ニュース/事務局からのお知らせ
新人監督賞・シナリオ賞、募集開始!(2019/1/31まで)
フィルメックス新人監督賞・シナリオ賞、募集開始しました!
応募期間:2018年12月1日から2019年1月31日
【フィルメックス新人監督賞・シナリオ賞とは】
撮影機材も編集方法もデジタル化が進み、誰もが簡単に映画を作れるようにな
りましたが、日本映画界の次代を担う新しい才能は、 まだまだ活躍する場を与
えられていないのが現状です。
自主映画の映画祭などで賞を獲った後、どうすれば彼らが商業映画に進むこと
が出来るのか。ストーリーとアイデアがあっても、それを具現化する資金や術
がない人たちは夢を実現出来ないのか。そんな才能溢れる若いクリエイターに
むけて、我々は明確な道しるべを提示するために立ち上げられた<木下グルー
プ新人監督賞>を継承し、<フィルメックス新人監督賞・シナリオ賞>として
実施します。
プロ・アマ問わず、現実的な映画化を念頭においた企画を募集し、新人監督賞
のグランプリ受賞作品は木下グループのバックアップにより製作・配給されま
す。
主催:特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会
特別協賛:木下グループ
<受賞作品は>*シナリオ賞は、3の賞金を授与しますが、映画化については確
約するものではありません
1. 劇場公開に向けて開発!
配給会社を持ち、数多くの映画に参画する木下グループが劇場公開にむけての
企画開発をバックアップします。映画化が実現した作品はキノフィルムズが配
給いたします。
2. 5,000万円を上限とした製作費!
商業映画としてのクオリティを確保するための適正な予算を設定し、木下グル
ープのプロデュースにより製作します。
3. 映画製作費とは別に賞金を授与!
<グランプリ1本 賞金50万円、準グランプリ最大3本 賞金各25万円>を授与
します。この賞金は映画製作費とは別に支払われます。
応募に関する詳細は、
公式サイトをご覧ください。
https://new-directors.jp/
応募期間:2018年12月1日から2019年1月31日
【レポート】授賞記者会見
第19回東京フィルメックスの審査員会見が11月24日(土)、有楽町朝日ホールスクエアBで開かれ、コンペティション部門の受賞結果が発表された。
最初に発表されたのは、東京学生映画祭が主催する「学生審査員賞」。約1時間にわたる3Dの長回し撮影で注目を集めたビー・ガン監督の『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)』が選ばれ、審査員の石井達也さん(東放学園映画専門学校卒)、久米修人(日本映画大学)さんが「映画表現へのこの革命的ギャンブルは、新たな扉を叩いただろう。そして、映画に対する確固たる愛と覚悟を見せつけ、僕らの背中も大きく押してくれた」との授賞理由を読み上げた。ビー監督の代理で出席したプロデューサーのシャン・ゾーロンさんは、「これは特別な賞。決してわかりやすい映画ではありませんが、学生映画賞を受賞することで若い人に楽しんでいただけるというお墨付きをいただけたことはとてもうれしい」と語った。
続けて国際審査員による賞が発表された。まず、スペシャル・メンション(選外佳作)に今回のコンペで唯一の日本映画である広瀬奈々子監督の「夜明け」が選ばれた。審査員のジーン・ノさん(スクリーン・インターナショナル誌韓国特派員)が「完璧な脚本を映像化した家族ドラマでした。柳楽優弥さんが非常にパワフルな演技で、自分の人生を模索する青年を表現した。このように力のある若い女性監督が登場したことは、日本の映画の将来にとっても大きな希望だと私たちは感じました」と授賞理由を説明。広瀬監督は「このラインナップのなかに選ばれただけでも非常に光栄なこと。アジアの力のある作品のなかで、私の「夜明け」がアジア映画の一つとして認められたことはとても嬉しく誇りに思います。私はこれがデビュー作で、監督としてはまだ生まれたてですが、これから2作目、3作目と新たなことに挑戦し、作品を作り続け、この賞に恥じないキャリアを積んでいきたい。今日はその覚悟をいただいたと思います。ありがとうございました」と喜びを語った。
