【レポート】10/30『偶然と想像』Q&A

10月30日(土)、有楽町朝日ホールで第22回東京フィルメックスが開幕し、オープニング作品『偶然と想像』が上映された。上映前には、濱口竜介監督をはじめ出演者6名が登壇し、にぎやかな舞台挨拶が行われたが、上映後には、濱口監督と舞台挨拶に登壇できなかった中島歩さんを迎えて、観客からの質疑応答が行われた。

まず、中島さんから、「こうして本日、日本で公開できることを嬉しく思いますし。キャストのみなさんや監督にも会えてとても嬉しいです。ありがとうございます」と挨拶。

また、残念ながら登壇がかなわなかった森郁月さん(第二話出演)からのメッセージを濱口監督が代読した。メッセージは次のとおり。

「このたび、『偶然と想像』を第22回東京フィルメックスのオープニング作品として選出していただけたことを嬉しく思います。想像もしていなかったことが偶然によって引き寄せられるという、この作品のような出来事が人生には起こりえますが、私にとってこの作品、そして濱口監督との出会いはまさにそうでした。リハーサルから撮影までの制作期間を通して、言葉の海を深く潜っていくような、刺激的であり、心地よくもある不思議な時間を過ごさせていただきました。きっと、みなさんにもこれから同じ体験を味わっていただけると思います。この作品との出会いがみなさまの一つの偶然となることを期待しています。森郁月」

早速、観客との質疑応答に移った。まず、制作のきっかけについて質問があがった。濱口監督は好きな映画作家としてエリック・ロメール監督の名を挙げて、エリック・ロメール作品の編集を担当しているマリー・ステファンさんにフランスで会ったときのことを回想した。ステファンさんからは、エリック・ロメールにとって短編製作がどれほど大切だったかということを聞いたという。短編制作によって長編と長編のリズムを作ることができ、短編で試したことを長編に生かすことができる。より自由度の高い、より親密な作り方で、どうしてやらないと?と言われたこともあり、やるとしたらこういうやり方がいいと思い、本作が制作されたとのこと。実は7本あるシリーズのうちの3本で本作が構成されているという。

続いて、タイトルと作品の成り立ちについて話が及んだ。本作の英語タイトルは「Wheel of Fortune and Fantasy」で、wheel(車輪)に関連して、本作の各話には、バス、タクシー、エスカレーターと、物語の転換点で乗り物が登場する。もともと乗り物が好きだという濱口監督は、「ひたすら人がしゃべっている作品だと、観客は大丈夫か?と気になることがあります。そういうときは乗り物に頼ると、たわいもない会話であっても、観客が聞いていられる、観ていられるのではないかと思います。乗り物によって意外な言葉や関係性が生まれることがあります」と説明した。

舞台挨拶で本作を「俳優を見る映画」とアピールしていた濱口監督だが、キャスティングの方法について質問が寄せられた。「いいなと思った人とやっています。演技が上手いとか下手とかよくわからないのです。ポイントとしては、話していて人柄がいい人、自分自身が自然体でいられる人を選びます」と濱口監督。中島さんも「オーディションでは、監督やプロデューサーと友達になるぐらいの気持ちでいます。自分の人柄も相手の人柄もわかって、信頼関係を結んだうえで決まる方がいいです」と呼応した。濱口監督は、新しい役者さんとの新鮮な出会いも楽しんでいるとのこと。新しい出会いにはドキドキ感とある種の不安が混ざるが、うまくはまった時の喜びが大きく、思ってもいなかったところに映画をもっていってくれる、そういう出会いを楽しんでいるという。

さらに、脚本はどのようなところから着想を得て、どのように書いているのかということについて訊かれた。喫茶店で脚本を書くことが多いという濱口監督は、本読みで実際に声を出してもらって、それを聞きながら違和感があればそれを手直ししていくという手法を取っているそうだ。着想は身の回りの細かなところから拾い上げ、例えば、本作の第一話は喫茶店で実際に耳にした会話、第二話は大学教授の知り合いに聞いた話、第三話は人生で誰にでも一度はあるエスカレーターですれ違う瞬間、そうしたものをとらえて話を広げていくという。監督自身が喫茶店で話をするときは、隣に座った人の人生を変えるつもりで話すというジョークを交えて、会場の笑いを誘った。

