11/23 『アイカ』 Q&A


11/23 『アイカ』 Q&A
有楽町朝日ホール

セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ(監督)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
佐野 伸寿(通訳)

ロシア、ドイツ、ポーランド、カザフスタン、中国 / 2018 / 114分
監督:セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ (Sergei DVORTSEVOY)
配給:キノフィルムズ

Ayka
Russia, Kazakhstan / 2018 / 114 min.
Director: Sergei DVORTSEVOY

11/22 『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト』 Q&A


11/22 『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト』 Q&A
TOHOシネマズ 日比谷

シャン・ゾーロン(プロデューサー)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
樋口 裕子(通訳)

中国、フランス / 2018 / 140分
監督:ビー・ガン(BI Gan)
配給:リアリーライクフィルムズ / ガチンコ・フィルム / シネフィル

Long Day’s Journey into Night
China / 2018 / 140min.
Director: BI Gan

【レポート】『夜明け』Q&A

11月21日(水)、有楽町朝日ホールにてコンペティション部門の『夜明け』が上映された。本作は、是枝裕和監督のもとで演出助手を務めてきた広瀬奈々子監督の長編デビュー作で、地方の町に現れた青年をめぐる人間関係の中に生じる複雑な感情の機微を紡いだ作品。上映後には広瀬監督が登壇し、「今日はお集まりいただきありがとうございます。先日、完成披露させていただき、Q&Aは日本で初めてなので楽しみです」と少し緊張した面持ちで挨拶した。

まず、市山尚三東京フィルメックス・ディレクターから、原作ベースの作品が多い中で、オリジナル脚本で映画化した本作の着想について訊かれ、広瀬監督は次のように応えた。
「大学卒業の年に東日本大震災があり、就職先が決まらず、悶々とした時期を過ごしながら、社会との関わり方に悩んでいました。その頃のことをベースにしようと考えました。当時、謳われていた絆や家族愛などに懐疑的な視線を加えたいと思い、関係性の美しい部分と闇の部分と両方を見つめようと思いました」
特に具体的な事件やニュースをベースにしておらず、企画を書いては是枝監督に見せるということを十数本繰り返して、ようやく認めてもらえたのがこの企画だったという。「映画化にあたっては、是枝監督からサポートを受けることができ、とてもラッキーでした」と述懐した広瀬監督。

次に、シナリオの書き進め方について、シナリオの構想では最初から結論があったのかどうかという点とアテ書きだったのかという点について話が及んだ。最初から結論があったかどうかという点については、「どこに決着するかわからないまま書き進めていた」と語った広瀬監督。気持ちと行動が一致しないシーンを作りたかったことや、上手く感情表現ができない人間が好きなので拙いまま終わりたかったこと、立ち止まって初めて行先を考え自分の足で自立に向かう終わり方にしたかったことなど、物語の着地点に至るまでの経緯を説明してくれた。

また、アテ書きだったかどうかという点について、小林薫さんに関しては先にオファーしていたそうだが、主人公に関してはアテ書きというわけではなかったという。「なかなか筆が進まない時期に柳楽優弥さんの名前があがり、柳楽さんの顔を思い浮かべると、柳楽さんの生きる欲求のようなものが筆を動かしてくれました」と広瀬監督。ただ、柳楽さんは師匠である是枝監督が見出した俳優だったことから、広瀬監督自身は、柳楽さんを主演に迎えることに抵抗があったそうだが、「その因縁が面白く作用するかもしれない」という予感もあったようだ。

続いて、その柳楽さんにどのような演技指導をしたかという質問があがった。広瀬監督は、「私が指導するというよりも、柳楽さんに引っ張ってもらいました」と述べた。役作りに関しては、柳楽さんが考え過ぎずに現場にいることを望んでいたため、できるだけリアクションに徹する、つまり、周囲のキャラクターに揺さぶられて反応するようにしたという。難しい役どころだったので、何度も話し合いを重ねたとか。