審査員特別賞はペマツェテン監督の『轢き殺された羊』。審査員のモーリー・スリヤ監督は授賞理由の中で本作を「チベットの箴言で幕を開けるポップな西部劇ロードムービー」と称した。長編第2作の『オールド・ドッグ』(2010年)、第3作の『タルロ』(2015年)でフィルメックスの最優秀作品賞を2度受賞しているペマツェテン監督は「素晴らしい賞をいただき感謝いたします。私の作品は『オールド・ドッグ』以降ずっとフィルメックスで上映していただいていますが、いつも高い評価をいただいきありがたく思っています。フィルメックスと私の映画にご縁を感じています。できればこの作品が日本で公開され、多くの皆様にご覧いだたき、チベット人やチベット文化に対する理解を深めていただくことができればうれしいです」と語った。
最優秀作品賞はセルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督の『アイカ(原題)』。審査委員長のウェイン・ワン監督は「私たち審査員は毎日2~3本を見たわけですが、どれも個性的で力のある作品ばかりで、受賞作を選ぶのはとにかく難しかった」と審査過程を振り返り、最高賞に『アイカ』を選んだ理由を次のように説明した。「25歳のキルギス人女性が出産し、赤ん坊を残して産院から逃走します。彼女は多額の借金を背負っていて、いくつもの仕事をかけもちしなければならない。彼女の肉体的な苦痛も描かれます。モスクワに暮らす移民として様々な困難を生き抜こうとする姿も。これは現代のどこの国でも起こりえる普遍的な物語です。不法滞在、移民といった問題は各地にある。また、米国では保守派が中絶を非合法化しようとする動きも出ています。米国市民として、個人として、私は最初のフレームからこの作品に心をつかまれ、引き込まれました。それが最後まで続きました。そして、最後のシーン。主人公の行動に私は強い共感を抱きました。映画でこんなことをやってのけるのは簡単なことではない。とてもパワフルでとても誠実なこの映画に賞を与えたいと決めました」
ドヴォルツェヴォイ監督は「まず最初に皆様に感謝いたします。そして、私の映画を非常によくご理解いただいたことをうれしく思います。10年前に私の最初の映画『トゥルパン』が東京国際映画祭でグランプリを受賞しました。今回2作目の映画がフィルメックスで賞をいただきとてもうれしいく思っています。と同時に、これはどういうご縁なのかなとも考えています。たぶん、日本の文化とロシアの文化、そして中央アジアの文化のつながりの深さが根底にあるのではないかと思います。日本に来るたびに、日本との関係の深さ、お互いを理解しあえるものがあるとういことを強く感じていました。今回、皆様とお会いしてその思いを深くしています。この映画はキルギスの女性が主人公ですが、これは『キルギスの女性の問題』ではなく、もっと広く普遍的なことを扱ったつもりです。主人公はキルギスの女性だとしても、私の映画は人間というものをテーマにしています。これはどこでも起こりうる問題、どの国の人も共感できる問題だと思って作品を作りました。世界には様々な考え方があるとは思いますが、どこの国の人が見ても共感できるのが映画の素晴らしさだと感じています。(日本語で)ありがとうございます。I’m happy, thank you」
結果の発表を受けて、司会の市山尚三ディレクターが審査員にあらためてコメントを求めると、エドツワキさん(イラストレーター/アートディレクター)が登壇した。「審査員の他の4人の方々は映画のプロフェッショナル。たぶん私は”飛び道具”として入れて下さったのだと思います(笑)。そういう自覚のもとでのびのびとやらせていただきました。『とにかく全部見て、見終わってから話をしようか』というウェイン監督の方針で、自由な環境で見させてもらった。10作品を見終わって、昨日みんなで自由に話し合った。それぞれに意見を交わして、皆さんの感想から自分が気付かなかったことも発見した。この3作は全員が納得する形で選ぶことができました。本当にこういう機会に参加できて幸せでした。本当におめでとうございます」と審査の様子を語った。
質疑応答に移ると、審査員席のノさんがすっと手を挙げ、「私もジャーナリストなので、皆さんが質問を考えている間に一言いいですか?」とマイクの前に立った。「映画業界で働き始めて20年になりますが、いろんな人からフィルメックスはすごいという噂を聞いていました。プログラムもいいし、監督や作品、そして観客を非常に尊重している、と。20年やってきましたが、とても珍しいことです。もっと大規模で有名な映画祭も数ありますが、こんな評価は聞いたことがない。フィルメックスは小規模な映画祭なので過小評価されているかもしれませんが、世界の映画祭のなかでもきらめく宝石のような存在です。それは誇っていいことです」と笑顔で主催者にエールを送った。会場のプレスからは審査経過について質問が出た。「審査員の間で評価がはっきり分かれた作品はあるか?」との質問にワン委員長は「最も時間をかけて話し合ったのは『象は静かに座っている』。一部の人が強く推し、別の人が問題点を指摘しまた」と説明。「個人的には、学生審査員賞に決まった『ロング・ジャーニー・イントゥ・ナイト』がどうしても好きになれず、これだけは賞を与えたくないなと思っていました(笑)。そんなことを思ったのも、私が年をとった証拠かもしれません。若い人は別の見方をする。そういうことなのでしょう。ともあれ、それ以外はみんなの意見に大きな相違はありませんでした」
