【レポート】「泣く子はいねぇが」舞台挨拶・ Q&A

11月3日、TOHOシネマズ シャンテ スクリーン1にて、東京フィルメックス・コンペティション作品『泣く子はいねぇが』が上映された。本作は第68回サン・セバスティアン国際映画祭オフィシャルコンペティションでワールドプレミア上映され、最優秀撮影賞を受賞した。

上映前の舞台挨拶に佐藤快磨監督が登壇。「今日はジャパンプレミアということで、大変緊張しているんですけれど、ここからこの映画が広がってくれることを願っております」を佐藤監督。

 

上映後、佐藤監督が登壇し、Q&Aがスタート。まず、市山尚三東京フィルメックスディレクターよりどのように主人公を作り上げたのかと問われ、佐藤監督は「20代後半を迎え、同級生たちが結婚して子供が生まれて父親になっていく中で、自分も当たり前のように父親になれると思っていたのですが、その未来がどんどん遠ざかっていく感じがありました。自分は父親になれるのだろうか、どういうきっかけで父親になるのか。父親でない自分が、父性を探す映画を撮りたいというのがスタートでした。なので、主人公には自分が投影されている感じがあります」と答えた。

続けて、脚本の制作期間について問われると、5年ほど前にラストシーンは出来ていたそうだ。3年前に分福で是枝裕和監督の助監督募集があり、「志望動機の欄に本作のあらすじを書いたところ、脚本持ってきて、と言われて急いで脚本を書きました」と制作のきっかけを語ってくれた。それを受けて、市山ディレクターは「それはラッキーでしたね」とコメントすると、佐藤監督も「ラッキーでした。運がよかったです」と答えた。

会場より舞台である秋田県男鹿市と佐藤監督の関係についての質問が。佐藤監督は秋田県秋田市出身で「男鹿市は近くて遠い場所で、最初は男鹿市のことをよくわかっていませんでした。ただ、ナマハゲは男鹿にしかない文化です」とコメント。佐藤監督は子供の頃、友人の家でナマハゲを体験したそうで、友人は父親に抱きついて泣き叫んでいるのだが、「自分は泣きつける父親がいなくて心細い思いをしました」と振り返る。「ナマハゲは子供を泣かせるイメージが強いですが、父親が子供を守るという父親としての自覚や責任を芽生えさせる側面があると思ったんです。その記憶と自分が撮りたい映画がリンクして男鹿を舞台に映画を撮りたいと思いました」と丁寧に説明した。

 

仲野太賀さんを主演に起用した理由について、佐藤監督はndjc:若手映画作家育成プロジェクト2015で『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』(16)を監督した際に仲野さんと出会ったと語り、「その時は太賀君に出てもらった感覚でしたが、太賀君は新人の自分と対等に作品づくりをしてくれる姿勢を見て、長編デビュー作を撮る時は太賀君で撮りたいと思っていたので、この脚本も当て書きみたいな感じで書いていました」というエピソードを披露してくれた。

 

折坂悠太さんを劇伴にした経緯について、劇伴を誰にするか悩んでいてプロデューサーにも相談していたところ、仲野さんが折坂さんを推薦したそうだ。「太賀君はロケハンの時から、『今、折坂さんの“さびしさ”って曲を聞いてるんですよ』と言ってくれてたんです。『あー、いいよねー。折坂さん好きだよー』って返してたんです。今思うと、その時から折坂さんをそれとなく僕に推薦してくれていたんだと思います」と佐藤監督。

折坂さんとの作業について、「最初は気を遣い合っていた部分もありますが、途中でLINEを交換して電話するようになってから、音楽が煮詰まっていったと思います。最初、折坂さんは『この映画に音楽は付けなくてもいいんじゃないですか』と言ってくれて、それが嬉しかったですね」と振り返った。また、折坂さんから各シーンで折坂さん独自の視点でアドバイスをくれたことで、作品に深みが加わったと感じたそうだ。

 

ラストシーンの着想について質問が。「ラストシーンから着想した映画なので、そこは変わっていません。キャストさんもスタッフさんも一番大事なシーンだと共有していたので、撮影時は緊張感が一番あったと思います。キャストが作り上げて、スタッフが掬いとるような撮影だったので、自分が想像していたよりも素晴らしいシーンになった」と回想した。

 

サン・セバスティアン国際映画祭にリモートで参加した際、「日本は女の子が生まれたら残念がるのか」という質問があったそうで、「そんなことはないです」と答えたと佐藤監督は苦笑しながらコメント。

