『真夜中の五分前』行定勲監督Q&A
TOKYO FILMeX ( 2014年11月23日 17:00)
11月23日、有楽町朝日ホールにて特別招待作品『真夜中の五分前』が上映が行われた。本作は、本多孝好の同名原作をオール上海ロケで映画化した日中合作映画で、三浦春馬、リウ・シーシー、チャン・シャオチュアンと日本、中国、台湾の若手スターが見事なアンサンブルを見せている。上映後のQ&Aには行定勲監督が登壇し、撮影秘話やこだわりのサウンドデザインについて熱く語った。
行定監督の作品の上映は第1回でコンペティション部門に出品された『贅沢な骨』(01)以来となり、「とても嬉しいです」と喜びを語った。まず市山尚三東京フィルメックスプログラム・ディレクターから、主演3名のコメントが読み上げられた。
日本人の時計修理士を演じた三浦春馬さんからは、本作品に参加できたこと、行定監督の演出を体験できたことへの感謝と喜びが伝えられ、「中国での撮影でスタッフ・俳優陣は幾度となく壁にぶつかってきましたが、監督の作品への熱意を感じ、励まされ芝居をするエネルギーをいただきました。本当に感謝しています。心地よい時間が物語全体を包み込むこの作品が、沢山の方のもとに届くことを切に願っています」と、観客へのメッセージが届けられた。
また、見分けがつかない程似ている双子のルオランとルーメイを演じたリウ・シーシーさんからは「ふたりは人生すらも共有していて、感情や愛情の縺れた迷宮の中にいる姉妹です。海外では、映画のラストシーンに対して、観客それぞれ自分なりの感想を持ち、色々な意見を教えてくれました。ご覧いただいた皆さんの感想はいかがでしょうか?とても知りたいです」。双子の妹の恋人役チャン・シャオチュアンさんからは、「撮影のため、東京に行くことができず残念です。僕らが心をこめて作った映画を応援してください」とメッセージが寄せられた。
会場からの質問の前に、市山PDが、ホウ・シャオシェンやジャジャンクーの音楽を担当している半野喜弘さん、台湾ニューウェーブの監督たちと仕事をしている録音技師のドゥ・ドゥチーさんらと映画を作ることになった経緯を訊ねた。
自身が一番影響を受けたのは台湾ニューウェーブの作品、という行定監督は、『春の雪』(05)でホウ・シャオシェン監督作品のカメラマンであるリー・ピンビンさんと組んでいる。今回は「中国語で撮影するのが初めだったので、絶対に信頼のおける人と組みたい」と、最初にオファーしたのが旧知のドゥ・ドゥチーさんだった。行定監督は林海象監督の助監督時代、林監督と交流のあったエドワード・ヤン監督の『牯嶺街少年殺人事件』(1991)の撮影現場を手伝い、ドゥさんの録音技術に驚嘆したという。
上海は騒音が多く、音声をアフレコすることも当初は考えていたそうだが、「アフレコは必要ない」と話すドゥさんのアドバイス通り「何の遜色もなく仕上がってきたことに驚いた。その仕事ぶりがとにかく素晴らしく、静寂を作り出す音響で、プールのシーンも見違える程だった。映画に魂を吹き込むとは何かと感じられたし、一緒に仕事できたことは大きい」と行定監督。
一方、音楽を担当した半野さんと知り合ったのは、12年前にテレビドラマで一緒に仕事をしたのがきっかけ。「今回フェイスブック経由で依頼したら、(パリ在住の半野さんから)数分後に返事がきた」と即答だったという。行定監督の次回作でも、半野さんの起用が決定している。
客席から主演の三浦春馬さんの印象について訊かれると、実直な人柄、と応じ「彼自身は自分は面白みがない人間だと言うけれど、実はそこが一番面白い。作品ではそういった部分を披露してくれと頼みました。映画の中で描かれている主人公リョウの日常は、起きて食事をし、時計を修理し、仕事が終わればプールに行き、帰って寝る、の退屈な繰り返し。役作りしようがないんです」と行定監督。
そんな三浦さんの実直さが表れていたのが、難しい中国語の学習。リョウの語学力は現地に住んで一年半くらいのレベル、という設定だったにも関わらず、三浦さんが真面目に取組み過ぎたためにそれ以上に上達してしまい、心の中で「上手すぎるんだよな...」とぼやいてしまった、というエピソードには会場から笑いが起きた。その語学力は中国人の共演者からも「全く問題ない」と太鼓判を押されたそう。チャン・シャオチュアンさんも三浦さんと口論するシーンでは「すごく熱くなった」と語ったほどで、中国での公開時もアフレコが全く必要なかったという。
次にリウさんの起用について質問が上がった。「日本人が監督した映画を中国で上映するためには、人気女優である彼女の力は大きかった」とのことで、事実中国での公開では成功を収めている。その演技について行定監督は、「ウィスパーボイスが魅力的。ま気持ちで演じるタイプで、監督が指示をしないかぎり、余計な動きをしない。佇まいが綺麗で、気持ちが動いた時だけ反応する」と評した。
「限りなく似ていて、感情を共有し、相手のことを映し鏡の様に見ていて記憶している」と設定された双子の姉妹。その二役を演じたリウさんは両者の笑い方に密かに違いをつけていたようで、監督も編集の段階で気が付いたという。監督曰く「とてもマイペース」というリウさんは「自分の心の中のプランを宣言しない人で、日本人監督にとってはやりやすい俳優ではないか」とのこと。「アフレコでも感情の再現が完璧だった」と絶賛した。
一人二役の撮影方法について訊かれると、「真似されると嫌だから、ここでは話せません」との答えに、会場は笑いに包まれた。三つ子が登場する『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』(14)で既に試した手法で「実は驚くほどアナログ。モーフィング(CG)を使ったデビッド・フィンチャーに教えたいくらいです」と行定監督がユーモアたっぷりに話すと、再び会場からは笑いが起きた。
最後の質問は印象的なラストシーンについて。何が本当なのか、撮影時も出演者と答え合わせはしなかったそうだ。ただ、観た人が考えることが重要だ、と行定監督。「自我は、周囲の人々との関わりによって自覚し、形成されるもの。双子の姉妹はアイデンティティーを疑われるようなことを他人から言われて育ってきた。リョウのように周囲から孤立した人間と、アイデンティティーが曖昧になって何者でもなくなってしまった女性。この二人がどう出会い、向き合っていくのかということがラブストーリーの種だった。明快な答えがなくてもラブストーリーは作ることができると思っています。人それぞれに考えた答えがあって、向き合い方が違う」
謎めいた結末は中国上映時にも話題になったと明かし、「ぜひ皆さんで論争してください」と締めくくった。
『真夜中の五分前』は12月27日より全国公開される。
(取材・文:阿部由美子、撮影:明田川志保、白畑留美、関戸あゆみ、船山広大、村田まゆ)
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