バラエティに富んだコンペ作品をどのような基準で比較したのかという質問には、「科学的な測定基準があればいいのですが、私たちはひたすら映画を見て、お互いの直観を元に話し合った。各自が好きな作品を選んで持ち寄りましたが、トップ3だけを選んだ人も全部に順位をつけた人もいました」。審査員で唯一コンペ作品に1位から10位まで順位をつけたのはエドツワキさん。「エドさんの1位は?」と問われると、「それって、公開処刑ですか?」と笑わせ、「私が最後まで推したのは、ぜひ日本の観客に見せたかった作品。わがままを聞いていただきました。1位は『轢き殺された羊』です」と明かした。
会見は最後まで笑顔が絶えない和やかな雰囲気に包まれ、審査員がそれぞれの意見を自由に語り合い、納得のいく結論に至ったことがうかがえた。審査員の講評や受賞者のコメントにこめられた「受賞作を一人でも多くの観客に届けたい」という思いが実現することを期待したい。
取材・文:深津純子 撮影:吉田(白畑)留美
『アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)』ビデオレター
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東京フィルメックスに私の新作「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト」を観に来てくださってありがとうございます。
この映画は製作に3年の時間を費やし、脚本執筆から準備、撮影のために、中国国内7700㎞の距離を移動しました。
私の故郷の山西から山峡や新疆まで7000㎞以上の道のりを撮影し、流浪して渡世に生きる人物を描きました。
日本の皆さんに気に入っていただければ幸いです。この映画を応援して下っている観客の皆さんに心から感謝します。
そして東京フィルメックスに感謝します。私の作品のほとんどはフィルメックスで日本でのプレミア上映をしていただきました。
「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト」は来年日本で公開されますので、そのときには日本に行き、皆さんとお会いし、交流したいと思います。
今回は仕事の都合でどうしても東京フィルメックスに参加できません。
映画祭の成功をお祈りします。それでは皆さん、ごゆっくりご鑑賞ください。
【レポート】『プラネティスト』舞台挨拶、Q&A
11月25日(日)、有楽町朝日ホールにて特別招待作品『プラネティスト』が上映された。東洋のガラパゴスと呼ばれる小笠原諸島に住む「海のターザン」こと宮川典継さんと出会った監督が2014年~2017年の5年に渡り記録したドキュメンタリー。上映に先立ち、豊田監督、宮川典継さん、窪塚洋介さん、渋川清彦さん、中村達也さん、ヤマジカズヒデさんが登壇した。
壇上、豊田監督は今回で第10回、第12回に続き、3回目となるフィルメックス上映に誇りに思うと語り、「夕日の美しさ、原初的な地球の風景を見て感動しました」と小笠原の魅力を述べ、「僕の尊敬する仲間のアーティスト達を島に呼んでセッションを繰り広げ、みんなで夢を見ようという映画です」と挨拶した。
宮川さんは「美しいアイランドの自然を皆さんと映画でご一緒できてうれしい」と笑顔で会場に語りかけた。窪塚さんは「生きててよかったと思える景色は死ぬまでにどれぐらい見られるのか。その中の1つに小笠原という島があるのは間違いないです」と振り返り、「また(再訪して)宮川さんのお宅に泊めてもらおうかな」と語ると、宮川さんが「お待ちしてます」と笑顔で応えていた。
渋川さんは自身が第10回東京フィルメックス以来、2回目の東京フィルメックス参加であることを語り、当日は会場近くの宝くじ売り場に長い列ができていたことに触れつつ「夢を買うのもいいけど、小笠原に行ったらもっといい夢見れるよ」とアピール。中村さんは「長い船旅を終えて、島までドラムを持って行って叩いたりしました。」ヤマジさんは「東京にいながら小笠原を感じていただけると嬉しいです」と語った。
