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【レポート】『水俣曼荼羅』 Q&A

10月31日(土)、TOHOシネマズシャンテにて特別招待作品として原一男監督『水俣曼荼羅』が上映された。本作は日本四大公害病として知られる水俣病の補償を巡って国・県との裁判を戦い続ける患者たちのドキュメンタリーだ。上映終了後、胎児性水俣病患者の坂本しのぶさんのビデオメッセージが上映された。

その後、水俣病の被害者であり「水俣病被害者互助会」の団長である佐藤英樹さん、その妻の佐藤スエミさん、事務局長の谷洋一さんが水俣よりリモート出演した。
まず、市山尚三東京フィルメックスディレクターが映画の感想を尋ねた。英樹さんは「水俣のことよく撮っていた」と語った。スエミさんは「被害者が辛い思いをしている水俣病は今も解決に至らないのは、国・県の心の醜さであるとわかった」と語った。
 
続けて、裁判の最近の状況を問われると、国家賠償訴訟は2020年3月に福岡高裁で8人全員が認められず、上告中であること、また、義務付け訴訟はコロナウイルスの影響に遅れていたが、熊本地裁で2020年11月より再開されるとコメント。
市山ディレクターは「本作は今後全国公開されると、水俣病問題に対する日本の人々の認識が高まると思う。今後の裁判がいい方向になるように祈っている」とコメントし、それに対して、英樹さんは「水俣病は全国的に終わったように報道されているが、まだまだ解決されていないので、まだ解決されていないことや国や県が行っていることを知ってもらいたい」と語った。

 
最後にスエミさんより、「被害者は皆患者であるのに、国・県は認定する人としない人と平気で差別してきた」という現状の訴えから、被害者のことをわかろうとしない行政への憤り。そして、福岡高裁の判決を受けて、「悪いことをした人が勝ち、何も悪くない被害者が負ける。どう考えても間違っていることが日本で起こっているんです。国・県が心を入れない限り水俣病はいつまでも終わらないと思います」と語った。
 
その後、原一男監督、二宮正医師が登壇。まず、二宮さんより「水俣病は学生の時から、30年かそれ以上関わってきました。原さんと出会って、映画をなんとか世に出せたこと嬉しく思う」と語り、「坂本しのぶさんを見てわかると思いますが、原因はチッソがメチル水銀を流したことはわかっていますが、結果はまだ(症状が)進んでいるんです。その中でも生きていることが国・県に対しプロテストだと感じています。死ぬまで生きるしかないから、頑張って生きていかないといけないと思います。また、患者以外の支援者の人も水俣病がなかったら全く普通の生活をしたかっただけなのに、どういうわけか皆さんと違う生活をしなければいけなかった」と声を震わせ語ってくれた。
続けて、原監督より「6時間って長さはかかるんだな、と認めていただけると嬉しいです」と笑顔で語った。

 
市山ディレクターより「裁判の話を追っているストーリーだと思っていたが、途中で二宮さんの医学的な話が語られるシーンがあった。我々が知識的に知らなかったことが明らかにされていて、今に至る問題を提示しているのは予想しなかった」と話した上で、二宮さん出演の経緯を聞いた。
原監督は「二宮さんとは撮影最初からの出会い」だと語った上で、「二宮さんは撮影の途中から裏方さんとして、マイクを持ってもらったりしました。ずっと一緒だったんです」と交友を披露した。
二宮さんは「一番最初から最後まで、編集も一緒」と答えると原監督は「16、7年になるんじゃないか」と回顧していた。
 
会場からの質疑応答に移った。まず、タイトルの「曼荼羅」に込められた意味についての質問が挙がった。原監督は「私がやるまでは土本典昭監督が作医学としての水俣病をテーマにした三部作を作っていらっしゃった。しかし、私は医学にまとめる発想はやめようと思った」と語り、「水俣病は患者だけじゃなく、医学者もジャーナリストも映像の作り手も全部ひっくるめて一つの水俣病世界がある気持ちを込めて作ったので、曼荼羅というタイトルがぴったりすると思っています」と答えた。
 
続いて、作品をここで完成にしようと思った判断についての質問に対し、気になっている人やエピソードを15年通って「ここまでかな、と自然に思えたところで終わりにしよう」と原監督。
 
撮影のきっかけについて、大阪電気通信大学の事務局長が関西訴訟の支援をしている人が誘ってくれたそうだ。「100万円出すという話だったが、1,000万円以上出してもらうことになりました」と話すと会場から笑いが漏れた。

作品に取り組まれて、人が人たる所以をどのように捉えられたか、という問いに対して、まずは二宮さん。「水俣病は人が壊されていった歴史だと思います。人が人じゃなくなっている方向に動いている気がします。峠三吉の原爆の詩の中で“にんげんをかえせ”ってありましたが、私もそういう気持ちがあります」。原監督は「二宮さんの人が人でなくなる、という言葉は簡単に言ってしまうと誤解を与えやすいので、丁寧に説明しないといけない」と観客に語りかけ「人が人でなくなるというのは本作のとても大きなメッセージです。映画の中では五感がやられると表現していますが、それだけじゃ足りません。つまり、人が言っていること、考えていることを理解し、受け止め、整理をする。そして、自分の考えを相手に伝えるというコミュニケーション」と説明し、二宮さんは何かを判断をする脳の中枢に障がいが起こっていると補足した。
原監督は「人間が文明を作ってきた。文明を享受するのは五感」と前置いた上で「今、南極で泳いでいる魚の体内にメチル水銀が発見されているというデータがあります。メチル水銀を含む魚が泳ぎ回っているということは水俣病が地球上至るところで広がっていく可能性を持っているということ。そして文明を享受できなくなるということは人間が人間としての優位性を破壊されることを意味します。従って、日本の中で受け止めるのではなく、全地球規模の問題なんです」と訴えた。

観客からの作品の尺を削る際に気にした点はあるか、という問いについて「シリアスなテーマで扱おうが、エンターテイメントとして作らないと誰も見てくれない」ことを念頭に、「メッセージをきちんと入れつつも、6時間飽きずに面白かったよと言ってもらえるかどうかという感覚があります」と原監督。
 
最後に市山ディレクターがお二人にコメントを求められ、二宮さんは「自分のやったことは論文で残しました。さらに映像として残っていくのは、後の人がすぐに見られるのでありがたいことだと思います」とコメント。原監督は「正直に言いますと、いい映画だとしても興行が始まったらお客さんが来ないのかもしれないという不安があります。めげずに戦いますが、(観客のみなさんがたくさんの人に)見てと言って、背中を押していただけたらありがたいです」とコメント。
 
原監督のユーモラスな回答に笑いが起きつつも、水俣病の現状について改めて考えさせられる質疑であった。本作は2021年公開が決定している。
 
(文・谷口秀平、撮影・明田川志保)


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