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『ONE ON ONE』(原題)キム・ギドク監督Q&A


TOKYO FILMeX (2014年11月30日 13:00)

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11月30日、特別招待作品『ONE ON ONE』(原題)の上映が行われ、Q&Aにキム・ギドク監督が登壇した。東京フィルメックスへの来場は『受取人不明』(01)『春夏秋冬そして春』(03)『アリラン』(11)に続いて4回目となる。謎の集団による女子高生殺害事件の容疑者たちへの襲撃を描いて激しい暴力描写が際立つ本作はもちろん、すべてのギドク作品に通じる重要なテーマともいえる「痛み」についての質問が相次いだ。


ギドク監督の大ファンで「今回も大変な衝撃を受けた」という観客からは「痛みと贖罪をテーマに映画を撮りつづける理由は?」という質問が寄せられた。それに対してギドク監督は、「痛みとは、人間として生きていく上で避けられないもの。避けられないのであればこれを理解したい、理解するプロセスを映画で描きたいと思ってきました」と説明。「『悪い女〜青い門〜』(1998)『悪い男』(01)『春夏秋冬そして春』『メビウス』(13)といった作品で私は、人間をとりまく痛みについて取り上げてきました。今回は国家が個人、国民に与える痛みを描いた。韓国で生きていると、政治家の姿に失望することがよくある。それはなぜか?こんな問題が起こるのは、政治家がそうであるのと同時に私自身が卑怯だからではないか?と問いかけたのが今回の作品です」と語った。


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痛いと感じることは生きていることの証で、決して否定的なものではない、というギドク監督。「人の命は痛みと寄り添っている。いろんな痛みがありますが、何故苦痛に感じるのか、その原因がわからないことがある。それは、父祖から受け継がれて自分に組み込まれている、自分でも知らない記憶のためではないか?長年痛みの問題に向き合ううち、私はそのような結論に達しました。自分ひとりだけの痛みではないのです」


「描かれた痛みに対する救済はあるのでしょうか?」という問いには、「苦しみを克服する方法は自ら生み出さなくてはならない」と応じた。「この映画では、市民たちが体制側にいる者を襲うことによって不満を解決しているように見えるかもしれません。私たちも、不正や腐敗、国民を欺く国家を批判します。しかし、私たちは自分たちの欲望や卑怯さを棚に上げ、責任を回避しているのではないか?結局のところ、自分が幸せならそれでいい、と考えている人も多いのではないでしょうか」。ギドク監督は穏やかに語りながらも、「自分の内面を見つめ、自分で自分を救うべき」と、峻厳な一面をのぞかせた。


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続いて、キャスティングについて「1人8役を演じた俳優の起用理由は」との質問が寄せられた。キム・ヨンミンさんはギドク監督の『受取人不明』『春夏秋冬そして春』に出演しているが、「非常にエネルギーを持った俳優なのに、残念ながらまだそれほど知名度があるとはいえません。ですから、彼の力量を見せたいという気持ちがありました」。8役を演じ分けることは本人にとっても幸福な挑戦だったようだ、と振り返った。


アメリカ留学帰りで、台詞が韓国語から英語に切り替わるキャラクターが興味深く印象に残った、という林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターの言葉に、ギドク監督は「演じたユ・テオさんがドイツ生まれ・アメリカ育ちで、韓国語の方があまり得意ではないためにこのような役柄を設定したが、アイデンティティの揺らぎという点で、本人の境遇と役柄がぴったり合った」と応じた。「せっかく留学して帰国しても就職できない人が増えている韓国社会の、現実の反映となっていると思います」


最後に、日本での公開が控えている『メビウス』についてコメントを求められると、「この作品は"ペニスのロードムービー"」とギドク監督。「皆さんにもおなじみの韓国ドラマは、親子の血が実はつながっていなかったとか、きょうだいで恋愛関係に陥ってしまったとか、そういう内容が多いが、『メビウス』はその下半身版」と語ると、大胆な説明に会場はどよめいた。「ドラマは顔だけを映して家族のいざこざを表現しているが、私のカメラはペニスの部分に降りていく。私たちは性器である、ということを示したかった」


唯一無二の世界観で観客を驚かせつづけるギドク監督。『メビウス』は12月6日から新宿シネマカリテほか全国公開、『ONE ON ONE』は、2015年秋に公開が予定されている。


(取材・文:花房佳代、撮影:明田川志保、白畑留美、関戸あゆみ)

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