上映後、再び豊田監督が登壇しQ&Aが始まった。まず、市山尚三ディレクターより、「本当に素晴らしい映画を撮影していたんですね」と一言。次いで、本作の製作の経緯を尋ねた。豊田監督は「小笠原は人生に一度は行ってみたいと言われる場所」だと紹介し、本当は映画の撮影の舞台にしようと思ったが、タイミングが合わず行けなかったそうだ。森永博志さんが小笠原を舞台に描いた『PLANETIST NEVER DIES』という小説が好きだった豊田監督は、小笠原に行く際、森永さんに相談したところ、宮川さんに会うべきだとアドバイスを受けたそうだ。「小笠原には一航海(1週間)の予定が、気に入ってしまい1カ月いました。宮川さんと一緒にいるうちに宮川さんを主人公にしたドキュメンタリーを作りたいと思ったのが本作を作ったきっかけです」と語った。冒頭でも記した通り、本作は2014年~2017年に撮影された後、豊田監督は『泣き虫しょったんの奇跡』(2018)の撮影、編集に入ったそうだ。その後、本作の編集に入り、「2018年は小笠原返還50年なので今年に間に合わせたいと思いました」と語った。
会場からの質問で、本作を完成した後と撮影開始時で(心境が)変わった点はあったかと聞かれると、豊田監督は「自然に対して詳しくなりました。宮川さんに教えられながらいろいろなことを学びました。ネイチャーものの映画が、これからいっぱい撮れるな、と思いましたね」の答えに会場がどっと沸いた。
豊田監督の幸せとは何か?という質問に対し、「僕は“みんなが幸せになるまで自分の幸せはない”と思っています」と考えを語った。
劇中のドルフィンスイムについて、水中撮影も行ったのか?という質問には「水中はいろいろ撮っていましたが、ドルフィンスイムや窪塚さんのシーンは小笠原に在住のMANA野元学さんというカメラマンに撮ってもらいました」と答えた。「それ以外はほぼ一人で撮っている感じです」と述べていた。
監督が呼んだ出演者が小笠原の自然に触れることで生じた変化は予見していたかという質問には「予想は出来ていませんでした」と豊田監督。ディジュリドゥ奏者のGOMAさんのシーンでは演奏している時に、クジラがやってくるとは予想してなかったと説明し、「とりあえずやってみよう」ということで撮影していたそうだ。「(出演者の方々は小笠原にやってきて)いろいろ思うところはあったと思うが、想像はできていなかったです。ただ、ドキュメンタリーを作る前に構成はできていました」と振り返っていた。
作中に出てきた、「小笠原返還の歌」を唄った大平京子さんの英語表記がEdith Washingtonであったことに言及があり、前者が日本帰化後、後者が島返還前の名前であると答えていた。
小笠原に訪れた人たちはどんな人たちだったのかという質問に対し、「出演した人以外にも誘っていました」と豊田監督。しかし、台風の影響や時間の都合が合わず、来られない人がいた一方で、窪塚さんや中村さんは来てくれたそうだ。また小笠原では「お前まだ、小笠原に呼ばれてないな」という言い方をするそうだ。
小笠原の交通手段の拡充と孤立性についてどう思うかという質問には「イエス・ノーを言える立場ではありません。ただ、24時間船に乗るということが大好きです。そんな場所が世の中にあっていいと思います。島の人たちの気持ちもあると思います。正解はないと思います。僕は今の形が好きです。だからこそ惹かれました」と島への想いを観客に伝えていた。
会場からは本作を観て、小笠原の自然の雄大さに魅了された多くの観客が小笠原に行きたいと感想を語っているのが印象的であった。自然に触れることで魂が震える観客の熱量が会場に充満している中、質疑応答が終了した。
本作は2019年5月にテアトル新宿ほかにて公開予定である。ぜひご覧いただき、小笠原のダイナミックな自然を感じてほしい。
第19回東京フィルメックス終了のご報告
2018年11月17日(土)から11月25日(日)の会期で「第19回東京フィルメックス」を開催いたしました。
詳細につきましては、以下の通り、ご報告差上げておりますが、前年を大きく上回る多くの方にご来場いただきました。厚く御礼を申し上げます。
上映全35作品の監督はじめ、ご出品にご尽力いただきました皆様、そして上映当日ご登壇いただいた、82名の来場ゲストの皆様にも心より御礼申し上げます。
今年の第19回に際しては、春先に多くの方に開催のご心配をおかけしましたが、数多くの個人・法人の方々からご支援、ご協力をいただいたからこそ、無事に開催し、閉幕に至りました。この場をお借りして、皆様のご支援に厚く御礼申し上げます。
