11月3日(水)、有楽町朝日ホールでコンペティション部門『永安鎮の物語集』が上映された。上映後にはリモートQ&Aが行われ、ウェイ・シュージュン監督がリモートスクリーンに登場した。本作は、映画製作が人々に巻き起こす「波紋」を描いた3部形式の作品で、ウェイ監督の長編2作目となる。カンヌ国際映画祭監督週間で上映された。ウェイ監督は「今回、東京フィルメックスで日本のみなさまに作品を観ていただくことになり、ありがとうございます」と挨拶。
質疑応答に移り、まず、製作の経緯について訊かれると、ウェイ監督は濱口竜介監督の『偶然と想像』を引き合いに出し、本作は「偶然に生まれた作品」と強調した。別の映画の撮影準備をしていたが、撮影が不可能な状況に陥ったため、脚本家に相談したところ、脚本家が別の企画を持ちこんだという。脚本家が第1部を語り始めてから、第2話、そして第3部までの枠組みは、わずか20分で決まったのだとか。急遽変更したその企画が本作になったそうだ。
第1部では突然やってきた映画撮影隊に揺れ動く地元の人々、第2部では映画の主演として故郷に凱旋したスター女優、第3部では映画製作者がそれぞれ描かれている。このような構成にしたのは、第1部と第2部で人々に「波紋」を生じさせた張本人たちを第3部に登場させて流れを作る狙いがあったからだという。
次に、撮影現場のシーンは監督の実体験がどれぐらい反映されたかという話に及んだ。劇中の監督と脚本家のイメージ以外は、実際の現場の雰囲気が反映されているという。監督自身は、劇中の監督のように偉そうにふるまっていないとか。脚本家のカン・チュンレイさんとの関係は良好で、理性的にコミュニケーションを取り、互いを理解できるように話し合いを重ねたそうだ。
また、元々撮影しようとしていた脚本を急遽変更したことで、キャスティングに苦心したことも明かしてくれたウェイ監督。元の脚本で決定していたキャストをそのまま使って新たな脚本で撮影したかったそうだが、キャストからの同意を得られず、解約金を支払って、新たにキャスティングをしたという。ちなみに、劇中の脚本家役は、本作の脚本を担当しているカン・チュンレイさんが演じている。
本作の撮影地は湖南省の地方都市だが、ウェイ監督によると、脚本が急遽変更になっても、すでにスタッフが現地入りしていたため、撮影地を変えずにそこで撮るしかない、やむを得ない状況での撮影だったそうだ。ただ、撮影を行った町は、かつては繁栄していたのに今では衰退した町だが、その一方で新たな地域振興が推進され、新旧の雰囲気が混在していて本作にふさわしいと考えたという。
さらに、エンディング曲のラップについて質問があがった。ウェイ監督自身はラップ好きで、本当は自らが手がけたラップを使いたかったそうだが、自身のレベルはまだまだなのでプロに依頼したという。ラップのタイトルは柔道でいうところの「背負い投げ」のような意味合いで、ラップの内容は意見の異なる2人の戦いを表現しているそうだ。
最後に、ウェイ監督は、「感染状況が危うい中で、映画を観に来ていただきとても嬉しいです。みなさんと一緒に映画を観ることができないのは残念ですが、またフィルメックスに参加して、みなさんとリアルにお会いしたいです」とリモート越しに観客に語りかけ、質疑応答を締めくくった。
ひとつひとつの質問に丁寧に回答してくれたウェイ監督には、会場から大きな拍手が送られた。ウェイ監督の今後の活躍に期待したい。
文・海野由子
写真・明田川志保