さらにカメラマンとはどういう経緯で組むことになったのかということに話が及んだ。カメラマンの高野(大樹)さんは、是枝監督が懇意にしているカメラマンのお弟子さんのような方で、これまでも何度か一緒に仕事をする機会があったという広瀬監督。「高野さんが撮る画は、被写体と微妙な距離を保ち、被写体に対する奥ゆかしさみたいなものがあって好きです」と述べ、カメラマンとの強い信頼関係に自信をのぞかせた。

ここで、会場で鑑賞していたアミール・ナデリ監督が挙手し、広瀬監督に次のような賛辞を贈った。
「素晴らしい映画をありがとうございました。エンディングも、ペースも、役者の演技も素晴らしかったです。見せすぎず最小限にとどめているところもとても良かったです。これからが楽しみな監督が出てきて、まさに、あなたのような人材が日本の映画界に必要だと思います。今後を期待しています。Cut!」

最後に、広瀬監督は、自身が撮影で一番感動したシーンのエピソードを披露してくれた。それは、主人公が海に出てくるシーンでのこと。「夜が明けてバックショットを撮り終えカットをかけたのに、柳楽さんが海を前にして動こうとせず、今、撮ってくれといわんばかりの背中をしておられたので、慌ててカメラを持って回り込み、光が射す柳楽さんの表情を撮りました。素晴らしいカットが撮れたなと思いましたが、後でご本人に聞いたところ、単に私の「カット」の声が聞こえなかっただけだったそうです」と語ると、場内は笑いに包まれた。

本作は、2019年1月18日より、新宿ピカデリーほか、全国ロードショーが決定している。日本映画界の期待の星、広瀬監督の今後をこれからも見守っていきたい。

追記
『夜明け』は授賞式にてスペシャル・メンション(※)を授与された。
※選外ではあるが特に審査員が触れておきたい作品がある年に授与される

文責:海野由子 撮影:吉田(白畑)留美

【レポート】『アイカ(原題)』Q&A

11月23日(金)、有楽町朝日ホールにてコンペティション作品『アイカ(原題)』が上映された。モスクワの産院から脱走した25歳のキルギス人女性のアイカは、産後間もない体を酷使しながら借金返済のために働き、奔走する。モスクワに出稼ぎに来るキルギス人女性の過酷な日常を臨場感あふれる映像で描いた作品。カンヌ映画祭で上映され、主演のサマル・イェスリャーモワさんが最優秀女優賞を獲得した。
上映後のQ&Aに、セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督が登壇し「本日はありがとうございます。日本で2作目の上映を嬉しく感じます」と喜びを伝えた。

ドヴォルツェヴォイ監督作品の日本での上映は、2008年に東京国際映画祭にて上映された『トルパン』(08)以来。本作のストーリー設定のきっかけは「モスクワの産院で約250人のキルギス人女性が出産した新生児が放棄された」というショッキングなニュースを見たことだという。「私自身カザフスタン出身で、キルギス人女性はこんな冷酷な人達ではないとよく知っていたので、なぜこんな事件が起きたのかと興味を持ち、この設定を思いついたのです」と明かした。

会場からの質問に移ると、主演のサマル・イェスリャーモワさんをキャスティングした経緯と演出について質問が上がった。イェスリャーモワさんはドヴォルツェヴォイ監督の前作『トルパン』(08)でも主役を務めている。今回の主人公アイカは難役で、演じられるのはイェスリャーモワさんしかいないとオファーしたそうだ。「彼女はこの難役を演じられるか心配していましたが、私は逆にその姿を見て、彼女ならやれると確信しました」とドヴォルツェヴォイ監督。

過酷なシーン撮影が続く中で、モチベーションや感情をコントロールしてもらうことは難しかったが、イェスリャーモワさんの持っている才能を引き出すことを心掛けたという。「肉体的にもハードな撮影だったと思うが、常に全力で演じてもらうのは無茶なので、彼女の体調に合わせてシーンを撮影していきました。彼女自身の考えや感覚も尊重しながら彼女の持ち味を引き出せたと思います。独身で子供もいない彼女にとっては未知の世界を演じる不安もあったと思うが、体調面も含めよく演じてくれました」と、主演のイェスリャーモワさんを称えた。