主人公の母親の存在についても聞かれ、「その時はうまく答えられなかったのですけど」と踏まえた上で、「脚本の時は息子から見た母親という視点で書いていたんですけど、余貴美子さんが演じていただいたことで、シーンによっては母でもあり、女性でもある一面を見せていただいたと思っています」と感慨深く語っていた。

 

市山ディレクターより「ナマハゲの保存会というのはあるのか」という問いに対し、町内ごとに保存会はあるが、町内ごとに独立しているらしく、「お互いがどういうことをしているかあまり知らない」と佐藤監督は説明。

また、「ナマハゲは子供にとってトラウマになるイベントだったのか」と訊かれ、「男鹿市の子供たちはみんな憂鬱だと思いますね」と答えると会場から笑いが漏れた。「そういう体験をして良かったと思っているから、ナマハゲを残そうとしているんだと思います」と佐藤監督。

 

撮影を担当した月永雄太氏は撮影前、個人的に男鹿市に訪れたそうで、「そこで感じた印象で映画を撮ってくださったと思います。構図やアングルは月永さんに頼ったところがあります」と振り返る。

 

佐藤監督より「初めて商業映画を撮らせていただきました。本当に恵まれた環境で好きなように撮らせていただいたんですけど、ちゃんとキャストやスタッフの皆さんと『今までにない映画を撮りたい』という想いを共有して作った感覚があります。一人でも多くの方に見ていただけたらと思います」と挨拶をした。

質問に真摯に答える佐藤監督に観客からは盛大な拍手が送られ、Q&Aは終了。

本作は2020年11月20日より全国公開される。ぜひ、ご家族、ご友人を誘って、劇場に足を運んでいただきたい。

 

(文・谷口秀平)

【レポート】「アスワン」リモート Q&A

10月30日、コンペティション部門『アスワン』がTOHOシネマズ シャンテ スクリーン1で上映され、上映後にはアリックス・アイン・アルンパク監督が滞在先のベルリンからリモートでQ&Aに応じた。

『アスワン』はフィリピンのドゥテルテ政権による「麻薬撲滅戦争」の実相に迫るドキュメンタリー。タイトルは、昼間は人の姿をしているが、夜になると怪物に変身して人間を食い殺す伝説上の魔物の名前にちなむ。厳しい取り締りで日常が脅かされる貧困層地区に密着し、射殺も辞さない暴力的な捜査や警察の腐敗、家族を奪われた子供たちの苦境をつぶさに描く。

アルンパク監督とプロデューサーのアーミ・レイ・カカニンディンさんは、東京フィルメックスの若手映画人育成プロジェクト「タレンツ・トーキョー」の出身。長編映画デビュー作にこの題材を選んだきっかけは、写真の力だったという。

「ドゥテルテ政権が麻薬撲滅を宣言した直後から、殺された人たちをとらえた写真が次々世に出ました。私は当時ヨーロッパにいたのですが、力強い写真に心を動かされ、帰国すると友人のフォトジャーナリストの取材に参加させてもらいました。彼の車に同乗し、マニラの夜の街に繰り出したのがこの企画の始まりです」とアルンパク監督。撮影は2年半に及んだという。

フィリピンでは今年3月に劇場公開する予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大で見送りに。その代わりにと、7月に30時間限定でオンライン配信を試みたところ、50万viewの視聴実績を記録した。「フィリピンではかなりインパクトがある数字。多くの人に響いたんだと実感することができました」と振り返る。

国内の映画祭などでも上映が決まったが、監督本人は身の安全を守るため、上映前に国を離れた。「撮影中は特に問題はなかったんです。バイクに乗った2人組の男に追跡されてぞっとしたことはありますが、夜間の撮影では、なるべくジャーナリストのグループと一緒に行動するよう心がけたので、それなりに安全でした。むしろ、現在の方が怖い。パンデミックの影響で国外に出るのが簡単ではない状況で、この映画を上映することに恐怖心を感じています」

撮影当時と比べて状況が好転する兆しはなく、「逆に政権はパンデミックを利用して問題をより深刻化させている」という。しかし、強権的な姿勢にもかかわらず、ドゥテルテ政権は90%を超す高い支持率を維持している。「この数字をフェイクだと疑う人もいますが、私は正確なものだと思っています。映画に登場するコミュニティーのような地域で、誰かに大統領について尋ねられたら、怖くて『支持します』と答えてしまうだろうから。高い支持率は、恐怖から生まれたものだと思うのです」

