2007年04月17日
3月20日から4月11日まで開催され、今年で31回目を迎えた香港映画祭はその規模の点で大きく変貌した。一つは、昨年は分裂して開催された映画マーケット「フィルマート」が今年は3月20日から22日まで開催されたこと、もう一つは、今年から新たに始まった「アジアン・フィルム・アワード」の授賞式が3月20日に並行して行われたことである。
香港映画祭は世界各国の新作劇映画、ドキュメンタリー、アニメーションからクラシック作品、更に香港の学生映画に至るまで300本を超える映画が上映される大規模な映画祭だが、基本的には香港の映画ファンに様々な映画を見せる機会を提供することを主旨としており、会場も香港市内の幾つかの地域に分散している。一方、「フィルマート」は香港コンベンションセンターを会場とし、その中で映画の権利を売買するマーケット、製作者や監督が新企画をプレゼンする企画マーケット「HAF」、更に様々なセミナーなどが開催される。以前、6月に開催されていた時は今一つその存在価値がはっきりとしなかったが、3月に開催されるようになってからはヨーロッパの主要配給業者も訪れ、“プレ・カンヌ・ミーティング”としての役割を果たしつつあるように思える。
今年はこれに「アジアン・フィルム・アワード」という新たなイベントが加わった。中谷美紀が『嫌われ松子の一生』で女優賞を受賞したことが日本でも多く報道されたこの賞は2006年にアジア地域で製作された映画を対象に各賞が選ばれる。1988年に始まった「ヨーロッパ映画賞」のアジア版とも言うべきものである。香港コンベンションセンターの大ホールで行われた授賞式にはアンディ・ラウ、ソン・ガンホ、ピ(Rain)、チャン・チェンらノミネートされたスターに加え、トニー・レオン、イ・ビョンホン、ミッシェル・ヨーらがプレゼンターとして来場し、華やいだ雰囲気の中、各賞が発表された。最優秀作品を受賞した『グェムル』は男優賞、撮影賞、特殊効果賞も含めた4冠を達成。監督賞は『長江哀歌』(原題:『三峡好人』)のジャ・ジャンクー、脚本賞は『メン・アット・ワーク』のマニ・ハギギ、編集賞は『世紀の光』のリー・チャンターティクン、音楽賞は『オペラジャワ』のラハイユ・スパンガと、昨年の東京フィルメックスの上映作品が数多くの賞を受賞した。
香港映画祭と「フィルマート」、「アジアン・フィルム・アワード」は、会場が異なることもあり、完璧に連動したイベントとは言い難い。しかし、例えば『さくらん』で香港映画祭に参加した蜷川実花監督、出演の木村佳乃、安藤政信が「アジアン・フィルム・アワード」のプレゼンターとして登場したり、「HAF」に新企画『東京ソナタ』で参加した黒沢清監督が香港映画祭での『叫』の上映後に観客とのQ&Aを行ったりするなど、参加ゲストが複数のイベントにクロスオーバーすることで一体感を持たせようとする努力はなされていた。少なくとも、マスコミの注目度の高い「アジアン・フィルム・アワード」を香港映画祭のオープニングと同時に開催したことは、香港映画祭を内外に認知させることに大きく役立ったことは間違いない。上映作品の傾向にそれほど大きな変化がなかったにも関わらず、今年の香港映画祭は観客動員が飛躍的に向上したという。「アジアン・フィルム・アワード」の開催がその要因の一つであったことは想像に難くない。
香港映画祭本体は、ジョニー・トー作品の脚本を手がけてきたヤウ・ナイホイの監督デビュー作『跟蹤(Eye in the Sky)』、パク・チャヌク監督の『サイボーグでも大丈夫』というベルリン映画祭で話題となった2作品で開幕した。プレミア上映にこだわっていないこともあり、上映作品はこの1年間の世界の映画祭で上映されたものが多く、アジアのデジタル作品を対象とするコンペティションも、マレーシア映画『愛は一切に勝つ』が金賞、中国映画『檳榔(Betelnut)』が銀賞と、昨年のプサン映画祭のニュー・カレンツ賞を分かち合った2作品が受賞した。
