【レポート】ロウ・イエ監督『シャドウプレイ』Q&A

11月23日(土・祝)、有楽町朝日ホールにて、第20回東京フィルメックスのオープニング作品としてロウ・イエ監督の『シャドウプレイ』が上映された。本作は、都市再開発を巡る殺人事件の謎を追う1人の刑事と、5人の男女の愛と欲望が描かれるクライムサスペンスだ。中国、香港、台湾をまたぎながら、中国が辿った30年間の歴史を浮き彫りにする。上映後にはロウ・イエ監督が登壇し、「フィルメックスに戻ってくることができてとても嬉しいです」と挨拶。市山尚三東京フィルメックス・ディレクターも「第1回の最優秀作品賞を受賞した『ふたりの人魚』の監督であるロウ・イエさんを、第20回という節目の年のオープニングで迎えられることを、非常に嬉しく思っています」と述べ、会場はあたたかな拍手に包まれた。

2013年に広州市で実際に起きた汚職事件がもとになっている今作。その制作の背景を市山ディレクターに聞かれ、広州市内の真ん中にある「村」の存在が大きかったと話すロウ・イエ監督。「そこはビジネス街に囲まれた『村』で、空間的に非常に特別な場所でした。高層ビルが建っている中で昔のままの『村』が残っている。そんな珍しいロケーションから、『シャドウプレイ』を作る発想を得たんです。もしこの場所に出会わなかったら、この映画は撮らなかったと思いますね。すべての出発点は『村』ありきだったんです」と経緯を語ってくれた。
 
続いて観客から、「リアルな事実に基づいて作られた物語の中に、刑事ものや犯罪ものに見られるような派手な見せ場やアクションシーンをいくつか盛り込んだのは、監督自身そうしたエンターテインメント要素が好きだからか?」という質問が挙がった。「この物語は実際に起きた事件をベースにしていますが、人間関係の描き方はオリジナルで作り上げたものなんですね。先ほども話した『村』は非常に複雑な場所で。周辺との関係、政府との関係、実業家や官僚との関係、その他さまざまなことが入り乱れて、この『村』に凝縮されている。つまり『中国の生きた標本のような地区』でもあるんです。そこにジャンル映画の要素を持ち込むことによって、個人的なことが描けるかもしれないと思ったわけです。社会的な事件を背景としながらも、人と人との関係、なにより『人間』をしっかりと描くこと、それが僕の目標でした」と監督。
 
合わせてロケで「村」に行った時のことを回顧。「そこから周囲のビジネス街のオフィスまで、5分以内で歩き通せるんです。つまりその場所はその時間内で、30年前の中国から現在の中国までを一気に行き来できる。そのことに非常に不思議な感覚を覚えました。それで映画を通して、それぞれの時代のスピードと落差、そして異なる年代でありながらも同じ場所で物事が起きているという不思議な感じを表現したいと思いました。そのような場所に生きる人々への影響も非常に大きかったと思うので、その機微も描きたかったわけです」と振り返った。

質問は、劇中で効果的に使われる中国の流行歌「夜」と「一场游戏一场梦」のこと、もともとは曲名である「风中有朵雨做的云」をなぜ中国語の映画タイトルにしたのかまで及んだ。監督は中国の歌謡界に精通している質問者に驚きつつ、「映画のタイトルにした『风中有朵雨做的云(風のなかに雨でできた一片の雲)』とエンディング曲の『一场游戏一场梦(一夜のゲーム、一夜の夢)』、僕自身はどちらかというと後者の歌のほうが好きなんです。なのでそちらをタイトルにつけようと思ったんですが、国家電影局からそのタイトルはよくないと言われて、前者に変えたんです。ただしこれらの歌が映画の内容を決定的にするかというと、そうではないと思いますね。映画の内容と関係はあるけれども、映画自体さらに重要な意味を持っていると思います。それから『夜』と『一场游戏一场梦』はどちらも夢について歌っていて、素敵な曲です。暗闇の夢の中に帰っていくわけですが、劇中ではその夢は決して美しい夢ではなかったということですね」と説明した。

最後に全体の構成、とりわけ時間設計や撮影技法、編集について問われると、「できるだけドキュメンタリー風に撮りたかったので、手持ちカメラによる映像や監視カメラの映像を使いました。それらはいかにも今日らしい撮り方であると思います。また時空間の処理については、脚本段階では過去と現在を交互に語っていくという案でした。でも撮影の準備と同時進行で脚本を書いていったので、撮影時も編集時もどんどん変更を加えていきましたね」と話してくれた。まだまだ観客からの質問が飛び出しそうだったが、あっという間に時間は過ぎていき、大きな拍手を背に監督は会場を後にした。

『シャドウプレイ』は2020年2月にアップリンク配給で公開が決定している。ロウ・イエ監督の意欲作をぜひ堪能してほしい。
 
(文・福アニー、写真・白畑留美、明田川志保)