圧政に対抗して、被害者支援などの市民活動も広がっている。「私の場合は、この映画を作ることが活動の一部」と監督。「さまざまな団体と協力した上映活動にも取り組んでいます。特に、インターネットにアクセスできないような地域の人たちに見てもらいたい。次の選挙までに、より多くの人にこの映画に触れてもらうことが目標。まだ期間は1年あります」

作品に登場した人々とのは現在も交流を続け、主人公のひとりであるサンチアゴ神父と協力して支援活動にも取り組んでいる。「実際の被害者や似たような体験をした方に映画の感想をうかがうと、『自分たちだけじゃないんだとわかった』と言う方が多く、私自身もハッとしました。もちろん、同じような境遇の人には見るのがつらい作品だと思います。でも、『こんな目にあうのは私たちだけだ』と孤独感を抱えていた方たちから、『同じような人が他にもいるんですね』『私たちの側に立ってくれる人がいると初めて知りました』と言っていただいたのはうれしいかったです」

会場からは撮影の経緯からドゥテルテ政権の現状まで、様々な質問が寄せられた。海外の反応を尋ねられると「……複雑ですね」。アジア諸国の観客からは「響いている」という手ごたえを得たが、「ヨーロッパでは、共感しにくいようでした。なぜこんな暴力が横行しているのか、それを市民が許しているのかがそもそも理解できないという感じ。もちろんそこがこの作品の主題なのですが」。

また、「警察に殺人も許可する超法規的な政策が、フィリピン国内でどう受け止められているのか」という質問に、監督は「私も理解できません」と応じ、こう続けた。「被害者やその家族を含む多くの人々が指示した大統領なのに、こんなことになってしまった。大統領の(麻薬撲滅)声明は日々のニュースで何度も流れていたのに、実際に身近なところで事件が起きるまで、その意味がわからなかったという人が多いのです」

質問が尽きぬまま、予定時間は終了。最後にコメントを求められた監督は「タレンツ・トーキョーに参加した私たちは日本に親近感を覚えています。日本とフィリピンはつながりも多い国ですが、違いもある。そんな外国のつらい作品をご覧いただきありがとうございます。今回は東京にうかがうことはかないませんでしたが、ご質問があれば何かの形でお答えできればと思います」と締めくくった。

 

(文・深津純子)

【レポート】「マイルストーン」リモート Q&A

11月5日(木)、TOHOシネマズ シャンテで、コンペティション作品『マイルストーン』が上映された。本作は、北インドを舞台に、亡き妻の家族のために働くトラック運転手の苦悩を通じて、インド社会の厳しい現実を描いたドラマだ。上映後には、インドにいるアイヴァン・アイル監督と回線を結び、リモートによる観客とのQ&Aが行われた。

アイル監督はまず、長距離トラックの運転手を主人公にした意図を説明。「トラック運転手はどこにでもいます。資本主義社会を支え、廻しているのが、こういった運送業に携わる人たち」との言葉に続けて「ただ、気づいたんです」と前置きし、こう語った。
「様々な場所に移動していても、ドライバー自身はトラックという小さな箱の中に閉じ込められ、どこにも行っていない」。

そんなトラック運転手の姿は「私たちみんなに当てはまる」という。「私たちは自分の人生を動かす主人公であるにも関わらず、小さな社会、小さな箱の中に閉じこもって、なかなかそこから抜け出すことができません」。そこに普遍性を見出し、トラック運転手の視点で物語を作ることを思いついたのだという。

また、主人公のガーリブとその助手パーシュの名前は、インドの偉大な詩人から取られている。その理由を聞かれたアイル監督は「気づいてくれて、嬉しい」と喜びつつも、「今ではインド国内でも、この映画を見てそこに気づく人は少ない」と嘆いた。その言葉の裏には、インドの厳しい現実が横たわっている。「インド社会は今、詩や芸術といったものに価値を見出すことができずにいます。人々は日々生き延びるのに精いっぱいで、それを享受するゆとりがなくなっている」。この2人の名前には、そんな世の中に対するアイル監督のペシミスティックな見方が投影されている。