開幕直前の11月8日、当会は東京都知事より認定NPO法人に認定されましたので、併せてご報告いたします。
引き続きのご支援のほど、心よりお願い申し上げます。
(ご支援はこちらから)
来年は11月23日(土)から12月1日(日)の会期で「第20回東京フィルメックス」の開催を予定しています。皆様のご来場お待ちしております。
特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会
詳細は以下からPDFをダウンロードしてご覧ください。
第19回東京フィルメックス結果報告
【レポート】『盆唄』Q&A
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映画を企画した岩根さんは、2006年からハワイの日系移民と関わっている。
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双葉盆唄の奏者である、横山久勝さんたちが初めてマウイのボンダンスを見たとき、あまりの賑やかさに驚いていたという。20年以上、太鼓を制作していた横山さんだが、移住先での太鼓作りを諦めており、マウイの人たちに太鼓を一つプレゼントした。それまでのマウイの太鼓はワインの樽で作ったもの。初めて一本の木で作った太鼓を手にしたマウイの人々から「行き場のない双葉の盆唄も継いでいきたい」と提案されたそうだ。
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岩根さんはドキュメンタリー『白百合クラブ東京へ行く』(03)で写真を担当しており、中江監督とは20年来の付き合いがあるが、監督は当初、映画を撮ることを断り続けていた。「僕は英語も話せませんし、既に多くの人が双葉町の映画を撮っていましたから」。その後、中江監督はNHKで沖縄系のハワイ移民のドキュメンタリーを2本連続で撮ることになり、縁を感じた。さらに、岩根さんの紹介で会った横山さんの存在も大きい。「横山さんの魂は今も双葉町にあるのだなと感じ、撮らなくてはと思いました。この映画は横山さんを撮っていけば成立するという予感もありました」と中江監督は語った。
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Q&Aで真っ先に手を挙げたアミール・ナデリ監督は、「ポジティブで、希望に溢れた作品でした。他のどのドキュメンタリーとも違う独自性もある。復興を願う人々の情熱や、故郷への思いが伝わり、心に響きました。音楽も素晴らしい!」と絶賛。中江監督は「辛い状況は映ってしまうだろうけど、それでこの映画を終わらせるわけにはいかない。どうやったら映画を救えるか、岩根さんと3年間話しました」と明かした。
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中江監督は今夏もカメラを持たずに「やぐらの競演」を見に行った。現在は仮設住宅から復興住宅に移った人も増え、明るい兆しが見えたという。今後、双葉町の映画を撮り続けるかは未定だが、今回の上映で新たな発見もあった。「横山さんはハワイで、『もし双葉が復興したら、マウイの人たちに盆唄を教えてもらいたい』と言ったと思っていましたが、実際は『孫とか子どもの代になって、双葉が復興すれば』と言っており、復興への確信があったのだと気付いた。横山さんのその気持ちに今後も寄り添っていきたい」
圧巻の演奏シーンも見どころの本作。『盆唄』は2019年2月15日より、テアトル新宿ほか全国で順次公開される。
【レポート】『エルサレムの路面電車』『ガザの友人への手紙』Q&A
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『エルサレムの路面電車』は、様々な民族がモザイク状に混在して居住するエルサレムを東西に走る路面電車を舞台に、緩やかにつながるエピソードをオムニバス風に見せる。「36人の俳優が登場し、7つの言語が話されます。撮影現場は、様々な出自を持つ俳優たちの対話の場ともなりました」とギタイ監督。最新作の短編『ガザの友人への手紙』はイスラエルによるガザ封鎖の過激化を受けて発表したドキュメンタリーだ。イスラエル、パレスチナの俳優たちとギタイ本人が出演している。アルベール・カミュのエッセイ『ドイツ人の友への手紙』へのオマージュが込められているという。
上映後のQ&Aにはギタイ監督が再び登壇し、制作の背景を語った。『エルサレムの路面電車』については、現在のイスラエルはかなり緊張状態にあるが、最初に出演依頼した俳優全員が、イスラエル人、パレスチナ人、マチュー・アマルリックさんのような海外の俳優も含めてすぐに引き受けてくれたことは幸福だ、と述べた。
