11月23日(水)、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『よみがえりの樹』が上映され、上映後のQ&Aにチャン・ハンイ監督が登壇した。作品の舞台は中国山間部の村。数年前に亡くなった女性シュウインが息子レイレイに憑依し、自分の夫に対し、願いを伝える。本作はジャ・ジャンクー監督が若手監督作品をプロデュースする「添翼計画」の最新作であり、チャン監督のデビュー作である。
まず、司会の市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターが製作の経緯を訊いた。本作の舞台ともなった監督の故郷の黄土高原地帯は、冬は娯楽もなく、何もすることがない土地だという。「子どもの頃は村の大人が話してくれる怪談を聞くのが楽しみで、その中には憑依や輪廻転生といったエピソードが出てきた。それが本作のストーリーの核となっています」とチャン監督。そのため、祖母が亡くなった時は「とても悲しかったけれど、生まれ変わって来世で会えるかもしれない、ということが慰めになりました」と話した。その後、怪異文学の古典『聊斎志異』に出会い、自分が聞いていた伝承と重なる部分が多いと気づいたそうで、この作品ではそのような物語の世界に自分の想像力を盛り込んでビジュアル化した、と説明した。
「ヤギを殺す場面は観ていてつらいものがあった」という観客から、そのシーンの意図を尋ねられると、チャン監督は「動物を屠るという行為は、村ではよくあることです」と答え、「特別な日にはヤギを殺し、お供えしたりみんなで食べたりします。一滴の血も流さずに屠殺するのは技術が必要で、パフォーマンスでもありました」と説明した。その一部始終を長回しで入れたのは、人生の残酷さを強調して表現したかったからだと答えた。「このような場面を目にすれば、前世がどのようなものだったのか、考えずにはいられなくなるのではないでしょうか。輪廻転生の中では、どんな生き物に生まれ変わるか選ぶことはできない。そのような運命の残酷さを表現したかった」と監督。
次の質問は、中国語の原題『枝繁葉茂』について、「一種の幽霊譚といえる本作にはどこかそぐわない印象を受けるが、どのような意味を込めたのか」というもの。
それに対し監督は、「亡霊であるシュウインは生前叶えられなかった思いを遂げるために転生した。自分の人生が失敗だったと思っているのです。偉大な人物であれば、後世の人びとがその事績を残してくれるでしょう。しかし、名もない庶民はこのように思いを遂げるしかないのかもしれません」と語った。亡霊は、自分が村で生きていたという証として、木を残していく。「木が生い茂るように、人びとも生きる意味を見いだせることができるだろうという希望を込めてつけたタイトルです」
ヤギが木に登るシーンについて訊かれると、監督は「ヤギが木に登ることは、むざむざと殺される運命に抗っていることを示しています」と語った。この作品を撮ろうと思ったのは、監督が26歳のときだったという。「いま思えば、その頃は輪廻転生や人間の運命の意味をわかっていなかった。運命に任せて生きるのか、打ち破ろうとするのか…どちらが正しいのかまだ答えは出ていません。人生についてどのように考えるか、どのような選択をするか、一人一人違うもの。この映画に登場する人間や動物たち、石でさえ、それぞれのやり方で運命に向かい合っているのです」と付け加えた。
チャン監督が描く世界観に観客からの興味は尽きなかったがQ&Aはここで終了。質問に対し、丁寧に応じるチャン監督に温かい拍手が贈られた。
(取材・文:谷口秀平、撮影:明田川志保、吉田留美)