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閉会式
from デイリーニュース2011 2011/11/27
11月19日に開幕し、27日に最終日を迎えた第12回東京フィルメックス。有楽町朝日ホールにて閉会式が行われ、観客賞、審査員特別賞コダック VISION アワード、最優秀作品賞など各賞受賞者が発表された。審査員および受賞者のコメントやスピーチは、映画への熱き想いにあふれ、多くの観客の共感を呼び、会場は熱気に包まれた。
各賞の発表に先立ち、東京フィルメックス期間中に実施された映像人材育成プロジェクト「タレント・キャンパス・トーキョー2011」の報告が行われた。本プロジェクトでは、"Beyond Borders"というテーマのもと、映画作家やプロデューサーを目指す15名の若者をアジアから集め、4名のメイン講師によるワークショップや映画監督たちによるマスタークラスを開催。選抜された参加者の企画発表をメイン講師が議論し、その結果、最優秀企画賞はシャン・ローゾン監督の『Song of The Mulberries』に、スペシャル・メンションはアフィク・ディーン監督の『The Boy in White』に贈られた。
続いて、今年度のコンペティション10作品を審査した5人の審査員が拍手で迎えられて登壇した。最初に発表された観客賞は、キム・ギドク監督の『アリラン』に授与された。すでに帰国したキム監督に代わり、本作を配給する株式会社クレストインターナショナル代表取締役の渡辺恵美子さんが登壇し、届いたばかりという監督のコメントを代読。
「オープニングで上映していただいただけでも光栄ですのに、観客賞までいただきありがとうございました。今回の東京フィルメックスで映画への信念を回復し、人間に対する信頼を取り戻しました。私の映画を大事にしてくださるファンの皆さんと、私の映画を日本に紹介してくれた会社に心から御礼申し上げます。観客賞により私は大きな勇気を得ました。どうもありがとうございました」
この後、コンペティション10本の紹介に続き、各賞の受賞へ移った。まず、今年創設された、3人の学生審査員による学生審査員賞は、奥田庸介監督の『東京プレイボーイクラブ』(日本)に贈られた。
次に、審査委員長を務めたアミール・ナデリ監督が挨拶に立ち、他の審査員とともに経験した審査の困難さ、自らも映画作家であるがゆえの共感と苦悩を語りつつ、審査対象となったコンペティション全10作品に賛辞を惜しまなかった。そして、作品監督たちに対する熱いエールを送った。
「すべての映画祭がそうであるように、すべての参加者が喜んで帰れるわけではありません。私も自分の作品が賞を獲れず傷ついたことがありました。しかし、私はこのゲームに乗らざるを得ないのです。賞を獲るか獲らないかはどうでもいいのです。いずれにせよ、映画作家の仕事は、ただ作り続けていくことだけです」
そして、いよいよ審査結果の発表。審査結果審査員特別賞コダック VISON アワードには、パク・ジョンボム監督の『ムサン日記~白い犬』(韓国)が選ばれた。パク監督は、まず審査員への感謝の意を述べ、「この映画が撮れたのは、チョン・スンチョル(主人公のモデル)さんのお陰です。また私に多くの教えをくださいましたイ・チャンドン監督にも心からお礼を申し上げます。寒い冬での撮影にもかかわらず、一生懸命尽くしてくれたスタッフ、俳優の皆さん、そして両親にもこの栄光を捧げたいと思います」と落ち着いた語り口で喜びを語り、客席から惜しみない拍手が送られた。
最優秀作品賞に輝いたのは、ペマツェテン監督の『オールド・ドッグ』(中国)。ペマツェテン監督は、「東京フィルメックスは映画祭らしいとても純粋な映画祭だと思います。このような映画祭で賞をいただけたことがとても嬉しいです。この映画祭にかかわるすべての方々の大きな働きと努力に心から感謝します」と述べた。また、「この映画は、ほとんどが自分の故郷を描いた作品です。この映画を通して皆さんが私の故郷について理解を深めていただければ、とても嬉しいです」と、自らの故郷への想いを託した。さらに、撮影に協力を惜しまなかったプロデューサー、支えてくれた家族、製作にかかわったキャスト、スタッフ、全員に感謝の意を伝えた。最後に「この映画の中に出てきたチベット犬に感謝したいと思います。実は、クレジットには犬の飼い主の名前しか載せていませんが、犬に感謝の気持ちを伝えたいと思います」とチベット犬への思いやりをのぞかせて、会場から温かい拍手が送られた。
各賞の発表が終わり、審査員のスーザン・レイ監督よりスペシャル・メンションとして、社会の隅に追いやられた主人公の人物像を繊細に作り上げた『ミスター・ツリー』(中国)のワン・バオチャンの特筆すべき演技と、『無人地帯』(日本)に映し出された福島の人々への想いが伝えられた。
