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『ティクン~世界の修復』アハロン・トライテルさん(主演)Q&A

img_969011月25日(金)、有楽町朝日ホールにて「特集上映・イスラエル映画の現在」の『ティクン~世界の修復』が上映された。本作は、イスラエル映画界気鋭のアヴィシャイ・シヴァン監督が手がけた新作で、ユダヤ教超正統派コミュニティで暮らす神学生の身に起こった出来事が静謐なモノクロ画面で展開する。今回、残念ながらシヴァン監督の来日は叶わなかったが、上映後に主演のアハロン・トライテルさんが登壇し、観客との質疑応答に臨んだ。

まず、司会の市山尚三東京フィルメックス・プログラムディレクターから、本作に関わることになった経緯について尋ねられると、トライテルさんは自身の経歴から語ってくれた。本作の主人公同様、超正統派コミュニティで育ったというトライテルさんは、15歳の時に還俗。本作に関わることになったのは、役者の求人広告を見て応募したことがきっかけだとか。応募当初は出演を断られたものの、その後、適任の役者がなかなか決まらず苦心していた監督から出演要請があったという。「あなたが最も適任な俳優だとは思えないが、他の人には決してできないものがあなたの内側から滲み出ている」と監督から言われ、出演が決まったそうだ。

img_3516俳優以外にも、イディッシュ語の字幕翻訳や超正統派に関する宗教的なアドバイザーとしてクレジットされているトライテルさんだが、超正統派出身ならではのアドバイスが本作に生かされたようだ。というのも、超正統派コミュニティは非常に閉鎖的なため、コミュニティの中にいる人々が何を考え、どのように生活しているかということを、外から理解することは難しいという。より実情に即した内容にするために助言をして、脚本に手を加えたこともあったそうだ。

続いて、会場からの質問に移った。本作はすでに数々の海外の映画祭で上映され、2015年にエルサレム映画祭で最優秀作品賞、ロカルノ映画祭で審査員特別賞を受賞しているが、海外での上映時に得られた反応について観客から質問が寄せられた。トライテルさんは、ブラジルの観客の反応について紹介し、キリスト教でも似たようなコミュニティがあり、共感できるところがあるというコメントをもらったことを説明。これまでのところ、肯定的な反応も否定的な反応もあったという。ちなみに、超正統派の人々は映画館で映画を観ることはもちろん、テレビすら見ることはなく、世俗から切り離されているという実情も明かしてくれた。

img_3532また、主人公と同じ背景を持つトライテルさん本人に対して、会場からさらに踏み込んだ関心が寄せられると、トライテルさんは、15歳で還俗した理由、徴兵、還俗した人々への社会支援などについて丁寧に語ってくれた。「私自身、神そのものは信じています。ただ、私の育ったコミュニティは、神という概念を使って人々をコントロールしようとする、あるいは、神の名を語って政治力を手にしている、と感じたので、そこにはいたくないと思ったのです。超正統派から抜けて世俗に入ると、言葉や物事の進め方など何もかもが違っていて、まるで新しい惑星に住んでいるようでした。また、還俗前にすでに徴兵を免除されていたので、兵役にはついていません。世俗になじむためには長いプロセスが必要なので、還俗した人々を支援する社会のプログラムも検討されているようです」

俳優経験がないまま、いきなり主演俳優としてスタートしたトライテルさん。現在はテルアビブの映画学校に通っているという。最後に、「将来、監督として作品を作りたい」と抱負を語り、Q&Aを締めくくった。トライテルさんの話は、日本では馴染みのないユダヤ教超正統派の教義や世界観に触れた作品の理解の手助けとなり、熱心な観客から大きな拍手が贈られた。

なお、東京フィルメックスでは、11月27日(日)に有楽町朝日ホールにて再上映される。

(取材・文:海野由子、撮影:明田川志保、穴田香織)

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