今回プレミア上映された作品のうち最も際立ったのが、ジャ・ジャンクーの短編『我們的十年(Our Ten Years)』だ。これは中国の新聞「南方都市報」の依頼で作られた8分の短編で、山西省を走る列車を舞台に二人の女性の数度にわたる出会いを描きつつ、10年の歳月を見る者に感じさせる傑作だ。出演はジャ・ジャンクー作品常連のチャオ・タオと、今中国で最も注目されている若手女優の一人ティエン・ユェン。全編を彩るリン・チャンの音楽も素晴しい。この作品と同時上映されたフルーツ・チャン監督の30分の短編『西安故事(Xi’an Story)』も、西安の街を舞台に離婚寸前の若い夫婦が思わぬ出来事から愛情を取り戻すまでを描きつつ、ラストに思わぬ仕掛けをほどこした佳作であった。また、『趙先生』が日本でも公開された中国の映画作家ルー・ユエが1999年に撮影し、その後検閲のためにお蔵入りになっていた長編映画『小説(The Obscure)』がワールド・プレミア上映されたのも話題となった。ドキュメンタリーとドラマを巧みに融合した作品で、阿城、王朔ら現代中国文学を代表する作家たちが登場するのも興味深い作品だ。
地元の映画ファンに向けてのイベントとしては確実に定着している香港映画祭だが、今年行われた外へ向けての拡大への試みは大きな成果をあげたと言える。来年以降もこの規模が継続するようであれば、ベルリン映画祭とカンヌ映画祭の中間のミーティング・ポイントとして、国際的にも大きな意味を持つ映画祭となることは間違いないだろう。
(報告者:市山 尚三)
今年で31回目を数え、歴史の長い国際映画祭のひとつである、香港国際映画祭が3月20日から4月11日まで23日間にわたって開催される。
香港映画祭公式サイト(英語・中国語)
上映作品はワール・ドプレミア16本を含めて300本にも上る。
今年のオープニング作品は、香港の「Eye in the Sky」と、韓国のパク・チャヌク監督の「I'm a Cyborg, but that's OK.」の2本。「Eye in the Sky」は、ジョニー・トーの脚本家などを経て、本作品が監督デビューとなるヤウ・ナイホイ(游乃海)監督によるクライム・サスペンスで、先日のベルリン映画祭のフォーラム部門でも上映された。
メイン部門のひとつ、デジタル・コンペティションでは「マキシモは花ざかり」のアウレウス・ソリト監督の新作「Tuli」がアジア・プレミア上映される。
香港映画祭の巨大なプログラムには、この1年間で世界各国の映画祭を賑わせた話題作も含まれている。昨年11月の第7回東京フィルメックスで上映した作品のうち、このまた香港にお目見えする作品も多い。
例えば、中国の若手作品を紹介するChinese Renaissance部門では、「アザー・ハーフ」が上映されるし、作家性の特に強い監督たちの作品を集めたAuteurs部門では「オペラジャワ」「半月」「世紀の光」などが上映される。
その他、「領域を超えて」と題された、劇映画とドキュメンタリーの境界で鋭く中国映画の現在を描いた作品として、ジャ・ジャンクーの「三峡好人」が、彼のもう1本のドキュメンタリー作品「東」とともに上映され、「鉄西区」の王兵や「水没の前に」の李一凡、カイエ・デュ・シネマのジャン=ミシェル・フロドンらとパネル・ディスカッションを行う。
Global Vision部門では、「りんご、もうひとつある?」「メン・アット・ワーク」「天国へ行くにはまず死すべし」が、日本からの参加作品「14歳」「フリージア」「ルート225」「ゆれる」などとともに上映される。
他に映画祭で上映される日本映画には、「叫」「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」「さくらん」「武士の一分」「蟲師」「NARA:奈良美智との旅の記録」「立喰師列伝」「鉄コン筋クリート」「TOKYO LOOP」「こまねこ」「ルックオブラブ」(植岡喜晴)「垂乳女」(河瀬直美)「選挙」(想田和弘)などがある。
その他の日本関係の注目作品としては、碁の伝説的な棋聖の生涯をチャン・チェンが演じた「呉清源(原題)」(田壮壮監督)が上映される。この作品は日本でもロケが行われており、伊藤歩や柄本明が出演している。
