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『クロコダイル』Q&A


TOKYO FILMeX (2014年11月26日 18:00)

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11月26日、有楽町朝日ホールにてコンペティション部門『クロコダイル』が上映された。上映後のQ&Aにはフランシス・セイビヤー・パション監督と、母親役を演じたアンジェリ・バヤニさん、教師役で出演し、プロデューサーでもあるR.S.フランシスコさんが登壇し、来場者への感謝が伝えられた。


3回目の来日というバヤニさんは、昨年の東京フィルメックスで観客賞を受賞した『イロイロ ぬくもりの記憶』(アンソニー・チェン監督)でもメイド役で出演している。本作は「肉体的にも精神的にも尽した特別な作品」だと紹介した。同じく3回目の来日となるパション監督は、初回の訪問時に人材育成プログラム「ネクスト・マスターズ・トーキョー2010」(現「タレンツ・トーキョー」)に参加している。同じくプログラムに参加したチェン監督とはルームメイトだったといい、その主演女優のバヤニさんが自分の映画に参加してくれたのは運命を感じる、と語った。


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作品の舞台はフィリピンの湿地帯アグサン。実際に起こった事件を題材に、ワニに襲われた娘の遺体を探す母親・ディヴィナの視点から、水上で暮らすマノボ族の社会を描いている。ロケは事件現場と同じ、ワニが多く生息する湿地帯で敢行され、「非常に恐ろしく、大きな挑戦だった」とパション監督は話す。出演者の多くは現地のマノボ族の人たちで、プロの役者は父親役を含め3人だけ。女優のオーディション映像をディヴィナさん本人に見せたところ、「この人がいい。自分が映っているようだ」とバヤニさんを指したといい、監督はキャスティングの正しさを確信したと話した。


制作の経緯について、監督は「霊媒師に〝私の長編3本目はどういう映画になりますか?〟と尋ねたところ、〝湿地帯のアグサン〟と明確な答えが返ってきた」と明かした。ネットで地名を検索し、その映画的な情景に惹かれて撮影監督と取材に出掛けたという。現地でドキュメンタリーを撮影した友人を介し、最初に会ったのがディヴィナさんの家族だった。この事件は地元でも民話のようだと噂になっていたそうだ。マノボ族はワニと平和的に共存してきた歴史があるが、少女の死でワニと人間の間に亀裂が生まれたと監督は分析する。原題の「BWAYA」は「ワニ」の他に「汚職に手を染める役人」の意味もある。ディヴィナさんは娘を亡くした時、役所から助けてもらえず、「ワニは陸上にもいる」と話したという。


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作中で語られる雄と雌のワニの民話について観客から質問されると、監督は「マノボ族に伝わる民話です。彼らの世界の始まりの物語である創世詩にもワニが登場します。民話は神聖なもので部外者に話すものではありませんが、撮影を進めるうちに地元の老人たちの信頼を得て、彼らの語りや、歌声を録音する許可をもらいました」と答えた。ナレーションはその老人の声を録音したものだという。また、伝統音楽についても「音楽ディレクターは、革命軍の兵士がいる山中を2時間かけてマノボ族の長老たちに会いに行きました。命がけの録音でしたが、長老たちと一緒に暮らすことで信頼を勝ち得ました。音楽には哲学的な要素も含まれています」と語った。


マノボ族の信仰についても話が及び、監督は「マノボ族はキリスト教と古い宗教をうまく融合させて信仰しています。例えば、学校の壁にはキリスト教の宗教画があり、葬儀もキリスト教式ですが、一方で霊媒師による祈祷も行われています。彼らの中では2つの宗教の信仰には全く矛盾がありません」と説明した。


さらに撮影の手法について問われると、監督は「筏やドローン(小型無人ヘリ)を使用しました。幸い、この地域は風があまり強くないので、非常になめらかで静かなショットが撮れました。音は、ほぼシンクロ録音です。台詞に関しては、方言が明確でなかったところを再録した部分もあります」と答えた。


観客からは次々と質問の手が挙がったが、予定時刻を過ぎてQ&Aは終了した。『クロコダイル』は11月28日、TOHOシネマズ日劇のレイトショーでも上映される。


(取材・文:宇野由希子、撮影:白畑留美)

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