濱口監督といえば、長いリハーサルや本読みの繰り返しが有名だが、実際に演者として参加した中島さんは、これまでと違った準備方法で戸惑うと同時にわくわくしたという。「リハーサルを繰り返して、相手と一緒に覚えていくという過程が、これまでと違うテキストへの入り方でしたが、台詞がだんだんと自然なコミュニケーションとなり、それにリアクションがついていくようになりました。他にはない、とても有効な時間でした」と回想した。また、濱口監督は、本読みの繰り返しで、感情を込めてしまうと、撮影で新鮮な感情が出てこないこともあると指摘。ただ淡々と台詞を入れて、撮影の日になるまで、相手がどうやるか、自分がどうやるか、明かされないまま進めるからこそ新鮮で、そうやって役者さんたちが主体的にシーンを作っていくという。

最後に、音楽と撮影について話が及んだ。本作ではシューマンのピアノ曲集「子供の情景」が使用されているが、濱口監督は、「シューマンのピアノ曲はシンプルで優しく、どこか不安。この音楽をかけると、感情のうねりをフラットにすることができる、感情をなだめてくれる、見るための準備をしてくれる」と選曲の理由について語った。また、撮影では、濱口監督の大学院の先輩である飯岡幸子さんを3話通して起用しており、「その場にあるものをすべて引き受けて、足したり引いたりしないカメラマン」と飯岡さんを評し、飯岡さんへの信頼感と安心感を起用の理由として挙げた。中島さんも「飯岡さんの撮影は、撮り終えたとき、居心地がよく、安心感がある」と絶賛。飯岡さんは、今回の東京フィルメックスのメイド・イン・ジャパン部門で上映される『春原さんのうた』(監督:杉田協士)でも撮影に参加している。

QRコードから次々と入力される質問が追いきれないほど多く、観客の本作への関心の高さがうかがわれる質疑応答であった。

本作は12月17日(金)にBunkamuraル・シネマ他で、順次全国で公開予定。また、濱口監督と黒沢清監督とのスペシャル対談も当映画祭期間中に公式サイトで配信予定。本作とあわせてお楽しみいただきたい。

 

文・海野由子

写真・明田川志保、白畑留美

【レポート】10/30『偶然と想像』舞台挨拶

10月30日(土)、有楽町朝日ホールで第22回東京フィルメックスが開幕し、オープニング作品『偶然と想像』が上映された。本作は短編3本からなるオムニバスで、第71回ベルリン国際映画祭で審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞した。上映前には舞台挨拶が行われ、濱口竜介監督をはじめ、第一話「魔法(よりもっと不確か)」に出演の古川琴音さん、玄理さん、第二話「扉は開けたままで」に出演の渋川清彦さん、甲斐翔真さん、第三話「もう一度」に出演の占部房子さん、河井青葉さんが登壇し、会場から大きな拍手で迎えられた。

まず、濱口監督が「2008年に『PASSION』で初めて呼んでいただき、13年経ってから、オープニング作品として『偶然と想像』を上映していただけることを嬉しく思っています」と感慨深げに挨拶した。

続いて、登壇者一人一人に本作を振り返ってもらった。

濱口監督作品に初参加だった古川さんは、撮影時に強く印象に残ったこととして、リハーサルでの経験を挙げた。「リハーサルでは多くの発見があり、今でも演じる上で大切にしていることを教えていただきました。ワークショップでは無言でジェスチャーを使わずに相手と会話するという不思議な体験をしました。監督の作品は言葉が美しいのですが、それと同じぐらい肌感覚で伝わるものを大切にしているということがわかりました」と振り返った。

第二話で長回しのシーンを演じた玄理さんは、演技で工夫した点を尋ねられると、「台詞を覚えるときには、感情を抜いて棒読みで覚えてから、台本を手放して、そのあとに台詞のやり取りの中に感情が出てきたらそれはそれでいいよというのが監督のスタイルと解釈しています」と、濱口監督の独特な本読みの手法を説明。そのうえで、お客さんが退屈しないようになどと余計なことを考えずに、「ただ台詞をしゃべって、リアクションを返すということだけのことをしたので、工夫しないことを工夫しました」と語った。

第三話での役作りについて尋ねられた渋川さんと甲斐さん。濱口監督のことをあえて「濱ちゃん」と呼ぶ渋川さんは、濱ちゃんに全幅の信頼を寄せて、「台詞を丁寧に理解するということが役作り」と明言した。これまでに演じたことのない役柄だったという甲斐さんは、「最初は僕の中にないものを求められている気がしていたのですが、結局、僕の中にある嫌な奴の要素を発掘したことが役作りだった」と回想した。