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撮影は実際の車両で行っている。世界中から来た人がたまたま乗り合わせる車両は、エルサレムという街の象徴でもある。
エルサレムは3000年の歴史があり、3つの一神教の聖地が1平方kmほどに集中している。しかも、いずれの宗教も街を支配しているわけではない。その複数の文化や宗教の層を表現した。
「この映画ではある種、楽観的な将来像を描こうとしました。小さな衝突は起こり続けるにしても、何らかの共存は可能ではないか。今のように激しい暴力や憎しみがぶつかり合うのとは違う共存の仕方が、将来には可能かもしれないと思ったのです」
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会場にはアミール・ナデリ監督の姿もあり、「25年間、あなたの映画を見続けてきましたが、最も新鮮な映画だと思いました」と賛辞を述べた。その発言を受けて、ギタイ監督は「自分自身を再発明し続けることが一番難しい。映画祭のレッドカーペットに惚れ込んでしまわないように、映画をつくるときはタキシードではなく、Tシャツを着直して仕事に行くことが大事」と語った。また、この作品で実現できたこととして、「普段なら一緒にいるはずがない人を隣り合わせにすることができた。例えば、ユダヤ教の正統派は男女は隣に座らず、パレスチナ人とイスラエル人は出会うことが難しいこともある。異なる文化、宗教、背景を持つ人たちが一緒になり、その対話の中から作品が生まれたのは私たちアーティストにとって非常に幸せなこと」と喜びを語った。
ここで予定時間となり、Q&Aは終了。会場に詰めかけた大勢の観客から、ギタイ監督に大きな拍手が送られた。
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【レポート】『8人の女と1つの舞台』Q&A
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市山尚三東京フィルメックス・ディレクターから本作の制作のきっかけを尋ねられたクワン監督は、劇中に登場した劇場について語り始めた。その劇場は、香港のランドマークであるシティホール。3年前に香港政府がこのホールを壊すと発表し、多くの人がニュースを聞いて猛反対したそうだ。クワン監督は、シティホールが多くの人にとって「映画祭、舞台、音楽、展覧会を楽しむとても神聖な場所」であると捉え、シティホールへの思いを本作に込めたことを明かしてくれた。幸い、シティホールを壊す計画はなくなり、一時的に閉鎖し全面的に改修されることになったそうだが、「英国統治時代の名残が改修後に全く別ものになるのではないかと心配」というクワン監督。
ここ10年ほど映画を撮っていなかったクワン監督だが、その理由について、香港映画人と中国との関わりを踏まえて説明した。90年代半ばから終わりにかけて、香港の映画監督たちは、映画に対する真摯な姿勢、確立された映画システム、ジャンルの専門性などが買われ、中国に招かれて中国で映画を撮るようになったそうだ。ただ、中国で香港映画を撮るわけではないので、なかなか環境に馴染めず、クワン監督は、監督としてではなく、中国の若手監督を助けるプロデューサーとして映画と関わっていたという。「シティホールが壊されるというニュースを聞いて何かをしなければと思い、映画を撮るために中国側からも投資を募ったところ、結果的に上手くいきました。というのも、合作は必ずしも中国で撮らなくてもよく、そのおかげで本作が出来上がったのです。私はやはり監督をするのが大好きです」と、監督として映画に関わる喜びを語ったクワン監督。
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11/25『プラネティスト』Q&A
11/25『プラネティスト』Q&A
有楽町朝日ホール
豊田 利晃(映画監督)
宮川 典継(レジェンドサーファー)
窪塚 洋介(俳優)
渋川 清彦(俳優)
中村 達也(ドラマー)
ヤマジカズヒデ(ギタリスト)
市山 尚三 (東京フィルメックス ディレクター)
日本 / 2018 / 166分
監督:豊田 利晃(TOYODA Toshiaki)
PLANETIST
Japan / 2018 / 166 min.
Director: TOYODA Toshiaki