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第62回カンヌ国際映画祭レポート



カンヌから「映画の未来」を見据える
スターが集う華やかさの一方で若い才能を支援する多くの企画
◆作品上映が最大の支援
 第62回カンヌ国際映画祭が先月開催された。メインのコンペ部門では常連が顔をそろえ、ミヒャエル・ハネケの『ザ・ホワイト・リボン』がパルム・ドール(最高賞)に輝いた。「例年よりも作品の水準が高い」という評判の中で、ベテランが実力通りの貫禄を見せ、気鋭の若手たちは意欲的な作品を発表して確かな一歩を踏み出した。そこには、未来を担う映画作家を積極的に支援する映画祭の姿勢がはっきりと見えた。
 当然ながら、作品を上映することが映画祭による最大の支援だ。もっとも注目を集めるコンペの他にも”ある視点”や”監督週間””批評家週間”など多くの部門があり、そこに並んだ作品にはきらめく可能性が秘められている。
 中でも注目は、1998年に創設されたシネフォンダシオン部門だ。カンヌの総代表ジル・ジャコブの肝いりで始められ、当初は学生による短編映画を上映する部門だった。映画学校から推薦された作品を上映し、審査を行い、一席を獲得した監督には長編1作目がカンヌの公式部門で上映されることが約束される。
 2000年からは新たに<レジデンス>が始まった。選抜された監督がパリに4か月半にわたり滞在、そこで企画開発や脚本執筆に取り組む。これは映画よりも美術の分野で広く定着している手法だ。今年のカンヌで「インディペンデンシア」「マニラ」の二本が上映されたフィリピンの異才ラヤ・マルティンもレジデンス出身だ。
 <アテリア>という企画マーケットも05年より開始。監督たちにプレゼンテーションの場が与えられ、製作会社や出資者とのマッチングを行う。今年の上映作品では、コンペの「顔」(ツァイ・ミンリャン/台湾)、ある視点のポルトガル映画「男らしく死ぬために」などが、2年前のアテリアに選ばれた企画だった。
◆花開く若い作家たち
 創設から12年を経て、これら3つの軸が有機的に機能し、一定の成果を挙げ始めている。その一例が近年勢いが目覚ましいルーマニア出身のコルネリウ・ポルンボイウだ。04年に短編がシネフォンダシオンで上映されて二席を獲得。翌05年にはレジデンスに選抜され、06年のデビュー作でカメラドールに輝いた。そして、2作目の「警察、形容詞」は今年のある視点で上映されて審査員賞、とまさにシンデレラストーリーを地で行く。「警察、形容詞」は官僚主義への痛烈な批判を、カメラの長回しや、繰り返しの演出によってユーモアでうまく包み込むことに成功した、特異な作品だ。
 もちろん、シネフォンダシオンはあくまでも「きっかけ」や「場」であり、それを活かすのは作り手次第だ。しかし、世界中から映画の目利きが集まるカンヌにおいて、スポットライトがあたるステージが用意されている魅力は何物にも替え難い。
 スターがレッドカーペットを上った先の、同じ建物の中でジーンズ姿の学生が、上映前にたどたどしい英語でスピーチをしている。数年後にはタキシード姿で、隣の会場に立っているかもしれない。一方で、この部門での日本映画の長い不在について考える。製作環境に恵まれた国だから、あまり気にされないのだろうか。
 だが、ここには資金だけではない、もっと多義的なチャンスが転がっている。そして、映画祭は「映画の未来」を見据えて彼らを待っている。
(報告者:岡崎 匡)

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