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【レポート】「愛のまなざしを」 Q&A

10月30日(金)、有楽町朝日ホールにて、第21回東京フィルメックスのオープニング作品として、万田邦敏監督の『愛のまなざしを』が上映された。6年前に妻を亡くした喪失感に苦しむ精神科医・貴志と、彼に心を寄せる謎めいた患者・綾子の愛憎をスリリングに描いた作品。貴志役を『UNLOVED』『接吻』でも主要人物を演じた仲村トオルさん、綾子役は本作のプロデューサーも兼ねる杉野希妃さんが演じ、『UNLOVED』(2002年)、『接吻』(2008年)に続いて万田監督と妻の万田珠実さんが共同脚本を手掛けた。

舞台挨拶には万田監督、仲村さん、杉野さんと、妻役の中村ゆりさん、共演の片桐はいりさんが出席した。万田監督は「出演者のみなさんがとてもいい、すごくいいです」と開口一番キャストを称賛。「今日来て下さった方々、それから斎藤工さん。脇で出て下さった方たちも、それぞれみんなとてもいい。『この人いいなぁ』『この人誰だろう。ちょっとこれから気にしておこう』ということになっているので、そのあたりもぜひ見ていただきたい」と呼びかけた。

 

万田監督とは4度目のタッグとなる仲村さんも、「期待以上の作品に仕上っていると思います」と断言。杉野さんは「もともと万田監督のファンで、特に脚本家の珠実さんとご一緒の作品が好き。万田節を思いっ切り出していただきたいと思い、こういう形になりました。実際にご一緒して、今までにないことを求められ、すごく新鮮でエキサイティングでした」。中村さんも「監督の世界観が明快なので、こちらはただ身を委ねるだけ。万田ワールドを体験できて楽しかったです」と振り返った。

 

観客として東京フィルメックスに毎年通っているという片桐さんは、「今回ここに立っていることにちょっとびっくりしています」とあいさつ。「トオルさんから監督のことを『すごく怖い』『すごく細かい』と聞いていたので、どんな目に遭うんだろう、と。最初の演技で『あ、ちょっと違うかも……』と思ったら、『ちょっと違いますね』とすぐおっしゃったので、この監督の言葉には従って行こうと思いました」と告白。「作品はこれから客席で拝見しますが、ここに呼ばれたということは(出演場面が)カットされていないと思うので、安心しています」と語り会場の笑いを誘った。

 

上映後のQ&Aには万田監督、仲村さん、杉野さんの3人が登壇した。新型コロナウイルスの感染対策で、質問は客席からの口頭ではなく、スクリーンに投影したQRコードのサイトに書き込んでもらう方式を採用した。

 

質問を寄せてもらう間、市山ディレクターが製作の経緯などについて尋ねた。万田監督によると、杉野さんから「精神科医と患者が恋に落ちる」という基本設定を提案されたのが出発点。「杉野さんのアイデアに妻の珠実が手を加えて話を作っていきました。斎藤工さんが演じた義弟の存在なども珠実が考えてくれたと記憶しています」という。

 

脚本を読んで、仲村さんは「難しいな」と感じたという。「ただ、万田監督の作品なので、自分が難しさを克服する必要はないだろうとも思った。ちゃんと撮って下さるという絶大な信頼感があったので、撮影のスケジュール以外、ほとんど不安はありませんでした」

 

 

その撮影日程はについては、「かなり濃密というか、ものすごい勢いの撮影だった」と仲村さん。万田監督も相当きついなと思って怖かったのですが、やってみたらスイスイさくさく終わった」という。

 

スムーズな進行で、その日の予定になかった仲村さんの超重要シーンの撮影が突如追加されたことも。「時間が余ったのでトオルさんにやってもらおうと言ったら、『えっ、そのシーンやるの?』って……(苦笑)。もちろんやって下さったんですが、『この重要な芝居をいきなりやらせるのか、お前は』と内心めちゃくちゃ怒っていたのかもしれません。でも、あのシーンはすっごくよかった」と万田監督。「きちんと謝っていなかったので、すみませんでした」と頭を下げる監督に仲村さんも苦笑い。「本読みやリハーサルをクランクイン前にやっていたので、できたのだと思います。監督の撮影は速いけれど、せっかちではない。決断が速いとか、そういう速さです」と付け加えた。

 

会場からは、仲村さんが見せるジグザグ歩きがルイス・ブニュエル監督の『エル』の引用ではないかとの質問が。万田監督の答えはYES。「仲村さんはあそこでジグザグに歩くことを自分の芝居としてどう処理するか、かなり悩まれたみたいですね」と万田監督。「結果的にわからないままやりました」という仲村さんを「わからなさ加減がよかった。狂気に入っていく感じがよく出ていました」とねぎらった。

 

診察室に飾られた印象的なトンネルの絵についても質問があった。万田監督の亡くなった知人の作品で、脚本完成後に診察室に絵を置こうと考えて選んだのだという。「脚本上はラストは別の設定でしたが、絵とリンクさせようと考えて変えました。実際のところ、あの絵がなかったらこの映画は中心点を見つけられなかったのではないか。とても助けられました」。

 

「体の動きを決めたら、心もついてくる」という万田監督の演出術について、主演の2人に尋ねる質問もあった。仲村さんは「僕の受け取り方ですが、心がついていかなくても、それが観客に伝わる感じがします。ほとんどのシーンでそういうものがある。たとえ理解しないままでも、心がついていかなかったとしても、伝わるものは小さくない。それが万田監督の演出にいくつもある素晴らしさの一つだと思います」と信頼を寄せた。杉野さんも「監督から演出された動きがあまりに想像を超えていると、段取りの時に笑ってしまったり。でも、実際に本番でやると、気持ちがついてくるというより、自分が想像していなかった新鮮な感情が湧くことが多かったです」と万田マジックの魅力を語った。

 

仲村さんはこの日の舞台挨拶の準備で、『Unloved』のメイキング映像を前夜に見返したという。「当時の監督は本当に怖かった。『答えはこれしかないです』という風だったのですが、今回は『答えはこれしかないと思うんですよ、へへっ』と笑いながら演出して下さった気がします」というコメントは、長年培った信頼の深さをうかがわせた。「『Unloved』のメイキングで、当時の自分のインタビューの態度がものすごく感じ悪かったんです(笑)。あの作品の撮影中は、どういう人物になるのかまったく予想できず、その不安からすごく虚勢を張っていたのだと分析しています。『接吻』の時は脚本を読んですごい映画になると思い、試写を見たら予想通りの方向で予想以上にすごい映画になっていた。今回も、予想通りの方向で予想以上にすごい映画になっています」

 

「愛のまなざしを」は映画は来年春に劇場公開予定。

(文・深津純子、写真・明田川志保)


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