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『ムサン日記〜白い犬』舞台挨拶・Q&A
from デイリーニュース2011 2011/11/22
11月22日、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『ムサン日記~白い犬』が上映された。製作・脚本・主演と合わせて4役を務めたパク・ジョンボム監督、出演者のカン・ウンジンさん、ジン・ヨンソクさん、ソ・ジンウォンさんの4名が上映前の舞台挨拶に登場。韓国での脱北者の生活を描きブサン国際映画祭グランプリなどに輝いた本作には大きな注目が集まった。
韓国で暮らす脱北者の重く厳しい現実を描いた作品の上映が終わると、4名のゲストがふたたび登壇し、Q&Aが始まった。パク・ジョンボム監督は司会を担当した市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターの質問に答えて、製作のきっかけとなった出来事を語ってくれた。「この作品の主人公のモデルとなったチョン・スンチョルさんは私の大学の後輩で、2000年に脱北して、2002年に韓国の大学に入学しました。彼の日常生活を知り、幸せになりたいと思いつつもなれないという現実を目の当たりにして、この映画を撮ろうと思いました」
続いて、撮影時の苦労話について出演者の面々が一言ずつ。ヒロイン、スジョン役のカン・ウンジンさんの「大変な撮影でしたが、監督がみんなをまとめて引っ張って行ってくれたので、信じてついていきました」という言葉など、それぞれの思い出話からは、苦労を重ねつつもチームワークの良さで乗り切った撮影の雰囲気が伝わってきた。
劇中では、主人公がしばしば教会を訪れる場面が描かれることから、この点に関する質問がいくつか寄せられた。キリスト教徒のスジョンがやや偽善的に見えるという意見に加え、この映画におけるキリスト教のとらえ方を尋ねられたパク監督。多くの人がキリスト教に批判的だと感じるようだが、私自身は宗教の価値そのものは変わらないと思うと述べた後に、こう続けた。「キリスト教を通して描きたかったのは、宗教を信じているにも関わらず、思い通りに行かない不条理さです。スジョンは、私たちの姿と変わりません。彼女を通して、何かを守るためには何かを犠牲にしなければならないが、本当にそんなことができるのか、人が人を救うことができるのか、ということを描こうと思ったのです」
また、脱北者たちについて監督は、母国への期待を込めて次のように語ってくれた。「この映画に登場するのは、脱北者すべての姿ではありません。今では脱北者も増えていて、年間3,000人ぐらいが韓国にやってきます。もはや特別な存在ではありません。たまたま故郷が北というだけであって、同じ隣人だと考えられるようになれば、差別や偏見がなくなって、彼らも希望が持てるのではないでしょうか」
このほか、危険なシーンの撮影や、多様な解釈ができるラストシーン、資本主義社会の中で生きていく脱北者の苦労など、様々な質問が寄せられたQ&Aは盛況のうちに終了した。
ブサン国際映画祭グランプリのほか、ロッテルダム国際映画祭など、数々の映画祭で受賞したこの注目作は来年初夏、渋谷のシアター・イメージフォーラムで上映予定。
(取材・文:井上健一、撮影:米村智絵、三浦彩香、村田まゆ)
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