィルメックスに毎年通っているという片桐さんは、「今回ここに立っていることにちょっとびっくりしています」とあいさつ。「トオルさんから監督のことを『すごく怖い』『すごく細かい』と聞いていたので、どんな目に遭うんだろう、と。最初の演技で『あ、ちょっと違うかも……』と思ったら、『ちょっと違いますね』とすぐおっしゃったので、この監督の言葉には従って行こうと思いました」と告白。「作品はこれから客席で拝見しますが、ここに呼ばれたということは(出演場面が)カットされていないと思うので、安心しています」と語り会場の笑いを誘った。

 
上映後のQ&Aには万田監督、仲村さん、杉野さんの3人が登壇した。新型コロナウイルスの感染対策で、質問は客席からの口頭ではなく、スクリーンに投影したQRコードのサイトに書き込んでもらう方式を採用した。
 
質問を寄せてもらう間、市山ディレクターが製作の経緯などについて尋ねた。万田監督によると、杉野さんから「精神科医と患者が恋に落ちる」という基本設定を提案されたのが出発点。「杉野さんのアイデアに妻の珠実が手を加えて話を作っていきました。斎藤工さんが演じた義弟の存在なども珠実が考えてくれたと記憶しています」という。
 
脚本を読んで、仲村さんは「難しいな」と感じたという。「ただ、万田監督の作品なので、自分が難しさを克服する必要はないだろうとも思った。ちゃんと撮って下さるという絶大な信頼感があったので、撮影のスケジュール以外、ほとんど不安はありませんでした」
 
 
その撮影日程はについては、「かなり濃密というか、ものすごい勢いの撮影だった」と仲村さん。万田監督も相当きついなと思って怖かったのですが、やってみたらスイスイさくさく終わった」という。
 
スムーズな進行で、その日の予定になかった仲村さんの超重要シーンの撮影が突如追加されたことも。「時間が余ったのでトオルさんにやってもらおうと言ったら、『えっ、そのシーンやるの?』って……(苦笑)。もちろんやって下さったんですが、『この重要な芝居をいきなりやらせるのか、お前は』と内心めちゃくちゃ怒っていたのかもしれません。でも、あのシーンはすっごくよかった」と万田監督。「きちんと謝っていなかったので、すみませんでした」と頭を下げる監督に仲村さんも苦笑い。「本読みやリハーサルをクランクイン前にやっていたので、できたのだと思います。監督の撮影は速いけれど、せっかちではない。決断が速いとか、そういう速さです」と付け加えた。

 
会場からは、仲村さんが見せるジグザグ歩きがルイス・ブニュエル監督の『エル』の引用ではないかとの質問が。万田監督の答えはYES。「仲村さんはあそこでジグザグに歩くことを自分の芝居としてどう処理するか、かなり悩まれたみたいですね」と万田監督。「結果的にわからないままやりました」という仲村さんを「わからなさ加減がよかった。狂気に入っていく感じがよく出ていました」とねぎらった。
 
診察室に飾られた印象的なトンネルの絵についても質問があった。万田監督の亡くなった知人の作品で、脚本完成後に診察室に絵を置こうと考えて選んだのだという。「脚本上はラストは別の設定でしたが、絵とリンクさせようと考えて変えました。実際のところ、あの絵がなかったらこの映画は中心点を見つけられなかったのではないか。とても助けられました」。
 
「体の動きを決めたら、心もついてくる」という万田監督の演出術について、主演の2人に尋ねる質問もあった。仲村さんは「僕の受け取り方ですが、心がついていかなくても、それが観客に伝わる感じがします。ほとんどのシーンでそういうものがある。たとえ理解しないままでも、心がついていかなかったとしても、伝わるものは小さくない。それが万田監督の演出にいくつもある素晴らしさの一つだと思います」と信頼を寄せた。杉野さんも「監督から演出された動きがあまりに想像を超えていると、段取りの時に笑ってしまったり。でも、実際に本番でやると、気持ちがついてくるというより、自分が想像していなかった新鮮な感情が湧くことが多かったです」と万田マジックの魅力を語った。

 
仲村さんはこの日の舞台挨拶の準備で、『Unloved』のメイキング映像を前夜に見返したという。「当時の監督は本当に怖かった。『答えはこれしかないです』という風だったのですが、今回は『答えはこれしかないと思うんですよ、へへっ』と笑いながら演出して下さった気がします」というコメントは、長年培った信頼の深さをうかがわせた。「『Unloved』のメイキングで、当時の自分のインタビューの態度がものすごく感じ悪かったんです(笑)。あの作品の撮影中は、どういう人物になるのかまったく予想できず、その不安からすごく虚勢を張っていたのだと分析しています。『接吻』の時は脚本を読んですごい映画になると思い、試写を見たら予想通りの方向で予想以上にすごい映画になっていた。今回も、予想通りの方向で予想以上にすごい映画になっています」
 
「愛のまなざしを」は映画は来年春に劇場公開予定。
(文・深津純子、写真・明田川志保)

11/02『無聲(むせい)』Q&A(リモート)


11/02『無聲(むせい)』Q&A(リモート)
TOHOシネマズ シャンテ
コー・チェンニエン(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
湯櫻(通訳)
台湾 / 2020 / 104分
監督:コー・チェンニエン(KO Chen-Nien)
Taiwan / 2020 / 104 min
Director:KO Chen-Nien

11/02『迂闊(うかつ)な犯罪』Q&A(リモート)


11/02『迂闊(うかつ)な犯罪』Q&A(リモート)
TOHOシネマズ シャンテ
シャーラム・モクリ(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
ショーレ・ゴルパリアン(通訳)
イラン / 2020 / 139分
監督:シャーラム・モクリ(Shahram MOKRI)
Iran / 2020 / 139 min
Director:Shahram MOKRI

11/01『不止不休(原題)』Q&A(リモート)


11/01『不止不休(原題)』Q&A(リモート)
TOHOシネマズ シャンテ
ワン・ジン(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
樋口 裕子(通訳)
中国 / 2020年 / 115分
監督:ワン・ジン(WANG Jing)
配給:ロングライド
China / 2020 / 115 min
Director:WANG Jing

10/31 『海が青くなるまで泳ぐ』Q&A(リモート)


10/31 『海が青くなるまで泳ぐ』Q&A(リモート)
有楽町朝日ホール
ジャ・ジャンクー(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
樋口 裕子(通訳)
中国 / 2020 / 111分
監督:ジャ・ジャンクー(JIA Zhang-ke)
China / 2020 / 111 min
Director:JIA Zhang-ke

10/30 『死ぬ間際』Q&A(リモート)


10/30 『死ぬ間際』Q&A(リモート)
TOHOシネマズ シャンテ
ヒラル・バイダロフ(監督)
市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
松下 由美(通訳)
アゼルバイジャン・メキシコ・アメリカ / 2020 / 88分
監督:ヒラル・バイダロフ(Hilal BAYDAROV)
Azerbaijan, Mexico, USA / 2020 / 88 min
Director: Hilal BAYDAROV