特集上映では、リー・ハンシャン(李翰祥)のレトロスペクティブが組まれ、50?80年代に渡るフィルモグラフィから、黄梅調と呼ばれ人気を博したミュージカルや時代劇など、豪華絢爛な傑作群を上映する。
また、現代香港の監督の特集ではハーマン・ヤウ(邱禮濤、「八仙飯店之人肉饅頭」など)が取り上げられている。
また同時期の20日-23日には今年で開催5年目を迎える香港フィルマートも行われる。
これまでは映画祭とは別の時期に行われていたものが、今年から歩調を合わせた。企画マーケットであるHAFも、今回から映画祭が主催することになっている。
香港フィルマート(日本語あり)
HAF(日本語あり)
加えて、今年から映画祭開催期間中にアジア・フィルム・アワード(アジア映画賞)が実施されることになった。
アジア・フィルム・アワード
この1年間で製作もしくは公開されたアジア地域の映画のうち、最優秀作品賞、同監督賞、同主演男優賞など10部門にわたるノミネート作品の中から、17名の審査員が選出するという、アジア版アカデミー賞の趣を持つ。
これは近年、10月に開催されるプサン映画祭がアジア圏の映画祭で大きな影響力を持つに至っている事に対して、香港政府が肝いりで試みた施策である。今年中国への返還10周年を迎える香港でこのアジア映画賞の授賞式は、まさしく返還式が行われた会場(5,000人規模)で行われ、スターを含めた多くの映画関係者が来場して、テレビ放映まで予定されるという。
既に前売りチケットの売れ行きが、昨年の同時期よりも6割増と映画祭側も発表している。アジアの映画祭の中で、規模として最大の10月のプサン映画祭と、そして春の香港映画祭。アジア映画を盛り上げる二大映画祭として、世界各国からの熱い視線に応えられる窓口、賑やかな交流の場として、活況を呈する香港映画祭が、今幕を開けた。
(報告者:岡崎 匡)
4/4から4/19まで開催されている第30回香港国際映画祭のアジア・デジタルビデオ・コンペティション部門の結果が13日に発表され、「あひるを背負った少年」が見事に最高賞にあたる金賞を受賞した。
これが長編デビュー作となったイン・リャン監督にとって、第6回東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞したことに続いての快挙。
その他のコンペティションの対象作品は、「So Much Rice」(Li Hongqi)、「Walking on the Wild Side」(Han Jie)、「Withered in Blooming Season」(Cui Zi'en)、「The Last Communist」(Amir Muhammad)、「The Blossoming of Maximo Oliveros」(Auraeus Solito)、「Cut Sleeve Boys」(Ray Yeung)、「In Between Days」(So Yong Kim)の全8作品。
審査員は西島秀俊氏、アリス・マク氏、ペンエーグ・ラッタナルアーン氏の3人が務めた。
「あひるを背負った少年」は、東京フィルメックスのワールドプレミアを皮切りに、ロッテルダム(1月)、フリブール(3月)の各映画祭のコンペティションで上映された他、今後はバルセロナアジア映画祭、シンガポール、サンフランシスコ(以上4月)、トライベッカ(NY)、グリーン映画祭(ソウル、以上5月)などでの上映が決まっている。
また、香港国際映画祭で上映された日本映画では「蟻の兵隊」(池谷薫監督)が「人道に関する優秀映画賞」を受賞している。
(報告者:岡崎 匡)
第30回を迎える香港国際映画祭では42国からの253作品が上映される。
オープニングとしては、ジョニー・トー監督の最新作「Election 2(黒社会以和為貴)」 とベルリン映画祭コンペティション部門でプレミア上映され音楽賞を受賞したパン・ホーチョン監督の「Isabella(伊莎貝拉)」 と香港映画2作品が揃う。クロージングは、「Candy」(アメリカ/Neil Armfield)「Snow Cake」(イギリス、カナダ/Marc Evans)。