手持ちカメラによる臨場感あふれる映像が強く印象に残る本作。撮影監督は、前作『トルパン』も担当したポーランド人の女性で手持ちカメラのコントロールに長けていたという。さらに監督自身も撮影していたと明かし「今回のカメラワークで特に重要視していたのは、人物の目の動きでした。目の中の風景が語るもの、訴えるかける表現をいかに撮るかということに集中しました。困難な撮影環境の中で、手持ちカメラで被写体を追っていくという撮影をよく成し遂げてくれました。本作は、彼女の中にある目を通して、そこで何が起きているかを表現したかった映画なのです。映画には、見えるものと見えないものがあるが、今回は、見えない部分を重要視したのです」と語った。撮影方法は半分がデジタルで、半分は16mmフィルムで撮影したという。16mmフィルムを使用したのは雪中での撮影に耐えるためで、地下鉄内のシーンでは小さなポケットカメラを活用したと撮影技法の工夫を明かしてくれた。

全編を通して背景にあるのが、豪雪に見舞われるモスクワの厳しい冬の風景。この大雪はもともとの設定だったのかという質問に「当初のシナリオでは春を想定していたのです」と、会場を驚かせたドヴォルツェヴォイ監督。「撮影予定が遅れ、たまたまモスクワで記録的な大雪となった時期にクランクインとなったのですが、私はもともとドキュメンタリー監督なので、この状況を使わなければと感覚で思いました。本作にとって、雪は大きな舞台装置であり、重要な登場人物なのです。雪という存在を通して、人々の生活、生き方を凝縮させた思いを表現できると思いました。主人公のような母親にとって、自然とは人々を育て養うもの、大地の恵みだと感じるのが一般的でしょう。しかし今回は大雪という背景を使うことで、逆に自然の怖さを表現したかったのです」と述べた。

最後に、主人公の背景を説明してくれたドヴォルツェヴォイ監督。「キルギス人女性がモスクワで働くのは、キルギスの1年分の給料を1ヶ月で稼ぐことができるからです。彼らは劇中のシーンのように、狭い部屋にひしめき合って住み、貧しい食事を食べ、一日中働いて故郷へ送金するのです。モスクワは家賃も高く、彼らキルギス人は床があるだけの一間を借りて生活をしているのです」。

本作は、今後国内でも公開を予定している。ニュースだけでは読み取れない、過酷な女性の現実がリアルに描かれた本作、日本でも多くの方へ届いてほしい。

文責:入江美穂 撮影:明田川志保

11/21 『夜明け』 Q&A


11/21 『夜明け』 Q&A
有楽町朝日ホール

広瀬奈々子(監督)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)

日本 / 2018 / 113分
監督:広瀬奈々子 (HIROSE Nanako)
配給:マジックアワー

His Lost Name
Japan / 2018 / 113 min.
Director: HIROSE Nanako

【レポート】『自由行』Q&A

11月22日(木)、有楽町朝日ホールにてコンペティション部門の『自由行』が上映された。本作は、『私には言いたいことがある』(’12)以来7年ぶりとなるイン・リャン監督の新作で、東京フィルメックスでは4作目の出品となる。上映後にはイン・リャン監督が登壇し、「この作品は古い友人と語り合うような意図で作りました。馴染みの観客のみなさんがいるフィルメックスで上映していただくのにふさわしいと思います」と、観客との再会を喜び、監督自身が過ごしてきたこの6~7年間の総括となる本作について語ってくれた。

本作は、当局との問題を抱えたため中国を離れて香港に暮らす女性映画監督が、夫と息子とともに台湾の映画祭に参加する一方で、中国本土からツアー客として台湾にやってきた母親と久しぶりに再会するという物語。中国から香港に移住して創作活動を続けるイン・リャン監督の境遇を投影した作品である。イン・リャン監督は、本作が実際に体験した台湾旅行に基づくこと、実体験で再会したのは自分の妻の親である点が異なることを説明。制作の動機としては、現在5歳の息子が、将来成長して、なぜ祖母に会うために台湾へ行ったのだろうかと考えたときに、本作から解きほどいてもらいたいからだという。また、「中国人は何世代にもわたり苦難に見舞われてきました。国家に対する怖れを直接的に表現することができません。私はその部分を映画で変革したいと思いました」と続けた。イン・リャン監督は来場していた夫人と息子さんを観客に紹介し、観客から温かい拍手が寄せられた。

