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映画の時間プラス『なぜ君は総理大臣になれないのか』大島新監督Q&A


10月31日、TOHOシネマズ シャンテ スクリーン1にて、『なぜ君は総理大臣になれないのか』の日本語字幕・音声ガイド対応のバリアフリー上映会が行われた。本作は、大島新監督が、衆議院議員・小川淳也さんを17年間にわたって撮影し続けたドキュメンタリー作品。今年6月に都内2館で公開されて以来、その評判が口コミで広がり、上映館数は現在までに全国70館を超え、大きな話題を呼んでいる。
本作の上映後には、音声ガイドを制作した松田高加子さん(Palabra株式会社)の司会進行により、大島新監督のQ&Aが行われた。観客から拍手で迎えられた大島監督は、「まだ新型ウイルス感染の不安がある中で、ご来場いただきありがとうございます。東京フィルメックスという映画祭で上映していただき、なおかつ、ミニシアター系劇場が中心のドキュメンタリーではなかなか上映が難しいTOHOシネマズさんで上映していただき、とても嬉しいです」と挨拶した。

東京フィルメックスでは、新型ウイルス感染予防に配慮して、観客がQRコードを読み取って質問する形式がとられているが、観客からの質問を待つ間、松田さんは、音声ガイドの原稿を書いている間、大島監督と一心同体になるような瞬間があったことを明かしてくれた。そして、大島監督が小川議員をじっと観察しているかと思えば、突然、「総理大臣になりたいですか」と議員に切り込むタイミングが実に刺激的だったと語ると、大島監督は次のように応じた。
「ドキュメンタリーは、被写体との距離感が重要です。その場で起きていることをきちんと記録することが1つ目にあって、さらに取材者としてどのように介入していくかということには最も頭を悩ませているところで、そこが作り手の持ち味になると思います。私は、人物ドキュメンタリーを撮るときに、右手に花束、左手にナイフと思っています。信頼関係がないとそもそも撮影ができませんが、ただ相手のことが好きですというだけでは見ごたえのあるものは作れません。場合によっては、被写体が撮られたくないもの、見せたくないものも、意味があるものは引き出していかなければならないと思います。」

また、松田さんは、映像を音声で届ける音声ガイドならではの難しさを垣間見せてくれるエピソードも紹介してくれた。それは、2017年衆議院議員総選挙活動中に苦戦を強いられていた小川議員が、駐車場に停めた選挙カーの中で後部座席にいた大島監督に語りかける場面でのこと。助手席にいた小川議員の横顔がとても印象的だったため、その様子をあえて音声ガイドの原稿に取り込んだという。後日、その部分に対して大島監督から確認が入ったものの、最終原稿には残されたそうだが、「あれは主観的なものが入ってしまった」と振り返った松田さん。それに対して大島監督は、「あのシーンはとても重要で、長い付き合いがあったからこそ撮れた場面です。我々は、ドキュメンタリーの神が下りてきた、というような言い方をするのですが、こちらから問いかけたわけでもなく、カメラが回っていなかったら成立しておらず、ポロっと出てきたものです。あのシーンは間(ま)が大切で、空気感をそのまま見せた方が彼の苦悩がよく伝わるのかなと思ったのですが。音声ガイドには必要であるけれど、どこまでやるべきか少し考えました」と、迷いがあったことを明かしてくれた。

続いて、会場からの質問に移った。
作品のタイトルを思いついた時期について訊かれると、大島監督は、2016年にこの作品の企画書を小川議員に提出するときだったと答えた。「最初に会った時に、総理大臣になると言っていたのに、社会を良くすると言っていたのに、全然なれそうにないじゃないか」と本人にぶつけようと思って、浮かんだタイトルなのだとか。
また、長年撮影を続けてきて、この時期に本作が公開された理由については、まったくの偶然だったという。作品としてどのように終わらせようかと悩んでいた大島監督は、2017年の選挙が終わった時に編集を始めたそうだが、そこで終わらせてしまうとあまりに救いがないと感じ、少し寝かせて、公開時期を見計らっていたところ、2019年2月に小川議員が国会の質疑で勤労統計調査の不正を追及し、「統計王子」として評判になったことから、完成させる方向に進むことができたという。
さらに続編について話が及んだ。大島監督によると、すでに続編の撮影は始まっているという。「小川さんのような政治家の在り方を問い続けることに意味があるのではないか」と考え、続編でも小川議員の政治活動のポイントごとに取材を続け、政策立案にも焦点を当てたいとのこと。「公開できるかどうかわかりませんが、タイトルが『まさか君が総理大臣になるとは』というような映画になるといいなと思っています。そうならなくても、ひとりの政治家の記録として何らかの形で残したいです」と意気込みを語ってくれた。
最後に、「みなさんの口コミの力がとても大きい作品なので、気に入っていただけたら、ご友人やご家族の方にも推薦していただけたら嬉しいです」と大島監督の言葉で締めくくられ、和やかな雰囲気の中、Q&Aが終了した。本作品はポレポレ東中野をはじめ、全国各地で公開中。音声ガイド版(制作:松田さん、ナレーション:大島監督)にも注目していただきたい。
 
(文・海野由子/写真・明田川志保)

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