【レポート】11/05『ユニ』Q&A

11月5日(金)、有楽町朝日ホールでコンペティション作品『ユニ』が上映された。本作は、第18回東京フィルメックスで最優秀作品賞を受賞した『見えるもの、見えざるもの』のカミラ・アンディニ監督による3本目の長編映画。高校の最終学年を迎えて大学進学を目指していた10代の少女ユニが、突然の結婚話に葛藤する姿を通じて、インドネシアの若い女性たちを取り巻く状況を描いた物語だ。上映後にはQ&Aが行われ、登壇したアンディニ監督が、観客の質問に答える形で製作の舞台裏や映画に込めた想いを語ってくれた。

登壇したアンディニ監督はまず、本作誕生のきっかけとなった出来事を明かしてくれた。それは、2017年に前作『見えるもの、見えざるもの』が完成した後のことだった。

「私の家の家政婦がある時、『村に帰りたい』と言ったんです。事情を聞いてみると、『娘が17歳で妊娠して、状態がよくない』と、だいぶ心配している様子。なぜそんなに若い年齢で結婚したのか、さらに尋ねてみたところ『婚姻の申し出がいくつか続いたので、決まった』と」。

自身が10代の頃も若くして結婚する女性が周囲にいたことから、長い間“10代の結婚”という題材が頭にあったアンディニ監督は、これを3作目にすることを決意。その家政婦の娘をモデルに、監督自身の視点を加えて、主人公ユニが誕生する。さらに、メイドの娘の結婚式では激しい雨が降っていたことから、そのビジュアルを糸口に、今まで温めてきた構想を反映して物語を作り上げた。

その主人公ユニは、劇中で見事な存在感を発揮しているが、演じるアラウィンダ・キラナさんは、演技をするのは初めて。この起用は、次のような経緯によるものだった。物議を醸しかねないテーマゆえ、ユニ役をロケ地・セナヤンの地元住人から探すことは難しいと考え、首都ジャカルタでキャスティングを実施。その際、有名人以外を条件に探した末、アンディニ監督のアシスタントがインスタグラムでキラナさんを発見する。

「実際に彼女に会ってみたら、とても勇気があり、私のビジョンを理解し、この映画のテーマについても自分の意見を持っている知的な女性でした。当時18歳でしたが、チャレンジを厭わず、他の若い女性とはだいぶ異なる印象。固定したイメージもなかったので、一緒にこの映画を作ってくれる相手にぴったりだと考え、彼女に決めました」

「この作品をインドネシアで作るのは、かなりの困難を伴うと予想していました」と口にしたアンディニ監督だが、夫であるプロデューサーを始め、趣旨に賛同してくれるパートナーたちと共に制作を進め、映画は完成。そして、作品に込めた想いを、次のように語ってくれた。

「インドネシアでは10代をテーマにした作品は多いのですが、都市部を舞台にしたものが大多数。でも実際には、ユニのように地方に住んでいる子の方が多い。だから、そういった若者たちの声を代弁する作品にしたいと思っていました」。

結果的に心配していた検閲も無事にパスし、12月にインドネシアでの公開も決まり、「解放感でいっぱい」と笑顔を見せた。

なお、劇中では詩人サパルディ・ジョコ・ダモノの詩が印象的に引用されている。その意図を「ユニにとって、詩は現実逃避の場なので、脚本を書いているときから、詩を取り入れようと思っていました」と語ったアンディニ監督。そこで思い浮かんだのが、「6月の雨」という詩だった。理由については「雨の結婚式というモチーフがあったこと、“ユニ”という名前は、インドネシアでは6月生まれの子どもに付ける名前でもあるため」と説明。

なお、ジョコ・ダモノの詩に関しては、こんな裏話も明かしてくれた。実は、映画監督である彼女の父、ガリン・ヌグロホが製作した1991年の映画『一切れのパンの愛』でもジョコ・ダモノの詩にメロディーをつけて引用しており、子どもの頃からなじみがあったとのこと。それも本作で引用した理由の一つで、その曲は本作のエンディングでも流れている。

このほか、ユニが紫色を好む理由、本作と前作『見えるもの、見えざるもの』との関係など、ひとつひとつの質問に丁寧に回答してくれたアンディニ監督。最後に「パンデミックの最中、この会場に足を運んでくださることは容易ではなかったと思います。今日は本当にありがとうございました」と挨拶すると、客席から大きな拍手が贈られ、Q&Aは終了した。

