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【レポート】『不止不休(原題)』リモートQ&A


11月1日、コンペティション部門『不止不休(原題)』がTOHOシネマズ シャンテ スクリーン1で上映され、上映後には、北京にいるワン・ジン監督とリモートでQ&Aが行われた。本作は実在の新聞記者をモデルに、田舎から上京した青年がB型肝炎キャリアに対する社会的差別に着目し、新聞記者として成長する姿を描いたワン監督の長編デビュー作。
 
まず、本作で実在の新聞記者ハン・フードンをモデルにした制作経緯について問われると、ワン監督は社会派作品への熱い思いを次のように語った。
「電影学院を卒業して以来、第1作目ではどのようなものを撮るべきかとずっと考えてきました。電影学院で映画美学を学び、理想としては現実主義的な、社会派の映画を撮りたいと思っていました。中国は広大で、人口も多く、社会ではさまざまな事が起こっています。個人的な問題ではなく、社会的な問題に目を向けて、向き合っていきたいと思いました。主人公の新聞記者はペンを持って社会を見ていますが、私はカメラを持って社会を見ているという点でつながりました。」

続いて、バイ・クーさんを主演に起用した理由について訊かれると、シンプルな理由だと応じたワン監督。とういうのも、脚本を書くときからバイ・クーさんが頭の中にあり、ごく平凡な人の雰囲気が欲しかったという。中国では、バイ・クーさんはネットの短編作品で有名だそう。そうした作品では、毎回、厄介なことに出くわしながらも生きていくという大衆的なイメージがあり、本作の主人公ハン・ドンのイメージにぴったりだったという。
 
次に、2000年代に北京に留学していたという観客から、当時と現在では北京の街が様変わりしているため、撮影に苦労したのではないかと問われた。屋内の撮影については、スタジオを使用していたため、取材を行って、2003年当時の雰囲気を再現することはコントロール可能だったというワン監督。ただし、問題だったのはやはり屋外の撮影で、北京の風景の変化があまりに激しいため、いっそのこと別の場所に変えようかとも考えたとか。しかし、「これは北京でしか撮れない。なぜ多くの人が北京に惹きつけられるのかというのを出さなければならない」と思い直したそうだ。
 
さらに、リアリズムに徹していながら、劇中、ペンと新聞が浮遊するシーンにはどのような意図があるのかと訊かれると、「ふと思いついた演出で、急にアイデアが浮かんだ」と答えたワン監督。中国で2003年を象徴する社会的な出来事として、SARSと有人宇宙飛行の成功の2つが挙げられるそうだが、監督自身、宇宙好きという。「宇宙への夢は人類な壮大な夢で、ハン・ドンの夢は小さな夢だが美しく、夢はどれも同じ。そう考えると、ペンも空中に飛んでもいいのではないかと思いました。こういうシーンの解釈は、見た人の解釈に委ねたいので、自分の解釈を言いたくなかったのですが…」と、ワン監督は少しためらいながらも丁寧に説明してくれた。
 
最後に、このウィズ・コロナ(with Corona)の時期に本作を観ると感慨深いものがあるという観客からは、制作時期はパンデミック前だったのかという質問が挙がった。ワン監督によると、撮影自体は昨年11月から春節(旧正月)頃まで行われ、その時点ではまだパンデミックが明確ではなかったが、ポストプロダクションは完全にパンデミック時期と重なり、すべてリモートで行ったという。「コロナ禍で映画制作を続けるにあたり良かったことは、十分な時間があったということです。試行錯誤しながら、思索により多くの時間をあてることができました。そして、編集スタッフと意見が合わないときは、画面をオフにすればいいだけのことだと言い聞かせました。直接顔を合わせると喧嘩になってしまいますから(笑)」と、ユーモアを交えて語ってくれたワン監督。

ここで時間切れとなりQ&Aは終了した。ほぼ満席の会場では、観客から多くの質問が寄せられ、本作への関心の高さがうかがえた。本作は、詳細な時期は未定ながら、来年日本で公開される予定である。
 
(文・海野由子)
 

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