第59回カンヌ映画祭が5月17日に開幕する。それに先立ち、公式部門、監督週間、批評家週間の各部門のラインアップが先日相次いで発表された。
最も注目を集めるコンペティション部門には20作品がエントリー(5月11日現在)。ナンニ・モレッティ、ペドロ・アルモドバル、アキ・カウリスマキ、ケン・ローチらのいわゆる常連組から、既に一度はレッド・カーペットを経験している作家たち(ブルーノ・デュモン、ニコル・ガルシア、パオロ・ソレンティーノ、ロウ・イエ、ヌーリ・ビルゲ・ジェイランなど)、そして、キャリアは様々だがコンペ初登場となる監督たちまで、常連組が軒並み顔を揃えた昨年と比べて、比較的多様性のあるラインアップとなった。ただ、地域的には欧米の比重が随分高くなっており、アジアの作品はロウ・イエ(中国)の『Summer Palace』のみと、やや寂しい結果となっている(トルコをアジアと見なしたとしても、ヌーリ・ビルゲ・ジェイランの『Iklimer』と併せて 2本)。その辺りのバランスを取るためか、今年の審査委員長は香港出身のウォン・カーウァイ。彼を中心に、映画監督と俳優のみで構成される今年の審査員団が最終的にどんな決断を下すのか、世界の注目が集まる。
公式部門の他の部門に目を転ずると、「ある視点」で新進作家の発掘と地域的な多様性を示しながら、特別上映作品で華やかさや話題性を加え、さらにはブニュエル劇場のプログラムでドキュメンタリー作品、クラシック作品、あるいはフィクションの小品を上映するという、比較的少数精鋭のプログラムでありながらも、“カンヌ”ならではの懐の深さを示そうとする姿勢は相変わらず。ここから発信される多様な作品たちが、今後どのように世界に受け入れられていくのか、今年もまた楽しみなサイクルが始まろうとしている。 (文/神谷直希)
ニュース/事務局からのお知らせ
第19回シンガポール映画祭 レポート
第19回シンガポール国際映画祭レポート(映画祭期間:2006/4/13-4/19)
<1>映画祭の特色について
今年19回目を迎えたシンガポール国際映画祭は、1980年代末から一貫してアジアに焦点を当て、特に東南アジアの動きをフォローし続けている。
また、次のような特徴があり、東京フィルメックスと共通する部分もある。
・国や自治体などの主体によらず行われる
・首都で行われている
・アジアの新進の才能を励ますことをねらいとする
・世界の映画を集め、観客にオルタナティブな視点を紹介していく
さらに、特徴的な点としては、観客が映画を見に行きやすいよう、上映プログラムは土日および平日の夜に組まれ、その分、17日間にわたる比較的長い日程となっている。
観客の年齢層は20代から60代までと幅広く、普段の映画館に行く延長上で見に来ている感もあり、映画祭の定着感を伺わせる。
・会場:4会場(地下鉄の各駅に分散、各150?250席程度の規模)
シネコン内の会場2箇所、国立博物館映像ホール、アリアン・フランセーズ
・上映本数:長編 約130本(ドキュメンタリーや短編も含めると約300本)。
今年のプログラムの目立った点としては、
・アラブ映画特集(15作品)
・シンガポール映画が存在感を示したこと(新作4本、旧作3本)
・フィリピンのデジタル・シネマの多様な動き
(※その他、プログラム詳細については、4/19付の開幕情報の項もご覧下さい)
第19回シンガポール映画祭 受賞結果速報
第19回シンガポール国際映画祭で「やわらかい生活」最優秀作品賞受賞
「あひるを背負った少年」NETPAC/FIPRESCI受賞!
