11月6日(金)、有楽町朝日ホールで、特別招待作品『ハイファの夜』が上映された。本作は、アモス・ギタイ監督の故郷イスラエル第三の都市ハイファのナイトクラブに集う人々の人間模様を通して、ユダヤ人とアラブ人の共生の可能性を探った群像劇。今年のヴェネチア国際映画祭コンペティション部門にも出品された注目作だ。上映後にはリモートによるQ&Aが行われ、フランスにいるギタイ監督が、観客の質問に答える形で撮影の舞台裏を語ってくれた。
物語の舞台となるナイトクラブは実在の店。前作『エルサレムの路面電車』(2018年第19回東京フィルメックスで上映)の出演者の案内でダウンタウンを訪れたことが、ギタイ監督がこの店と出会うきっかけになった。「アラブ人とユダヤ人が集まって、いろんな話をしたり、口喧嘩をしたり、様々なことが一か所で起こっている“ごちゃまぜ感”が気に入った」と語るギタイ監督。そこで、「ハイファについての映画を作る上では、この場所が最適ではないか」と思いついたという。
「この映画を作る上で参考にした映画はあるか」との質問には「私は映画学校で学んだわけではないので、古典的な作品を参考にして映画を作る習慣がない」としながらも、「強いて挙げれば」と前置きし、ジョン・ヒューストン監督の遺作『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』(87)を挙げた。その理由は「一直線に進むひとつの物語ではなく、様々な人々の人生の断片が、たまたま一つの場所に集まった中から、街の姿が見えてくる。そういう手法で物語を綴る映画として、似ているところはあるかも」とのこと。
さらに、そのストーリーテリングの手法は、「現代を描く上でも重要」と語り、「現代は、人間の生き方が断片化している。多くの人たちは、一か所に留まることなく、色々な土地を移動しながら人生を歩もうとする。だから、それぞれの場所に自分の人生があり、それが必ずしも一つにつながっていない」と独自の人生観を披露。その上で「現代の映画がすべきなのは、そういう断片化した私たちの人生を、映画でどう表現するかにチャレンジすること」と持論を展開した。
これを踏まえて、本作に込めた思いを次のように打ち明ける。「この映画では、性的マイノリティの人もそうでない人も、あるいはアラブ人とイスラエル人、男性と女性など、様々な立場の人たちが、自分の人生の断片のひとつとして、このクラブに集まっている。そうやってみんなが近くに存在することで、相互理解が生まれるかもしれない。もし生まれなかったとしても、同じ場所で共存することはできるかもしれない。そこから、新しい人間のあり方を提示できるのではないかと考えました」。
一方、舞台となるナイトクラブに集う人々の息遣いをリアルに伝えるのが、陰影を生かした深みのある色彩と、流麗な移動撮影が印象的な映像美だ。本作の撮影を担当したのは、オリヴィエ・アサイヤス、ウォルター・サレスなど数々の名匠と組んできたエリック・ゴーティエ。是枝裕和監督の『真実』(19)にも参加し、ギタイ監督とはこれが四度目のタッグとなる。そのゴーティエをギタイ監督は「非常にフレキシブルな人物」と評し、「この映画のように、彼が外国で撮影するときも、地元のクルーと積極的に交流し、共同作業ができるところが素晴らしい」と絶賛。
2人の共同作業ついては、「まずその場所をどう撮るのか、一緒に“場所を見る”ことから始まる」「俳優との話し合いにも極力、立ち会ってもらう」と創作の秘密の一端を明かしたギタイ監督。「ひとつひとつの作品で、撮影する場所やテーマに合わせて、新しい映画の表現を作り出していこうと野心を持って共同作業をしている」とも語り、互いの相性の良さを伺わせた。
故郷ハイファに対する思いが詰まったギタイ監督入魂の本作。現時点では日本での劇場公開は未定だが、何らかの形で幅広く鑑賞する機会が訪れることを期待したい。
(文・井上健一、写真・明田川志保)
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【レポート】『ハイファの夜』リモートQ&A
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