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【レポート】10/30『偶然と想像』舞台挨拶

10月30日(土)、有楽町朝日ホールで第22回東京フィルメックスが開幕し、オープニング作品『偶然と想像』が上映された。本作は短編3本からなるオムニバスで、第71回ベルリン国際映画祭で審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞した。上映前には舞台挨拶が行われ、濱口竜介監督をはじめ、第一話「魔法(よりもっと不確か)」に出演の古川琴音さん、玄理さん、第二話「扉は開けたままで」に出演の渋川清彦さん、甲斐翔真さん、第三話「もう一度」に出演の占部房子さん、河井青葉さんが登壇し、会場から大きな拍手で迎えられた。

まず、濱口監督が「2008年に『PASSION』で初めて呼んでいただき、13年経ってから、オープニング作品として『偶然と想像』を上映していただけることを嬉しく思っています」と感慨深げに挨拶した。

続いて、登壇者一人一人に本作を振り返ってもらった。

濱口監督作品に初参加だった古川さんは、撮影時に強く印象に残ったこととして、リハーサルでの経験を挙げた。「リハーサルでは多くの発見があり、今でも演じる上で大切にしていることを教えていただきました。ワークショップでは無言でジェスチャーを使わずに相手と会話するという不思議な体験をしました。監督の作品は言葉が美しいのですが、それと同じぐらい肌感覚で伝わるものを大切にしているということがわかりました」と振り返った。

第二話で長回しのシーンを演じた玄理さんは、演技で工夫した点を尋ねられると、「台詞を覚えるときには、感情を抜いて棒読みで覚えてから、台本を手放して、そのあとに台詞のやり取りの中に感情が出てきたらそれはそれでいいよというのが監督のスタイルと解釈しています」と、濱口監督の独特な本読みの手法を説明。そのうえで、お客さんが退屈しないようになどと余計なことを考えずに、「ただ台詞をしゃべって、リアクションを返すということだけのことをしたので、工夫しないことを工夫しました」と語った。

第三話での役作りについて尋ねられた渋川さんと甲斐さん。濱口監督のことをあえて「濱ちゃん」と呼ぶ渋川さんは、濱ちゃんに全幅の信頼を寄せて、「台詞を丁寧に理解するということが役作り」と明言した。これまでに演じたことのない役柄だったという甲斐さんは、「最初は僕の中にないものを求められている気がしていたのですが、結局、僕の中にある嫌な奴の要素を発掘したことが役作りだった」と回想した。

また、『PASSION』にも参加していた渋川さん、占部さん、河井さんからはさまざまなエピソードが飛び出した。渋川さんは『PASSION』のときにすごく驚いたこととして、全員初対面の状況で濱口監督がいきなり「1曲お願いします」と切り出し、自らスピッツの曲を歌い出したというエピソードを明かしてくれた。今回もまた変なことをするのだろうと思っていたという渋川さんの予想どおり、濱口監督は初日に全てのシーンを撮影したにもかかわらず、次の日もまた最初から撮影し始めて、渋川さんは驚かされたという。そして、占部さんからは、チームで四股を踏んだというエピソードが明かされた。同じチームの河井さんは、「四股を踏むってなんじゃそりゃ?と思ったのですが、これにも何か意味があるのかなと思っていました」と述懐。これに対して濱口監督は、「四股はいいよ! 腰ができてくるんだ」という友人の受け売りで、どのような意味があるのかわからなかったと白状して、会場を笑わせた。

占部さんと河井さんは『PASSION』での共演時に絡みがなかったが、今回は2人きりで会話するシーンが多い。リハーサルの時には、濱口監督が2人の間に入り、台詞は2人なのに3人で会話しているような気分だったそうだ。河井さんは、濱口監督が時間をかけたリハーサルに以前より確信を持っているように感じたという。

本作を短編集にした理由について尋ねられた濱口監督は、「いろいろと理由はあるんですが、基本的に自分が仕事をしたい役者さんたちと自由に仕事ができる場を持ちたかったんだなということが、こうやって話を聞いていてわかりました。長編映画では自由に時間を使うことは難しい。じっくり時間をかけられるようなプロジェクトということでこの短編集を考えました」と率直に答えてくれた。

さらに、本作はコメディとも呼べるほど、笑いの多い作品だが、この点について濱口監督は、本作を自身の作品の中で「一番軽やかで、風通しのいいもの」と評し、「一生懸命生きている人って、多少滑稽に見えるんですね。一生懸命やっている人をお客さんに受け取っていただきたいなと思っています」と語った。

最後に、濱口監督は本作の魅力を次のように語り、舞台挨拶を締めくくった。「役者さんたちと過ごした時間は宝だと思っています。カメラの後ろで自分が素晴らしいと思っていたものを皆さんにご覧いただきたい。『偶然と想像』は役者を観る映画だと思っています。」

濱口監督と役者さんたちの真剣、かつ、笑いを交えたやり取りの中に、深い信頼関係が垣間見え、作品への期待が大いに高まる舞台挨拶となった。

 

文・海野由子

写真・吉田留美、明田川志保


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