第19回シンガポール国際映画祭のシルバー・スクリーン・アワード・コンペティションの結果が4月28日に発表され、廣木隆一監督「やわらかい生活」が最優秀作品賞を受賞した。
また、イン・リャン監督「あひるを背負った少年」もNETPAC/FIPRESCIを受賞した。
第7回チョンジュ国際映画祭 レポート
(映画祭期間:2006/04/27-05/05)
<1>映画祭 概観
第7回チョンジュ国際映画祭が4月27日から5月5日にかけて開催された。東京フィルメックスと同じ2000年にスタートを切り、インディペンデント映画作家やアート映画を積極的に支援するチョンジュ映画祭は、東京フィルメックスと共通する部分も多い。
近年目覚ましい勢いの韓国映画界においても一定の地位を確立しつつある。
・会場
・上映本数 42カ国から194本
映画祭参加を通じてもっとも強く印象づけられたことは、何よりも「若い」ということ。事務局のスタッフも、ボランティアスタッフも、観客もみな若い。そのにぎやかさと熱気が映画祭を特徴づけているように感じる。期間中は、平日昼の上映を除けばどの上映回も観客であふれ、上映後のQ&Aも積極的に監督への質問が寄せられていた。
第7回チョンジュ映画祭 開幕
(2006年4月27日-5月5日:韓国・全州にて)
http://www.jiff.or.kr/main/index.php
インディペンデント作品やデジタル作品など、新進の才能の紹介を続けて評価を高めているチョンジュ国際映画祭が今年も開催される。第7回を迎える今年は27日より9日間にわたって、42カ国より194本の作品が上映される。
オープニング作品は、今年2月のベルリン映画祭のコンペティションで上映され銀熊賞(審査員特別賞)を獲得した、イランのジャファル・パナヒ監督による「オフサイド」。イラン国内では女性によるサッカー競技場への立ち入りが禁止されているが、どうしてもW杯予選を観たいと切望するサッカーファンの少女たちが、試合当日に繰り広げる悲喜交々をパナヒ監督が軽妙に描いてみせた作品だ。ドイツW杯を直前に迎えて盛り上がる韓国でも、熱狂的に迎え入れられることが予想される。
また、クロージング作品は、昨年12月のNHKアジアフィルムフェスティバルでワールドプレミア上映された韓国の「ドント・ルック・バック」が上映される。監督のキム・ヨンナムはホン・サンスの助監督を務めたこともあり、この作品が長編デビュー作となる。昨年の第6回東京フィルメックスのコンペティションで上映された「サグァ」でも好演をみせ、日本での人気も高まっているキム・テウが最後の休暇中の陸軍兵長の主役を演じている。
毎年注目を集めてチョンジュの顔ともなっている「デジタル三人三色」は、映画祭が製作するDV短編オムニバスで、今年はエリック・クー(シンガポール)「No Day Off」、ペンエグ・ラッタルナアーン(タイ)「Twelve Twenty」、ダレジャン・オミルバイエフ(カザフスタン)「About Love」の3本が上映される。
メイン・プログラムの2つのコンペティション部門のうち、12本のインディペンデント映画が賞を競う<インディ・ビジョン>部門ではアメリカ在住のイラン人映画監督Ramin BAHRANIのデビュー作で、アミール・ナデリ監督の「マラソン」や「サウンド・バリア」のマイケル・シモンズが撮影を務めた「Man Push Cart」や、イラン=フランス合作映画「The Gaze」、今年のベルリン映画祭フォーラム部門でも上映されたインド映画「John & Jane」などが上映される。また、日本からは昨年11月のトリノ映画祭でグランプリを受賞した坪川拓史監督の「美式天然」も上映される。
もう一つのコンペティション<デジタル・スペクトラム>では、デジタルで撮影された12本が上映される。シンガポールから「The Art of Flirting」、タイの「Stories from the North」や、台湾の若手4人によるオムニバス「TAIPEI 4-WAY」の他、韓国の「Heavenly Path」がワールドプレミア上映される。
<シネマスケープ>部門では、マノエル・ド・オリヴェイラ監督の「Magic Mirror」などの他、日本からは長崎俊一監督「闇打つ心臓」や塚本晋也監督の「HAZE」、黒沢清監督の「蟲の家」、諏訪敦彦監督の「パーフェクト・カップル」などが上映される。
特集上映部門は、ソ連時代に上映が許されなかった60年代から80年代にかけての10本を特集する。また、インドでサタジット・レイやグル・ダットと並び称されるリトウィク・ガタク監督の生誕80周年、没後30周年を記念して7本が上映される。
(報告者:岡崎 匡)
第19回シンガポール映画祭(2006/4/13-29) 開幕
第19回シンガポール映画祭では、40か国から300作品(ワールド・プレミア3作品、インターナショナル・プレミア8作品、アジア・プレミア15作品)が上映される。
プログラムではアラブ映画が目立ち、オープニング作品は、レバノンのJocelyn Saab監督によるで、これはエジプトを舞台にベリー・ダンスを学ぶ女性を描いたドラマとなっている。
そして、特集上映“The Secret Life of Arabia”では、イラク、シリア、パレスチナ、レバノン、エジプト、モロッコなどの最近の作品16本を紹介(イエメンで撮られた初の長編劇映画「A New Day In Old Sana’a」や、綿井健陽監督「Little Birds -イラク戦火の家族たち」も含む)。
第30回香港国際映画祭でイン・リャン監督「あひるを背負った少年」が受賞!