ワールドプレミアとなる「Election 2」の前売券が早々に売り切れになったことからもジョニー・トー監督への注目度がうかがい知れるが、創立10年を迎えた彼のプロダクションを特集する<銀河映像 Milkyway Image, 1996-2005>(8作品)も組まれている。
第30回を記念してのシンポジウム
また、第30回の記念として行われる<A Tribute to Action Choreographer>の特集では、香港映画界の独特な職能であり、いまや「マトリックス」などのハリウッド映画でも重用されている武術指導(アクション監督)にスポットライトを当てる。「Golden Swallow (金燕子)」(68)から「The Blade(ブレード/刀)」(95) まで20作品が上映され、ジャッキー・チェンやジェット・リー出演作なども含め、ラウ・カーリョン、ユエン・ウーピン、チン・シウトン、サモ・ハン・キンポーらが手がけた傑作群により武術指導の変遷を辿るプログラムとなっている。
香港映画の回顧特集としては、<現代萬歳?光藝的都市風華 The Glorious Mordernity of Kong Ngee>と銘打ち、50?60年代に香港社会の変化をビビッドに反映した秀作を製作した会社・光藝を特集し、「難兄難弟」(60)「英雄本色」(67)など21作品を上映。
外国作品の特集上映としては、第6回東京フィルメックスで注目を集めた中川信夫監督が取り上げられ、14作品が上映される。他に、北欧特集、ヴェルナー・ヘルツォーク特集なども行われる。
(特別上映として、香港ニュー・ウェーヴで名を馳せたパトリック・タム監督の久々の新作「After This Our Exile(父子)」のフッテージ上映が予定されていたが、直前にキャンセルとなった。)
アジア・デジタルビデオ作品のコンペティションでは、「あひるを背負った少年」(イン・リャン監督は第6回東京フィルメックスにて審査員特別賞受賞)を含む中国映画4本、マレーシア「The Last Communist」(アミール・ムハマド監督)、フィリピンなどからの全8作品が上映される。なお、審査員には、タイのペンエーグ・ラッタナルアーン氏、香港のアリス・マク氏とともに、日本からは出演作の「好きだ、」が同映画祭で上映され、第6回東京フィルメックスでも審査員を務めた西島秀俊氏が担当する。
日本映画としては以下の作品が上映される。
「46億年の恋」(三池崇史監督)「スクラップ・ヘブン」(李相日監督)「オペレッタ狸御殿」(鈴木清順監督)「17歳の風景」(若松孝二監督)「紀子の食卓」(園子温監督) 「Un Couple Parfait」 (諏訪敦彦監督)「疾走」(Sabu監督)「好きだ、」(石川寛監督)「カミュなんて知らない」(柳町光男監督)「インプリント」(三池崇史監督)「乱歩地獄」(竹内スグル、実相寺昭雄、佐藤寿保、カネコアツシ 監督)「ブラックナイト」(秋山貴彦監督)「死者の書」(川本喜八郎監督 *アニメーション)「蟻の兵隊」(池谷薫監督 *ドキュメンタリー)「ガーダ パレスチナの歌」(古居みずえ監督 *ドキュメンタリー)
第30回香港国際映画祭 公式サイト
http://www.hkiff.org.hk/index.php
映画祭期間:2005年3月22日?4月6日
http://www.hkiff.org.hk/hkiff29/index.html
28部門にて全240本を上映。
オープニング作品としては、中国から顧長衛(クー・チャンウェイ)監督の「孔雀」と日本から山田洋次監督「隠し剣 鬼の爪」、またオープニング・ナイトとして香港映画の新作「精武家庭(House of Fury)」(監督・出演:スティーブン・フォン、出演:アンソニー・ウォン、マイケル・ウォン、ダニエル・ウー、ツインズ)が上映される。
クロージング作品としては、中国のジャ・ジャンクー監督「世界」とフランスのアラン・コルノー監督「Words in Blue」。