さらに、シーク教徒のガーリブと、亡くなった妻の関係にも、インド特有の問題が反映されている。「ガーリブは、クウェートで生まれ育ち、成長してからインドに移住した設定。だから、彼はインド移住後もよそ者で、都会のデリーでもなかなか馴染むことができない」。北東部のシッキム出身という設定の妻についても「同じようにシッキムの人たちは、インドに暮らしながらも、部外者という意識を持っている」と説明。2人に共通するのは、インドにいながら感じる“よそ者”意識だ。「そういう点で、2人にはどこか共鳴する部分があったのだろうというアイデアに基づき、こういう設定にしました」。

なお、劇中では言及されないが、ガーリブと妻の出会いには、次のような文化が裏付けとして存在するとのこと。「ガーリブのようなトラック運転手が独身の場合、北東インドの村に行くと、お金を払った上で縁談を持ちかけられることがあります」。

最後に「監督が感じる今のインドの閉塞感、問題点は?」と尋ねられたアイル監督は、「経済的に困窮しており、みんな生きるのに必死な状況」と語り、その実情を打ち明けた。「大多数の人たちは、短期契約の非正規雇用に頼ってきましたが、このコロナ禍で、そういった職がどんどん失われています」。続けて「誇張ではなく、本当にまったくお金がない人たちがいます。親元や兄弟の家に身を寄せざるを得ず、ストレスを抱えている人が多い」とも述べ、コロナ禍の厳しさを伺わせた。

「日本の巨匠の作品をたくさん見てきたので、日本で映画を見てもらうことは夢でした。会場に行きたかった」と冒頭で挨拶したアイル監督。「最も多くを学んだ偉大な日本の映画監督」という小津安二郎を筆頭に、市川崑、黒澤明、鈴木清順、是枝裕和、黒沢清ら日本人の他、サタジット・レイ、リッティク・ゴトク、デヴィッド・リンチ、ジム・ジャームッシュ、ジャファル・パナヒなど、好きな監督の名を次々と挙げ、自身の映画愛を披露。そんなアイル監督に客席から温かな拍手が贈られ、Q&Aは終了した。

 

(文・井上健一)

11/7『デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング』Q&A(リモート)


11/7『デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング』Q&A(リモート)
有楽町朝日ホール

スー・ウィリアムズ(監督)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
大倉 美子(通訳)

アメリカ / 2020 / 83分
監督:スー・ウィリアムズ(Sue WILLIAMS)

United States / 2020 / 83 min
Director:Sue WILLIAMS

11/6『ハイファの夜』Q&A(リモート)


11/6『ハイファの夜』Q&A(リモート)
有楽町朝日ホール

アモス・ギタイ(監督)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
藤原 敏史(通訳)

イスラエル、フランス / 2020 / 99分
監督:アモス・ギタイ(Amos GITAI)

Israel, France / 2020 / 99 min
Director:Amos GITAI

11/5『オキナワ サントス』Q&A


11/5『オキナワ サントス』Q&A
TOHOシネマズ シャンテ

松林 要樹(監督)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)

日本 / 2020年 / 90分
監督:松林要樹(MATSUBAYASHI Yoju)
配給:東風

Japan / 2020 / 90 min
Director: MATSUBAYASHI Yoju

11/5『マイルストーン』Q&A(リモート)


11/5『マイルストーン』Q&A(リモート)
TOHOシネマズ シャンテ

アイヴァン・アイル(監督)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
松下 由美(通訳)

インド / 2020 / 98分
監督:アイヴァン・アイル(Ivan AYR)

India / 2020 / 98 min
Director:Ivan AYR

11/4『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』Q&A


11/4『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』Q&A
TOHOシネマズ シャンテ

池田 暁(監督)
前原 滉(俳優)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)

日本 / 2020年 / 105分
監督:池田暁(IKEDA Akira)
配給:ビターズ・エンド

Japan / 2020 / 105 min
Director:IKEDA Akira

11/4『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』舞台挨拶


11/4『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』舞台挨拶
TOHOシネマズ シャンテ

池田 暁(監督)
前原 滉(俳優)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)

日本 / 2020年 / 105分
監督:池田暁(IKEDA Akira)
配給:ビターズ・エンド

Japan / 2020 / 105 min
Director:IKEDA Akira

11/4『イエローキャット』Q&A(リモート)


11/4『イエローキャット』Q&A(リモート)
TOHOシネマズ シャンテ

アディルハン・イェルジャノフ(監督)

市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
佐野 伸寿(通訳)

カザフスタン・フランス / 2020 / 90分
監督:アディルハン・イェルジャノフ(Adilkhan YELZHANOV)

Kazakhstan, France / 2020 / 90 min
Director:Adilkhan YELZHANOV