ここでアミール・ナデリ監督の再登場。「この1週間、数多くの映画を見て、いろいろな人々と出会い、この映画祭の意味を考えてみたいと思います。今この瞬間を、日本映画を世界に広めることに大きく貢献されたドナルド・リチーさんに捧げたいと思います」と、開会式の時と同様に、客席にいた映画評論家で第5回東京フィルメックス審査委員長を務めたリチーさんに敬意を表した。「今、私が申し上げたいのは、すべての映画は素晴らしかったし、大好きだということです。CUT!」と、ユーモアを忘れないコメントで締めくくり会場から喝采を浴びた。
最後に、林加奈子東京フィルメックス・ディレクターから、参加者、関係者、スタッフ、サポーターへの感謝の言葉が述べられ、「映画を楽しめるということは幸せなことです。皆さんのご愛顧に心から感謝します。また来年お会いしましょう」という閉会の辞で式は終了した。
今年も世界中の注目作を集め、「相米慎二のすべて」などの特集上映を含めた充実のラインナップを提供するのみならず、人材育成プロジェクトにも力を入れて9日間を終えた第12回東京フィルメックス。映画の作り手を育てる場、映画の作り手と観客を結びつける場として、さらなる飛躍を目指す東京フィルメックスに今後も期待していただきたい。来年の開催日程は、2012年11月23日~12月2日を予定している。
(取材・文:海野由子、撮影:三浦彩香、永島聡子、米村智絵、村田まゆ)
『ムサン日記〜白い犬』舞台挨拶・Q&A
from デイリーニュース2011 2011/11/22
11月22日、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『ムサン日記~白い犬』が上映された。製作・脚本・主演と合わせて4役を務めたパク・ジョンボム監督、出演者のカン・ウンジンさん、ジン・ヨンソクさん、ソ・ジンウォンさんの4名が上映前の舞台挨拶に登場。韓国での脱北者の生活を描きブサン国際映画祭グランプリなどに輝いた本作には大きな注目が集まった。
韓国で暮らす脱北者の重く厳しい現実を描いた作品の上映が終わると、4名のゲストがふたたび登壇し、Q&Aが始まった。パク・ジョンボム監督は司会を担当した市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターの質問に答えて、製作のきっかけとなった出来事を語ってくれた。「この作品の主人公のモデルとなったチョン・スンチョルさんは私の大学の後輩で、2000年に脱北して、2002年に韓国の大学に入学しました。彼の日常生活を知り、幸せになりたいと思いつつもなれないという現実を目の当たりにして、この映画を撮ろうと思いました」
続いて、撮影時の苦労話について出演者の面々が一言ずつ。ヒロイン、スジョン役のカン・ウンジンさんの「大変な撮影でしたが、監督がみんなをまとめて引っ張って行ってくれたので、信じてついていきました」という言葉など、それぞれの思い出話からは、苦労を重ねつつもチームワークの良さで乗り切った撮影の雰囲気が伝わってきた。
劇中では、主人公がしばしば教会を訪れる場面が描かれることから、この点に関する質問がいくつか寄せられた。キリスト教徒のスジョンがやや偽善的に見えるという意見に加え、この映画におけるキリスト教のとらえ方を尋ねられたパク監督。多くの人がキリスト教に批判的だと感じるようだが、私自身は宗教の価値そのものは変わらないと思うと述べた後に、こう続けた。「キリスト教を通して描きたかったのは、宗教を信じているにも関わらず、思い通りに行かない不条理さです。スジョンは、私たちの姿と変わりません。彼女を通して、何かを守るためには何かを犠牲にしなければならないが、本当にそんなことができるのか、人が人を救うことができるのか、ということを描こうと思ったのです」
また、脱北者たちについて監督は、母国への期待を込めて次のように語ってくれた。「この映画に登場するのは、脱北者すべての姿ではありません。今では脱北者も増えていて、年間3,000人ぐらいが韓国にやってきます。もはや特別な存在ではありません。たまたま故郷が北というだけであって、同じ隣人だと考えられるようになれば、差別や偏見がなくなって、彼らも希望が持てるのではないでしょうか」
このほか、危険なシーンの撮影や、多様な解釈ができるラストシーン、資本主義社会の中で生きていく脱北者の苦労など、様々な質問が寄せられたQ&Aは盛況のうちに終了した。
ブサン国際映画祭グランプリのほか、ロッテルダム国際映画祭など、数々の映画祭で受賞したこの注目作は来年初夏、渋谷のシアター・イメージフォーラムで上映予定。
(取材・文:井上健一、撮影:米村智絵、三浦彩香、村田まゆ)
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