授賞式
TOKYO FILMeX ( 2014年11月29日 21:00)
11月22日から9日間にわたって開催された第15回東京フィルメックス。会期を1日残した11月29日、有楽町朝日ホールにて授賞式が行われ、最優秀作品賞以下、各賞が発表された。今年も前年に続いて人材育成プロジェクト"タレンツ・トーキョー"修了者の作品が受賞するなど、"映画の未来へ"というスローガンに相応しいセレモニーとなった。
まずは、会期中6日間に渡って実施された"タレンツ・トーキョー2014"の報告から。アジアから15名の映画の未来を担う人材が参加し、諏訪敦彦監督を始めとしたメイン講師によるワークショップ、塚本晋也監督、ジャ・ジャンクー監督によるマスタークラスを開催。参加者の企画の中から、ジャンカルロ・アブラハンさんの『Somewhere South of Reality』がタレンツ・トーキョー・アワード2014に選ばれた。受賞したアブラハンさんは、「私の中のモンスターを見つけ出していただいて、本当に嬉しいです。モンスターは美しいものでもあることにも気づいていただいて、感謝します」と独特の言葉で喜びを表現。さらに、ムン・クウォンさんの『A Family』にスペシャル・メンションが贈られたことも併せて報告された。
各賞の発表は、観客賞からスタート。市山尚三プログラム・ディレクターより、受賞作としてモフセン・マフマルバフ監督の『プレジデント』の名が読み上げられると、来日できなかった監督からのメッセージが伝えられた。「映画『プレジデント』の平和のメッセージに与えられた観客賞は、私にとっても非常に大きな意味があります」との言葉に続いて、次のように説明。「エボラと戦うために5千人が必要だという国連の声に答える人間はとても少なかったのですが、ISISの暴力的な作戦を支援するために、1万5千人の人が集まりました。これは、世界には暴力のために命さえ差し出す人が多いことを示しています」。世界の厳しい現実を伝えつつも、映画の可能性を信じる次の言葉で締め括られた。「映画はこの暴力的な世界に、平和のメッセージを伝える大きな力を持っていると思います」。力強い言葉に、客席からは惜しみない拍手が送られた。なお、『プレジデント』は2015年の劇場公開を予定している。
続いて、学生審査員の大河原恵さんと千葉花桜里さんによる学生審査員賞の発表。受賞作『彼女のそばで』のアサフ・コルマン監督は既に帰国していたが、「新旧の日本映画ファンである私にとってこの賞は、将来の日本の巨匠になるかもしれない人々からの特別な表彰です」という喜びのメッセージが寄せられた。
国際審査員による各賞発表の前に、中村由紀子さんがチャオ・ダーヨン監督の『シャドウデイズ』をスペシャル・メンションとして報告。さらに、柳島克己さん、張昌彦さんから審査員特別賞が『彼女のそばで』に贈られると、学生審査員賞とのダブル受賞となったアサフ・コルマン監督からのメッセージが伝えられた。「私と共同で脚本を書き、主演を務めた妻リロンが障害を持つ姉妹の傍らで育った経験を元に、この作品を作ろうと決心した時、私たちは自分たちが何かを勝ち取れるとは思ってもいませんでした」
最後に、リチャード・ローマンドさんと中村由紀子さんが最優秀作品賞を『クロコダイル』と発表。壇上に姿を現したフランシス・セイビヤー・パション監督は、会場にいたキャスト、スタッフを壇上に招き、「個人的に特別な賞です」との言葉に続いて、その理由を次のように語った。「私は"タレンツ・トーキョー"第1期("ネクスト・マスターズ・トーキョー2010")の修了生なので、この作品が東京フィルメックスのコンペティションで上映されることは大変光栄でしたが、最優秀作品賞を取るとは夢にも思いませんでした」"タレンツ・トーキョー"の前身"ネクスト・マスターズ・トーキョー2010"では、フランシス・セイビヤー・パション監督と同期のアンソニー・チェン監督が『Ilo Ilo』で最優秀企画賞を受賞。後に映画化され(邦題『イロイロ ぬくもりの記憶』として12/13より劇場公開)、カンヌ国際映画祭カメラ・ドール、昨年のフィルメックスで観客賞を受賞するなど実績を挙げつつあり、受賞者の今後に期待を抱かせる結果となった。
全ての発表が終わった後、審査委員長のジャ・ジャンクー監督が総評を行った。「9人の監督たちの作品に、これからの映画の未来を見ることができました」。続いて、イランから亡命生活を送るモフセン・マフマルバフ監督の『プレジデント』が観客賞を受賞したことに関して、「監督は故郷に帰ることができませんが、まだ映画を撮り続けています。こういう監督が映画を発表する場として、映画祭は非常に重要です」と映画祭の意義について言及。そして、コンペティション出品作への言葉が続いた。「アジアでは、絶えず様々な事が起きていて、決して穏やかな地域ではありません。しかし、若い監督たちがそれぞれの表現方法で、自分が伝えたいことを一生懸命に伝えようとしていることに、深く感銘を受けました」。さらに、自身も講師を務めたタレンツ・トーキョーについて、「映画で表現したいと思っている映画好きな素晴らしい若者たちが、タレンツ・トーキョーに参加していることを、非常に嬉しく思います。この東京フィルメックスがこれからもどんどん人材を発掘して、素晴らしい作り手を生むことを信じています」
最後に、林ディレクターからの「映画人生は続きます。来年のフィルメックスにご期待ください。本当にありがとうございました」という挨拶によって授賞式は幕を閉じた。
(取材・文:井上健一、撮影:明田川志保、穴田香織、白畑留美、関戸あゆみ、中堀正夫、船山広大、村田まゆ)
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