第15回東京フィルメックス ラインナップ発表記者会見
TOKYO FILMeX ( 2014年10月16日 19:35)
10月15日、カナダ大使館オスカー・ピーターソン シアターにて第15回東京フィルメックスのラインアップ発表記者会見が行われた。最初に、カナダ大使館広報部長のローリー・ピーターズさんが登壇し「10年前、東京フィルメックスではカナダのガイ・マディン監督の特集が開催されました。そして、今年は日本でも人気の高いデヴィッド・クローネンバーグ監督が特集されます。今年、カナダと日本の外交関係が85周年を迎えます。東京フィルメックスは15周年、あわせて100年ですね。この記念の年に、私たちが協力できるのは大変嬉しいこと。ご成功をお祈りしています」と挨拶を行った。
続いて、林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターと市山尚三プログラム・ディレクターが登壇。林ディレクターは、第15回を迎えることに感謝を述べ、「今年も素晴らしい作品が揃いました。One film festival can change the world. それくらいの気持ちで、私たちは準備を進めています」と挨拶した。
今年の審査委員長はジャ・ジャンクー監督、東京フィルメックスとも縁の深い中国の巨匠だ。林ディレクターは「これまでなかなかタイミングが合わなかったのですが、ようやく念願叶って審査委員長としてお招きできることになりました」と喜びを語った。審査委員長以下、撮影監督の柳島克己さん、東急文化村美術・映像事業部プログラミングプロデューサーの中村由紀子さん、台湾の映画評論家の張昌彦さん、アメリカからプレス・アタッシェのリチャード・ローマンドさんが、コンペティション部門の審査にあたる。
コンペティション作品は、9本中5本が長編監督デビュー作と、フレッシュな作品が並んだ。「これらの作品に共通しているのは、"闇"を描いているということではないかと思います。世界の闇、時代の闇、個人の心の闇。それは決して暗いものではなく、未来への光明を求めるための闇です」と林ディレクター。すべて日本での劇場公開が未定である。
特別招待作品は、すでに発表されていたオープニング作品『野火』(塚本晋也監督)、クロージング作品『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(クローネンバーグ監督)とともに、全11本が上映される。昨年審査委員長を務めたモフセン・マフマルバフ監督の新作『プレジデント』は、久々の長編劇映画。「初期作品を思わせる部分もあり、マフマルバフ監督の演出力を堪能できる一本」(市山Pディレクター)という。ツァイ・ミンリャン監督が引退表明後にフランスで撮影した中編『西遊』のほか、アモス・ギタイ、キム・ギドク、篠崎誠、廣木隆一、リンダ・ホーグランド、行定勲など、多彩な監督が顔を揃えた。以上に加えて、サプライズ上映の作品が10月22日頃に発表される予定。
特集上映の一つめは、「1960 --破壊と創造のとき--」。「破壊と創造」は大島渚監督の著書から取られた言葉である。『青春残酷物語』のデジタル4k修復版が今年のカンヌ映画祭でワールドプレミア上映されたことに合わせ、1960年に作られた日本映画の傑作3本を上映する。1960年という年について、林ディレクターは「1958年には日本映画の製作本数が、60年には映画館数がピークを迎えました。黒澤明、小津安二郎、成瀬巳喜男、市川崑といった錚々たる巨匠が活躍しており、それに加えて大島渚、吉田喜重、篠田正浩といった若手が台頭していた。ジェネレーションが層をなして、映画をいっそう豊かにしていた時代だと思います」と語った。
『彼女だけが知っている』(髙橋治監督)、『武士道無残』(森川英太朗監督)の2本は、松竹と東京フィルメックスによりデジタル素材が新たに作成された。いずれも若々しい情動ほとばしる傑作である。また連動企画として、11月29日から12月12日まで、ヒューマントラストシネマ有楽町で『青春残酷物語』『彼女だけが知っている』を含む1960年の松竹作品8本がレイトショー上映される。
2つめは、最新作『マップ・トゥ・ザ・スターズ』が上映されるクローネンバーグ監督。デビュー作『ステレオ/均衡の遺失』(69)とそれに続く『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』(70)が、カナダ大使館との協力により上映される。クローネンバーグ作品は初期作品を含め多くの作品が日本で観ることができるが、この2作品については機会が非常に少ないという。市山Pディレクターは「デビュー作がその監督の作家性をよく表している、とはよく言われることですが、この2本は低予算の自主映画でありながらすでに、スタイルとテーマ性が完成しています。状態のよい35mmプリントで上映できる機会はとても貴重。未見の方はもちろん、一度観た方も、ぜひご覧になっていただきたい」と力をこめた。