4/4から4/19まで開催されている第30回香港国際映画祭のアジア・デジタルビデオ・コンペティション部門の結果が13日に発表され、「あひるを背負った少年」が見事に最高賞にあたる金賞を受賞した。
これが長編デビュー作となったイン・リャン監督にとって、第6回東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞したことに続いての快挙。
その他のコンペティションの対象作品は、「So Much Rice」(Li Hongqi)、「Walking on the Wild Side」(Han Jie)、「Withered in Blooming Season」(Cui Zi’en)、「The Last Communist」(Amir Muhammad)、「The Blossoming of Maximo Oliveros」(Auraeus Solito)、「Cut Sleeve Boys」(Ray Yeung)、「In Between Days」(So Yong Kim)の全8作品。
審査員は西島秀俊氏、アリス・マク氏、ペンエーグ・ラッタナルアーン氏の3人が務めた。
「あひるを背負った少年」は、東京フィルメックスのワールドプレミアを皮切りに、ロッテルダム(1月)、フリブール(3月)の各映画祭のコンペティションで上映された他、今後はバルセロナアジア映画祭、シンガポール、サンフランシスコ(以上4月)、トライベッカ(NY)、グリーン映画祭(ソウル、以上5月)などでの上映が決まっている。
また、香港国際映画祭で上映された日本映画では「蟻の兵隊」(池谷薫監督)が「人道に関する優秀映画賞」を受賞している。
(報告者:岡崎 匡)
第30回香港国際映画祭(4/4-19) 開幕
第30回を迎える香港国際映画祭では42国からの253作品が上映される。
オープニングとしては、ジョニー・トー監督の最新作「Election 2(黒社会以和為貴)」 とベルリン映画祭コンペティション部門でプレミア上映され音楽賞を受賞したパン・ホーチョン監督の「Isabella(伊莎貝拉)」 と香港映画2作品が揃う。クロージングは、「Candy」(アメリカ/Neil Armfield)「Snow Cake」(イギリス、カナダ/Marc Evans)。
ワールドプレミアとなる「Election 2」の前売券が早々に売り切れになったことからもジョニー・トー監督への注目度がうかがい知れるが、創立10年を迎えた彼のプロダクションを特集する<銀河映像 Milkyway Image, 1996-2005>(8作品)も組まれている。
第30回を記念してのシンポジウムでは、ホウ・シャオシェン、チャン・ユアン、ジャ・ジャンクー、アン・ホイ、ツイ・ハーク、スタンリー・クワンといった香港映画祭とともに歩んできた中国語圏の監督たちが一堂に会する。
また、第30回の記念として行われる<A Tribute to Action Choreographer>の特集では、香港映画界の独特な職能であり、いまや「マトリックス」などのハリウッド映画でも重用されている武術指導(アクション監督)にスポットライトを当てる。「Golden Swallow (金燕子)」(68)から「The Blade(ブレード/刀)」(95) まで20作品が上映され、ジャッキー・チェンやジェット・リー出演作なども含め、ラウ・カーリョン、ユエン・ウーピン、チン・シウトン、サモ・ハン・キンポーらが手がけた傑作群により武術指導の変遷を辿るプログラムとなっている。
香港映画の回顧特集としては、<現代萬歳?光藝的都市風華 The Glorious Mordernity of Kong Ngee>と銘打ち、50?60年代に香港社会の変化をビビッドに反映した秀作を製作した会社・光藝を特集し、「難兄難弟」(60)「英雄本色」(67)など21作品を上映。