また、『PASSION』にも参加していた渋川さん、占部さん、河井さんからはさまざまなエピソードが飛び出した。渋川さんは『PASSION』のときにすごく驚いたこととして、全員初対面の状況で濱口監督がいきなり「1曲お願いします」と切り出し、自らスピッツの曲を歌い出したというエピソードを明かしてくれた。今回もまた変なことをするのだろうと思っていたという渋川さんの予想どおり、濱口監督は初日に全てのシーンを撮影したにもかかわらず、次の日もまた最初から撮影し始めて、渋川さんは驚かされたという。そして、占部さんからは、チームで四股を踏んだというエピソードが明かされた。同じチームの河井さんは、「四股を踏むってなんじゃそりゃ?と思ったのですが、これにも何か意味があるのかなと思っていました」と述懐。これに対して濱口監督は、「四股はいいよ! 腰ができてくるんだ」という友人の受け売りで、どのような意味があるのかわからなかったと白状して、会場を笑わせた。

占部さんと河井さんは『PASSION』での共演時に絡みがなかったが、今回は2人きりで会話するシーンが多い。リハーサルの時には、濱口監督が2人の間に入り、台詞は2人なのに3人で会話しているような気分だったそうだ。河井さんは、濱口監督が時間をかけたリハーサルに以前より確信を持っているように感じたという。

本作を短編集にした理由について尋ねられた濱口監督は、「いろいろと理由はあるんですが、基本的に自分が仕事をしたい役者さんたちと自由に仕事ができる場を持ちたかったんだなということが、こうやって話を聞いていてわかりました。長編映画では自由に時間を使うことは難しい。じっくり時間をかけられるようなプロジェクトということでこの短編集を考えました」と率直に答えてくれた。

さらに、本作はコメディとも呼べるほど、笑いの多い作品だが、この点について濱口監督は、本作を自身の作品の中で「一番軽やかで、風通しのいいもの」と評し、「一生懸命生きている人って、多少滑稽に見えるんですね。一生懸命やっている人をお客さんに受け取っていただきたいなと思っています」と語った。

最後に、濱口監督は本作の魅力を次のように語り、舞台挨拶を締めくくった。「役者さんたちと過ごした時間は宝だと思っています。カメラの後ろで自分が素晴らしいと思っていたものを皆さんにご覧いただきたい。『偶然と想像』は役者を観る映画だと思っています。」

濱口監督と役者さんたちの真剣、かつ、笑いを交えたやり取りの中に、深い信頼関係が垣間見え、作品への期待が大いに高まる舞台挨拶となった。

 

文・海野由子

写真・吉田留美、明田川志保

【レポート】第22回東京フィルメックス開会式

10月30日(土)、第22回東京フィルメックスの開会式が有楽町朝日ホールで開かれた。今回も前回同様、東京国際映画祭と連携し、同時期の開催となった。会期は9日間、コンペティション・特別招待作品・特集上映「メイド・イン・ジャパン」の3部門で24作品が上映される。最近では新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いてはいるものの、コロナ禍での映画祭開催には変わりなく、会場では検温やマスク着用等の感染対策が徹底されている。

開会式では、まず、作品選定の責任者であるプログラム・ディレクターとして新たに就任した神谷直希さんが登壇し、「パンデミックでどうなるかわからない中で準備を進めてきましたが、初日を迎えることができ、こんなにもたくさんの方に会場に来ていただき、本当に嬉しく思っています」と挨拶。さらに、個人及び団体協力者、スポンサー企業、サポーター会員への謝意を伝え、「みなさまに支えられてこうして開催できていることを実感しています。ぜひ1本でも多くの作品をご覧になっていただき、このお祭りを楽しんでいただければと思います」と語った。

続いてコンペティション部門の審査員が紹介された。審査員を務めるのは映画監督の諏訪敦彦さん、ゲーテ・インスティトゥート東京 文化部コーディネーターのウルリケ・クラウトハイムさん、アンスティチュ・フランセ日本 映像・音楽コーディネーターのオリヴィエ・デルプさん、映画監督やアーティストとして活躍する小田香さんの4名。審査委員長として挨拶した諏訪監督は、「500本以上の作品から選ばれた10本、これからみなさんと一緒に、この会場で1つ1つの作品と出会っていきたいと思います。非常にわくわくしており、刺激的な1週間になることを望んでおります」と高まる期待を語った。

会期中の11月1日〜6日にはアジアの若手映画監督や製作者を育成する「タレンツ・トーキョー2021」もオンラインで開催する。日本を含むアジア各国からタレント15名が集い、現在世界で活躍するプロフェッショナルをエキスパートとして迎え、レクチャーや合評会を通じて次世代の映画の可能性を広げる。また、10月23日から3作品のプレ・オンライン配信を実施中。会期後には、一部の上映作品のオンライン配信も予定している。

 

文・海野由子

写真・明田川志保、白畑留美

STILL BY HAND/IKKI KOBAYASHI at TOKYO FILMeX公式Tシャツ発売中!

