『生きる』パク・ジョンボム監督Q&A
TOKYO FILMeX ( 2014年11月24日 18:00)
有楽町朝日ホールで11月24 日、コンペティション作品『生きる』が上映され、上映終了後のQ&Aに主演も務めたパク・ジョンボム監督が登壇した。主人公ジョンチョルは姉とその娘の3人暮らし。建設現場での職を失い、韓国・江原道の味噌工場で働いているが、困窮するジョンチョルら労働者には厳しい現実が待ち受けていた。2011年の東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞した『ムサン日記~白い犬』に続く、パク監督の長編2作目。2度目のフィルメックス参加となったパク監督に、観客から鋭い質問が飛んだ。
3年ぶりのフィルメックス参加の感想を「僕にとっては、ここで上映してもらえるだけでも大きな力になっています」と語ったパク監督。『ムサン日記~』は親しい友人の実体験をもとに書かれた作品だったが、今作もまた、弟のような存在だった友人の自殺がきっかけになっているという。「友人の自殺のあと、"生きる"こととは何なのかを考えてこの映画を作ることにしました。彼には鬱病の一面があったのですが、その部分を主人公の姉に少し投影しています」
そんな精神状態が不安定な姉の声を、離れたところにいる主人公の友人が聞くというシーンがある。観客からは、そんな非現実的なシーンの意図を問う質問があがった。「心が通じる瞬間に、きっと声が聞こえるのではと思った」というパク監督。「呼べば相手にその声が届くという信念がありました」と意図を説明した。
音に関する話題が出たところで、林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターからも「ハードな環境における労働にまつわる音など、いろいろなこだわりが響いてくる作品」との意見が。音に関する考えを聞かれた監督は、「この映画で最も大切だと思ったのは"息"をする音」だと明かした。「なぜなら、生きている私たちは息をしているから。それから、食べるために労働する、生きるために労働するので、労働にまつわる音も大切。生きるために大切な音を映画の中に入れたのです」
本作は約3時間におよぶ長尺。この長さについて、観客から「必要だったのか?」という質問があがると、パク監督は、「シナリオの段階では、4時間ぐらいの映画になると思っていた」と苦笑い。「実際に劇場で苦しそうに観ている方々の息遣いがしっかり耳に入ってきたので、もう少し削ったほうがいいのかなとも悩みました。でも、"生きる"ことは非常に退屈なこと。何かを待たなければいけないし、見たくないものも見なければいけない。この尺の長さと"生きる"ということが通じ合うのではと思ったので、3時間に収めるのがぎりぎりの線だったのです」とユーモアを交えて答えた。
『ムサン日記~』に続き、本作でも監督・主演の二役をこなす。最後に林Dから、これからもこのスタイルを続けていくのかと尋ねられ、その理由が北野武監督にあることを明かした。「私が映画をやりたいと思ったきっかけは、北野監督の作品を観て尊敬するようになったからです。ご存知のとおり、北野監督は俳優もされています。それに私は、大学では体育教育学科だったので、まわりから映画の撮り方を教えてもらうこともなかった。最初から自分でカメラをセッティングし、その前で演技をし、そして自分で演出するというやり方で始めたので、俳優として演じることと、演出をするということは全く別の仕事という意識ではなかったのです」とはいえ、主演を兼ねることにこだわりはない様子。「もし今後、商業映画を撮ることになった場合、私が出ると喜ばれないと思うので出演はしなくなると思います」と述べ、観客を笑わせた。
生きるためにがむしゃらに働く労働者の姿と、困窮が更なる困難を生んでいく現実をじっくり描き込んだパク・ジョンボム監督。その力強い演出力に、準備中だという次回作にも期待が膨らむ。『生きる』は11月26日(水)11時から、朝日ホールにて再上映が予定されている。
(取材・文:新田理恵、撮影:明田川志保、関戸あゆみ)
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