また、劇中の女性監督が自らを「異邦人」と称する場面について、イン・リャン監督は次のように説明した。「人生の中で、自由というものに価値があるとするならば、自由を得られないということは、すなわち失望です。故国に自由がなければ、自由の価値を手放すか、あるいは、手放さずに故国を離れるという選択肢があって、故国を離れた時点で国籍を越えた異邦人となるのです。」

続いて、主人公を女性監督に設定した点やシナリオについて話が及んだ。脚本は、イン・リャン監督、監督夫人、香港の小説家チャン・ウァイさんの3人で担当。チャン・ウァイさんが参加したことにより、自分たちには近すぎて見えていないことが、見えてきたという。主人公を男性監督として描くと、100%監督自身のことだろうと言われてしまうため、自分と同じような境遇の多くの人たちの集団的な経験を組み込むために、女性監督に設定したという。また、チャン・ウァイさんが母娘を題材とした作品を得意としていたことは、母娘の関係性を描く上で良い効果をもたらしたようだ。

最近、香港の永久居留権を得たというイン・リャン監督。香港に移り住んだ当時は、多くの困難があったそうだ。「多くの人たちの支援を得て、7年経ち、ようやく永久居留権を得ることができたのが今年の9月28日のことです。まさに、雨傘運動が起きた日と同じ日で、特別な意味合いがあると思います」と振り返った。しかし、香港では、多くの監督が大陸の目を怖れて作品を発表できないという問題があるという。それでもイン・リャン監督は、「状況がどうあれ、自分が語りたいことがあれば、映画で表現したいことがあれば、そして、それを観てくださる観客の方がいるのであれば、私は撮り続けていくと思います」という力強いメッセージを残してくれた。会場からは大きな拍手が寄せられ、質疑応答が終了した。

本作は、11月25日(日)にTOHOシネマズ日比谷スクリーン12にてレイトショー上映される。イン・リャン監督のさらなる飛躍に期待したい。

文責:海野由子 撮影:吉田(白畑)留美

11/19 『幻土(げんど)』 Q&A


11/19 『幻土(げんど)』 Q&A
有楽町朝日ホール

ヨー・シュウホァ(監督)
浦田 秀穂(撮影監督)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
大倉 美子(通訳)

シンガポール、フランス、オランダ / 2018 / 95分
監督:ヨー・シュウホァ (YEO Siew Hua)

A Land Imagined
Singapore / 2018 / 95min.
Director: YEO Siew Hua

11/20 『マジック・ランタン』 Q&A


11/20 『マジック・ランタン』 Q&A
有楽町朝日ホール

アミール・ナデリ(監督)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
ショーレ・ゴルパリアン(通訳)

アメリカ / 2018年 / 88分
監督:アミール・ナデリ(Amir NADERI)

Magic Lanterns
USA / 2018 / 88min.
Director: Amir NADERI

11/21『シベル』 Q&A


11/21『シベル』 Q&A
有楽町朝日ホール

チャーラ・ゼンジルジ(監督)
ギヨーム・ジョヴァネッティ(監督)
ダムラ・ソンメズ(俳優)

市山 尚三(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)
谷本 浩之(通訳)

フランス、ドイツ、ルクセンブルク、トルコ / 2018 / 95分
監督:チャーラ・ゼンジルジ(Çağla ZENCIRCI)、ギヨーム・ジョヴァネッティ(Guillaume GIOVANETTI)

Sibel
France,Germany,Luxembourg,Turkey/ 2018 / 95 min.
Director: Çağla ZENCIRCI & Guillaume GIOVANETTI

11/20 『轢き殺された羊』 Q&A


11/20 『轢き殺された羊』 Q&A
有楽町朝日ホール

ペマツェテン(監督)
ドゥッカルツェラン(録音技師)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
樋口 裕子(通訳)

中国 / 2018 / 86分
監督:ペマツェテン(Pema Tseden)

Jinpa
China / 2018 / 86min.
Director: Pema Tseden