文・井上健一

写真・白畑留美、明田川志保

【レポート】11/03『永安鎮の物語集』リモートQ&A

11月3日(水)、有楽町朝日ホールでコンペティション部門『永安鎮の物語集』が上映された。上映後にはリモートQ&Aが行われ、ウェイ・シュージュン監督がリモートスクリーンに登場した。本作は、映画製作が人々に巻き起こす「波紋」を描いた3部形式の作品で、ウェイ監督の長編2作目となる。カンヌ国際映画祭監督週間で上映された。ウェイ監督は「今回、東京フィルメックスで日本のみなさまに作品を観ていただくことになり、ありがとうございます」と挨拶。

質疑応答に移り、まず、製作の経緯について訊かれると、ウェイ監督は濱口竜介監督の『偶然と想像』を引き合いに出し、本作は「偶然に生まれた作品」と強調した。別の映画の撮影準備をしていたが、撮影が不可能な状況に陥ったため、脚本家に相談したところ、脚本家が別の企画を持ちこんだという。脚本家が第1部を語り始めてから、第2話、そして第3部までの枠組みは、わずか20分で決まったのだとか。急遽変更したその企画が本作になったそうだ。

第1部では突然やってきた映画撮影隊に揺れ動く地元の人々、第2部では映画の主演として故郷に凱旋したスター女優、第3部では映画製作者がそれぞれ描かれている。このような構成にしたのは、第1部と第2部で人々に「波紋」を生じさせた張本人たちを第3部に登場させて流れを作る狙いがあったからだという。

次に、撮影現場のシーンは監督の実体験がどれぐらい反映されたかという話に及んだ。劇中の監督と脚本家のイメージ以外は、実際の現場の雰囲気が反映されているという。監督自身は、劇中の監督のように偉そうにふるまっていないとか。脚本家のカン・チュンレイさんとの関係は良好で、理性的にコミュニケーションを取り、互いを理解できるように話し合いを重ねたそうだ。

また、元々撮影しようとしていた脚本を急遽変更したことで、キャスティングに苦心したことも明かしてくれたウェイ監督。元の脚本で決定していたキャストをそのまま使って新たな脚本で撮影したかったそうだが、キャストからの同意を得られず、解約金を支払って、新たにキャスティングをしたという。ちなみに、劇中の脚本家役は、本作の脚本を担当しているカン・チュンレイさんが演じている。

本作の撮影地は湖南省の地方都市だが、ウェイ監督によると、脚本が急遽変更になっても、すでにスタッフが現地入りしていたため、撮影地を変えずにそこで撮るしかない、やむを得ない状況での撮影だったそうだ。ただ、撮影を行った町は、かつては繁栄していたのに今では衰退した町だが、その一方で新たな地域振興が推進され、新旧の雰囲気が混在していて本作にふさわしいと考えたという。

さらに、エンディング曲のラップについて質問があがった。ウェイ監督自身はラップ好きで、本当は自らが手がけたラップを使いたかったそうだが、自身のレベルはまだまだなのでプロに依頼したという。ラップのタイトルは柔道でいうところの「背負い投げ」のような意味合いで、ラップの内容は意見の異なる2人の戦いを表現しているそうだ。

最後に、ウェイ監督は、「感染状況が危うい中で、映画を観に来ていただきとても嬉しいです。みなさんと一緒に映画を観ることができないのは残念ですが、またフィルメックスに参加して、みなさんとリアルにお会いしたいです」とリモート越しに観客に語りかけ、質疑応答を締めくくった。

ひとつひとつの質問に丁寧に回答してくれたウェイ監督には、会場から大きな拍手が送られた。ウェイ監督の今後の活躍に期待したい。

 

文・海野由子

写真・明田川志保

第22回東京フィルメックス終了のご報告

2021年10月30日(土)から11月7日(日)の会期で「第21回東京フィルメックス」を開催いたしました。

今年も新型コロナウイルスの感染対策を徹底しつつ、無事に開催し、閉幕することができました。ご来場頂いた皆様に厚く御礼を申し上げます。
上映全24作品の監督はじめ、ご出品にご尽力いただきました皆様、そして上映当日ご登壇・リモート出演いただいた、79名の来場ゲストの皆様にも心より御礼申し上げます。