外国作品の特集上映としては、第6回東京フィルメックスで注目を集めた中川信夫監督が取り上げられ、14作品が上映される。他に、北欧特集、ヴェルナー・ヘルツォーク特集なども行われる。
(特別上映として、香港ニュー・ウェーヴで名を馳せたパトリック・タム監督の久々の新作「After This Our Exile(父子)」のフッテージ上映が予定されていたが、直前にキャンセルとなった。)
アジア・デジタルビデオ作品のコンペティションでは、「あひるを背負った少年」(イン・リャン監督は第6回東京フィルメックスにて審査員特別賞受賞)を含む中国映画4本、マレーシア「The Last Communist」(アミール・ムハマド監督)、フィリピンなどからの全8作品が上映される。なお、審査員には、タイのペンエーグ・ラッタナルアーン氏、香港のアリス・マク氏とともに、日本からは出演作の「好きだ、」が同映画祭で上映され、第6回東京フィルメックスでも審査員を務めた西島秀俊氏が担当する。
日本映画としては以下の作品が上映される。
「46億年の恋」(三池崇史監督)「スクラップ・ヘブン」(李相日監督)「オペレッタ狸御殿」(鈴木清順監督)「17歳の風景」(若松孝二監督)「紀子の食卓」(園子温監督) 「Un Couple Parfait」 (諏訪敦彦監督)「疾走」(Sabu監督)「好きだ、」(石川寛監督)「カミュなんて知らない」(柳町光男監督)「インプリント」(三池崇史監督)「乱歩地獄」(竹内スグル、実相寺昭雄、佐藤寿保、カネコアツシ 監督)「ブラックナイト」(秋山貴彦監督)「死者の書」(川本喜八郎監督 *アニメーション)「蟻の兵隊」(池谷薫監督 *ドキュメンタリー)「ガーダ パレスチナの歌」(古居みずえ監督 *ドキュメンタリー)
第30回香港国際映画祭 公式サイト
http://www.hkiff.org.hk/index.php
第56回ベルリン映画祭 レポート
映画祭の大切な役割の一つに、市場原理を貫徹すれば不要となってしまうような作品を擁護する、ということがあると思う。つまり、芸術的価値は高くとも商業的には厳しい作品をきちんと評価し、観客やプレスの注意をそこに集める、という役割だ。しかし、いかなるジャンルでもそうだが、そうした種類の作品への理解を支えているのはある程度以上の量的・質的な受容体験であり、そのことは逆に言うと、受け手全体の数を限定することにもつながってしまう。つまり、受け手(観客やプレス)にとっても、ある程度以上の時間と労力をその分野(ここでは映画)に投資しているということが、多かれ少なかれ前提になってくるわけである。しかも、そういった価値を共有できる受け手の層自体が決定的に収縮していることは間違いなく、また、それはある程度、世界的な傾向だとも言えるのではないかと思う。
「巨匠が描いた花街の女たち」 英語字幕付き上映会 開催の御案内
今月17日より19日までの3日間、独立行政法人国際交流基金主催のもと、英語字幕付き日本映画上映会第5弾の企画として、「巨匠が描いた花街の女たち」と題した特集上映が開催されることになりました。東京フィルメックスは、企画・運営協力として関わっています。赤坂・国際交流基金フォーラムを会場にして、全6本を全て英語字幕付きでご紹介いたします。
スクリーンで上映される機会の少ない名作を、日本に在住する外国の方々に触れていただくとともに、日本の方々にも<再発見>していただける貴重な機会になっております。
ぜひ、会場までお越しください!
http://www.jpf.go.jp/j/culture_j/topic/movie/fsp-5.html