「ネクスト・マスターズ・トーキョー2010」「タレント・キャンパス・トーキョー」としてこれまで4回にわたって実施されてきた人材育成事業は、「タレンツ・トーキョー」と改称して今年も行われる。今年のコンペティション部門では、2010年の参加者であるフランシス・セイビヤー・パション監督の『クロコダイル』が上映される。メイン講師の諏訪敦彦監督らのほか、映画祭参加監督によるマスタークラスも予定されており、一般への公開講義が11月27日に予定されている。
会見の最後に、塚本晋也監督、廣木隆一監督、篠崎誠監督、髙橋泉監督が登壇し、それぞれコメントを寄せた。
東京フィルメックスで上映されることについて、『野火』の塚本監督は「非常に光栄に思っている」と繰り返した。「映画は、それを通してある思想を語るものではなく、あくまでも受け止め方が自由であるような芸術として成立していなければならないと思っています。でも一方で、急速に戦争へと傾いている現在の日本の状況に恐怖を感じて、このような戦争映画を作った。オープニング作品に選ばれたことは、作品を評価してくれたのは勿論だと思うけれど、その恐怖に共感してくれたのだ、と感じました。そのことがとにかく光栄です」
塚本監督は1971年から続くカナダのモントリオール・ヌーヴォー映画祭で今年、功労賞を授与されている。カナダ大使館での会見ということもあり、そのことに話が及ぶと「ずっと自分の映画を熱心に見続けてくれている映画祭で、1本1本を必死になって作ってきてよかったなと...でも今日これを持ってくるのはものすごく恥ずかしかったです」とはにかみながら、トロフィーを披露してくれた。
『さよなら歌舞伎町』の廣木監督は、「笑いあり、涙あり、ハダカあり...というラフな作品です」と自作を紹介。すでにトロント国際映画祭と釜山国際映画祭で上映されているが、「熱心に観てくれた。日本での反応が楽しみ」と語った。作品は歌舞伎町と大久保近辺を舞台にしており、街頭のヘイト・スピーチの様子もカメラに収められている。トロントでの上映では「なぜこの光景を作品に入れたのか」という質問が観客から出たが、「実際に日常的に街で起こっていること。日本の非常に恥ずかしい部分ではあるけれど、隠すことはないと思った」という。
篠崎監督は、第1回東京フィルメックスで『忘れられぬ人々』が上映されて以来、作品の上映は14年ぶりとなる。今回上映される『Sharing』は教鞭を取る立教大学現代心理学部での研究目的で作られた作品で、劇場公開を想定したものではなかったという。バンクーバー国際映画祭で上映された際、「プログラマーのトニー・レインズ氏が(今回特集上映される)クローネンバーグの最初の2本に似たものを感じる、と評してくれた。30年前に観たきりなのですが、潜在意識にあったのかもしれない。今年また観られるのを楽しみにしています」と意外な縁を語った。
コンペティション部門で『ダリー・マルサン』が上映される髙橋監督は、脚本家として活躍する一方で「吐き出したいものを表現する映画を作っている」という。「その想いを拾ってくれる、しっかり観ていただける映画祭だと思う。受け取る側の熱量を感じます」とコメントした。
第15回東京フィルメックスの上映作品は「たった25本、しかし濃くて深い25本」(林ディレクター)。11月22日(土)から11月30日(日)まで、有楽町朝日ホールとTOHOシネマズ 日劇にて開催される。前売券は11月3日(祝)より、チケットぴあにて発売。昨年に引き続き、平日昼間の上映を対象とした「限定早割」チケットが11月9日まで販売される。今年は前売券が完売した場合に当日券は販売されない(キャンセルが出れば販売する場合あり)。最新の情報は公式サイトを確認されたい。
また、東京フィルメックス事務局スタッフが雑誌連載してきた92本のレビューを掲載した『この映画を観れば世界がわかる〜現在を刺激する監督たちのワールドワイドな見取り図』(言視舎)が10月下旬に発売されることも発表された。映画祭期間中、会場限定価格での販売も予定している。
(取材・文:花房佳代/撮影:白畑留美)
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