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『ギフト(仮題)』リンダ・ホーグランド監督Q&A
from デイリーニュース2014 2014/11/25
11月25日、有楽町朝日ホールにて特別招待作品 『ギフト(仮題)』が上映され、リンダ・ホーグランド監督が上映後のQ&Aに登壇した。本作は、昔話「鶴の恩返し」をモチーフに、北海道やアメリカ各地に取材し、傷ついた動物たちが人間に救われ、変貌するありさまを探るドキュメンタリー作品。第13回で特別招待作品として上映された前作『ひろしま 石内都・遺されたものたち』(12)に続いて2度目の登場となるホーグランド監督は、日本で生まれ育ち日本語が堪能。数多くの日本映画の英語字幕も手がけている。Q&Aでは自ら通訳を務めるだけでなく、観客の質問ひとつひとつにユーモアを織り交ぜて応えるなど、終始和やかな雰囲気の中で行われた。
まず、林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターから「とても染み入る作品。『ひろしま 石内都・遺されたものたち』(12)に続いて、美しい映画をありがとうございます」と感想が伝えられた。ホーグランド監督も「前作に続いて呼んでいただきありがとうございます。厳しい林さんのお目にかなって光栄です」とお礼を述べた。
本作が作られた経緯について、前作の存在がなければこの映画は作られていない、とホーグランド監督。「10歳の時に、日本の小学校で広島・長崎への原爆投下を学び、アメリカ人である私は歴史によって、加害者側であると気づかされただけでなく、心に傷となって残った」と語った。一方で、本作がその傷を癒すきっかけにもなったという。
客席から「傷ついた動物たちと保護する人間との関係がとても自然に描かれていた。鶴の恩返しではその関係が破たんしてしまっているが、なぜこのテーマを選んだのか?」と問いかけられるとホーグランド監督は「あなたにぜひ宣伝担当をお願いしたい」と笑顔を見せた。教会で祝福を受ける動物たちを見て「動物がはたして人間に祝福される必要があるのか?」と感じたことが始まりだったという。これには、監督自身が日本で育った影響もある、と補足した上で、「もしかしたら祝福されているのは人間たちかもしれない。そこで、鶴の恩返しを思いついた。しかし、この解釈に至るまでには1年ほどかかった」と動物と人間、昔話が結びつくまでの苦労を語った。
また、鶴が機織りで紡いでいるのは、一度は自分たちを捨て裏切った人間たちを、もう一度信頼する覚悟であり、その信頼こそが"Gift"なのだという。Giftは英語では古くからある言葉で、多くの意味を持つという。「いただきもの、授かりもの、賜りものというふくよかな意味をもつ言葉。Gift=信頼は、向こうからやってくるもので、お金では手に入らない。人間に裏切られた動物が、もう一度与えてくれようとする、とても純粋なもの」とホーグランド監督。
紙芝居を思わせる印象的なアニメーションと実写を組み合わせについて「動物の主観的な体験を表そうとした。もちろん、人間には想像しかできないけれど。紙芝居の中で、自由に動物の主観を考えて欲しい」と意図を説明した。
ここで林Dから、本作では素晴らしい多彩な才能が集結していると紹介された。
ホーグランド監督が「素晴らしいカメラウーマン」と評するクリスチャン・ジョンソンは、マイケル・ムーア監督『華氏911』(04)、エドワード・スノーデンのドキュメンタリーとして話題の『Citizenfour』(日本未公開)などを撮影している。イラストレーションは、香港出身のヴィクト・ナイは、ニューヨークタイムズでも取り上げられている。「彼女は明らかに葛飾北斎と宮崎駿の影響を受けている。でも、伊藤若冲を知らなくて紹介したらあるシーンにモチーフを取り込んでくれた。彼女も若冲も、描いている動物の中に魂や個性がある」
また、ナレーションを担当した大女優ヴァネッサ・レッドグレイブについては「彼女にしか語れない表現や言葉がある。ポリシーと経験が凄い人」と監督。彼女からは「スペシャルな作品なのに、どうでもいい言葉なんていれちゃだめ」とダメ出しがあったそうだが、ホーグランド監督は「脚本を書いているのは私なんですが...」。そんなやり取りが明かされると、会場は笑いに包まれた。
音響は『ブラックスワン』(10)などのサウンドデザイナー、ポール・アンダーソンに依頼し「とても細かくこだわって作られた音」になったという。
エンディングでは、坂本龍一作曲の『AQA』が使用されているが、以前から動物保護活動に熱心な同氏に本作への協力を打診したところ、快く楽曲を提供してくれたというエピソードも。
「私の映画づくりは『ANPO』(10)の頃から一貫しています。観客の皆さんに美しいものをお見せして、いかがですか?と問いかけるスタイルです」とホーグランド監督。また、学者や過激な発言をする人を出演させないのも監督のこだわりだとか。「美しい実写の映像を、世界一のカメラマンに撮影してもらい、みなさんにご披露するのが私の手法」と作品づくりへの思いを語った。
鶴の恩返しをモチーフにしたことで「シェイクスピアでも歌舞伎でも、物語が何百年も残る理由は、物語の構成に人間が納得する深いものが秘められているから。それを私が演出するときには、私の解釈や脚色が必要不可欠だと気づくのに時間がかかった」と、誰しもが知る物語だからこその苦労を明かした。
ここで時間となりQ&Aは終了となった。最後に監督から「本作で動物保護に興味を持った方は、どんな小さなことでもよいので支援の手を」と述べ、来場されていた保護団体の方々を紹介。
林Dが「映画のプロフェッショナルが集結して生み出された、素晴らしく美しい作品。ぜひ来年の公開に向けて、皆様の声をお願いします」と締めくくると、改めて大きな拍手が贈られた。
(取材・文:阿部由美子、撮影:明田川志保、白畑留美、村田まゆ)
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