引き続きのご支援のほど、心よりお願い申し上げます。
(ご支援はこちらから)

来年は10月29日(土)から11月6日(日)の会期で「第23回東京フィルメックス」の開催を予定しています。皆様のご来場お待ちしております。

認定NPO法人東京フィルメックス実行委員会

詳細は以下からPDFをダウンロードしてご覧ください。
第22回東京フィルメックス結果報告

11/3『リング・ワンダリング』舞台挨拶

11/3『リング・ワンダリング』舞台挨拶
ヒューマントラストシネマ有楽町

金子 雅和(監督)
笠松 将(俳優)

神谷 直希(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)

日本 / 2021 / 103分
監督:金子雅和( KANEKO Masakazu )
配給:ムービー・アクト・プロジェクト

Japan / 2021 / 103 min
Director:KANEKO Masakazu

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※ ONLINE FILMeXでの配信は、2021年11月23日に終了いたしました。ありがとうございました。

11/3『リング・ワンダリング』Q&A

11/3『リング・ワンダリング』Q&A
有楽町朝日ホール スクエア

金子 雅和(監督)
笠松 将(俳優)
部谷 京子(美術)

神谷 直希(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)

日本 / 2021 / 103分
監督:金子雅和( KANEKO Masakazu )
配給:ムービー・アクト・プロジェクト

Japan / 2021 / 103 min
Director:KANEKO Masakazu

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※ ONLINE FILMeXでの配信は、2021年11月23日に終了いたしました。ありがとうございました。

11/7『メモリー・ボックス』Q&A

11/7『メモリー・ボックス』Q&A
有楽町朝日ホール(リモート)

ジョアナ・ハジトゥーマ、カリル・ジョレイジュ(監督)

神谷 直希(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)

フランス、レバノン、カナダ、カタール / 2021 / 100分
監督:ジョアナ・ハジトゥーマ&カリル・ジョレイジュ( Joana HADJITHOMAS & Khalil JOREIGE )

France, Lebanon, Canada, Qatar / 2021 / 100min
Director:Joana HADJITHOMAS & Khalil JOREIGE

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※ ONLINE FILMeXでの配信は、2021年11月23日に終了いたしました。ありがとうございました。

11/6『麻希のいる世界』Q&A

11/6『麻希のいる世界』Q&A
有楽町朝日ホール

塩田 明彦(監督)
窪塚 愛流(俳優)

神谷 直希(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)

日本 / 2021 / 89分
監督:塩田明彦( SHIOTA Akihiko )
配給:シマフィルム

Japan / 2021 / 89 min
Director:SHIOTA Akihiko

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※ ONLINE FILMeXでの配信は、2021年11月23日に終了いたしました。ありがとうございました。

11/6『麻希のいる世界』舞台挨拶

11/6『麻希のいる世界』舞台挨拶
有楽町朝日ホール

塩田 明彦(監督)
新谷 ゆづみ(俳優)
日髙 麻鈴(俳優)

神谷 直希(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)

日本 / 2021 / 89分
監督:塩田明彦( SHIOTA Akihiko )
配給:シマフィルム

Japan / 2021 / 89 min
Director:SHIOTA Akihiko

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※ ONLINE FILMeXでの配信は、2021年11月23日に終了いたしました。ありがとうございました。

11/6『瀑布』Q&A

11/6『瀑布』Q&A
有楽町朝日ホール(リモート)

チョン・モンホン(監督)

神谷 直希(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)
湯櫻(通訳)

台湾 / 2021 / 129分
監督:チョン・モンホン( CHUNG Mong-Hong )

Taiwan / 2021 / 129 min
Director:CHUNG Mung-Hong

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※ ONLINE FILMeXでの配信は、2021年11月23日に終了いたしました。ありがとうございました。

11/6『行くあてもなく』Q&A

11/6『行くあてもなく』Q&A
有楽町朝日ホール(リモート)

チャオ・リャン(監督)

神谷 直希(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)
波多野眞矢(通訳)

香港、フランス、オランダ / 2021 / 96分
監督:チャオ・リャン( ZHAO Liang )

Hong Kong, France, Netherlands / 2021 / 100 min
Director:ZHAO Liang

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※ ONLINE FILMeXでの配信は、2021年11月23日に終了いたしました。ありがとうございました。