第21回東京フィルメックスにSTILL BY HANDが初めて協賛し、スタッフユニフォームとしても提供したTシャツです。イラストを担当したのは、今年もグラフィック・デザイナーの小林一毅。小林一毅さんとの繋がりは東京フィルメックスという映画祭のTシャツを作るときにグラフィックを作成して頂いたことがきっかけでした。東京フィルメックスとは毎年、新しい出会いに満ち映画の未来を照らしてきました。2021年、「第22回東京フィルメックス」を10月30日(土)~11月7日(日)に開催することが決定し、本映画祭は、とことんアジアにこだわり、アジア地域を中心とした新進気鋭の監督たちの作品を集め、どこよりも早く、ここでしか観られない注目作品がラインナップされています。

   

今年は小林一毅さんのグラフィックがメインビジュアルとして採用され、Tシャツも販売いたします。今回のグラフィックは人種、性別、年齢などの差異を省略し、それぞれの内面的な差異を視覚化したビジュアル。
角ばったもの、丸いもの、有機的なもの、幾何的なもの、様々な内面的な差異を許容し並列に並べています。

背面にはSTILL BY HAND/IKKI KOBAYASHI at TOKYO FILMeXをプリントしています。

サイズ 肩幅 / 身幅 / 着丈 / 袖丈(cm)

1) 43 / 51 / 62 / 22
2) 46.5 / 54 / 66/24.5
3) 49.5/ 56.5 / 70/ 26

こちらがURLとなります。
https://styledepartment-store.com/products/tokyo-filmex-t2021

『魔法使いのおじいさん』チケット10月29日(金)19:00より発売します

『魔法使いのおじいさん』上映プログラムは10月29日(金)19:00より発売いたします。発売が遅れましたので、10月31日(日)23:59までは前売券料金でご購入頂けます。
ご不便おかけしたこと、お詫び申し上げます。

 

チケット詳細ページはコチラ:https://filmex.jp/2021/ticket

プレ・オンライン(10/23 – 11/23)配信開始しました!

第22回東京フィルメックスの映画祭会期に先行し、プレ・オンライン配信で以下の3作品を下記リンク先の特設サイトにて配信開始しました。

『消失点』監督:ジャッカワーン・ニンタムロン

『昨夜、あなたが微笑んでいた』監督:ニアン・カヴィッチ

『見えるもの、見えざるもの』監督:カミラ・アンディニ

【オンライン配信作品】第22回東京フィルメックス上映作品のオンライン配信について

オンライン配信についてのお問い合わせを頂きましたので、11月7日(日)から11月23日(火・祝)にかけて、(プレ・オンライン配信とは別に)第22回東京フィルメックス上映作品の中から一部の承諾を得ている作品をオンライン配信すること、改めてご案内いたします。

オンライン配信対象作品(11/7 – 11/23)

作品名 監督 上映尺
見上げた空に何が見える?
What Do We See When We Look at the Sky?
アレクサンドレ・コベリゼ 150min.
小石

Pebbles

P.S.ヴィノートラージ 74min.
時の解剖学

Anatomy of Time

ジャッカワーン・ニンタムロン 118min.
ホワイト・ビルディング

White Building

ニアン・カヴィッチ 90min.
ユニ

Yuni

カミラ・アンディニ 97min.
ただの偶然の旅

Bipolar

クィーナ・リー 110min.
狼と羊

Wolf and Sheep

シャフルバヌ・サダト 86min.

 

第22回東京フィルメックス 上映作品ラインナップ発表

本日、第22回東京フィルメックス(10月30日-11月7日)の上映作品のラインナップ発表記者会見をオンラインで実施しました。

今年の上映作品の詳細はそれぞれ下記のリンク先からご覧下さい。

[コンペティション部門(10作品)]

[特別招待作品部門(9作品)]

[メイド・イン・ジャパン部門(4作品)]

[プレ・オンライン配信(3作品)]

※10月6日現在

なお、上映スケジュール、チケット販売方法(10月17日(日)10amより販売開始予定)については近日中に公式サイトにてお知らせします。