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『悲情城市』ホウ・シャオシェン監督Q&A

1127hijou_0111月27日、有楽町朝日ホールで「特集上映:ホウ・シャオシェン」の一本『悲情城市』(89)が上映され、ホウ・シャオシェン監督によるQ&Aが行われた。市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターがホウ監督を迎えると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。

市山Pディレクターが、先日発表された台湾金馬奨で最新作『黒衣の刺客』が作品賞ほか5部門を受賞したことに触れると、会場からふたたび大きな拍手が贈られた。

会場からの質問を募ると、真っ先に挙手したのは黒澤明作品のスクリプターとして知られる野上照代さん。「この映画を撮った時はおいくつでしたか」と質問した。ホウ監督が「40歳くらいだったかな」と応じると、野上さんは「映画で人生を再現する、その極限の表現。40歳とは思えません、何度観ても素晴らしい」と絶賛した。

1127hijou_02市山Pディレクターが「今回初めて観た方はいますか?」と客席に呼びかけると、多くの手が上がった。市山Pディレクターは「公開当時は大ヒットした傑作ですが、こんなふうに新たな観客に観てもらえるとは、上映してよかった」と感慨深げだった。

「1989年にこの作品がヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得したとき、アジアから新しい才能が世界に飛び出していく時代になった、と感じました。同時に、それ以前のホウ監督の作品とは少し変わったと感じた」と回顧した観客からは、いま「『悲情城市』をご自身の中でどのように位置づけられますか」という質問が寄せられた。

これに対し監督は、「私にとって新しいステップでした。私の関心が身近な事柄から台湾の歴史に向かい、作った作品です」と振り返った。ホウ監督はラブコメディからそのキャリアを始め、その後は自分の幼年時代という身近なテーマを取り上げた。『童年往事』は監督自身の、『恋恋風塵』は脚本家ウー・ニエンジェン(呉念眞)さん、『冬冬の夏休み』はチュー・ティエンウェン(朱天文)さんの体験に基づいている。「ウーさんはいわゆる本省人、私とチューさんは外省人です。私が生まれたのは福建省、チューさんは台湾生まれで、外省人としても違いがある。そういったそれぞれの背景を意識するうち、私は台湾の過去に興味を持つようになりました」

1127hijou_03『悲情城市』主演のトニー・レオンさんについて訊かれると監督は、「彼のことはそれ以前から知っていました。この映画を作るにあたって香港スターの出演が出資の条件でしたので、それならトニーさんがよい、と指名しました」と説明。トニーさんが台湾の言葉に不慣れなため主人公を聴覚障碍者としたが、モデルとなったのは脚本のチューさんの知人の文学者で、後天的に聴力を失い、手話を覚えることなく筆談で生活していた人物。「筆談を字幕で表現するという形式は、その後の私の作品にも影響を与えることになったと思います」と振り返った。

続いて、「今日初めてこの映画を観て、台湾の歴史を理解した」という若い観客から「日台中の友好的文化交流について監督のお考えをお聞かせください」という声か寄せられた。監督は「うーん」としばらく考えてから「日本は昔、遣唐使を送って当時非常に栄えていた中国から学んだ。技術や文字、仏教…中国文化にとても大きな影響を受けたと思います」と切り出した。唐代を舞台にした『黒衣の刺客』では日本にある平安時代の建物で撮影が行われた。ロケハンのため京都や奈良で多くの建物を見学したというホウ監督は、当時の中国の文化や様式がそのままの形で残されている、と感じたという。「こうした古い建物が人々のそばでずっと存在し続けている、そのことが思考様式や政治体制など、抽象的な概念にも影響を与え続けるのではないでしょうか。その意味で、日本は中国の影響をずっと受け続けている」。一方、台湾はかつて日本の植民地統治を受けた。監督自身、客家語、閩南語、北京語、日本語など、さまざまな地域の言語を耳にして育ってきたという。監督は「日台中は文化的に一体化しているし、混沌としてつながっているんじゃないかと思っています」と結んだ。

「35mmフィルムでの上映が嬉しかった」という観客から「デジタル化について監督のお考えは?」という質問が寄せられると、市山Pディレクターが「『悲情城市』はDCPになっていないんです」と補足した。監督は「これを撮ったときずいぶん出資者と喧嘩したので、DCPにしてくれないのかもしれない」と冗談めかし、「どちらが良いとか悪いという話ではありませんが、個人的にはフィルムの方が好き」と語った。「皆さんは保存のためにデジタル化が安全だと信じていらっしゃるかもしれませんが、私は必ずしもそうではないと思います。DCPはデータですが、フィルムは物として残される。そして、ネガを保存する技術は確立しています。映画が完成し素材となると、作り手の手を離れる。要は出資者や国に、これを保存しようという意志があるか、ということです。その意志があれば、DCPであろうとフィルムであろうと、残っていくのだと思います」

ここで時間となり、Q&Aは終了。日本語で「どうもありがとうございました」と挨拶したホウ監督に、大きな拍手が贈られた。

(取材・文:花房佳代、撮影:白畑留美)

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