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【レポート】11/1『小石』Q&A


11月1日(月)、有楽町朝日ホールでコンペティション作品『小石』が上映された。本作は、気が短く暴力的な父と寡黙な幼い息子が、家を出ていった母を呼び戻すために旅する姿を通じて、家父長主義的な社会の問題を炙り出した意欲作。インドの俊英P.S.ヴィノートラージ監督の長編デビュー作で、ロッテルダム映画祭でタイガー・アワードを受賞した。上映後にはリモートによるQ&Aが行われ、ヴィノートラージ監督とクリエイティブ・プロデューサーのアムダヴァン・カルッパィアーさんが、観客の質問に答える形で映画の舞台裏を語ってくれた。

ヴィノートラージ監督自身の経験に基づいて生まれた本作について、まず「子どもの頃から一緒に暮らしてきた人たちの生活がベースになっているので、とても現実に近い作品、現実に近いキャラクター造形になっています」と背景を説明。その上で「舞台をタミルという地域に限定していますが、物語としては非常に普遍的で、世界中の人たちが共感できると思います」と付け加えた。

その物語を彩るリアルな佇まいの出演者たちについては、「主役の父親以外、演技経験はありません」と舞台裏を告白。唯一、演技経験を持つ父親役のカルッタダイヤーンさんも、ポストモダンの劇団に所属する役者だが、映画に出演するのは初めて。その劇団をヴィノートラージ監督が知っていたことから、脚本を書き上げた時、父親役に起用することを真っ先に思いついたという。「舞台を見たら、怒りの表現が素晴らしかったので、『ぜひやってほしい』とオファーしたところ、すぐに作品の意図を理解し、参加を決意してくれました」。

その一方で、息子役のキャスティングは難航。80人くらいオーディションを重ねたものの、相応しい少年が見つからなかったため、役と似たバックグラウンドを持つ子を探し、ようやく出会ったのがチェッラパーンディくんだった。期待通りの演技を見せたチェッラパーンディくんについて「現実の彼の境遇が、役より過酷だったこともあり、監督の意図をスムーズに理解してくれました」と満足そうに語った言葉からは、同時に現実の深刻さも伝わってきた。なお、この2人以外の登場人物は、現地の住民たちが演じたとのこと。

また、本作の大きな特徴は、舞台となる広大な大地を様々なアングルから撮影し、時には延々と続く長回しのワンカット撮影を取り入れるなど、工夫を凝らしたカメラワークだ。脚本執筆中からヴィノートラージ監督は「キャラクターは3人」と言い続けていたそうだが、父と子に次ぐ3人目に当たるのが「風景」だという。それは、「育った土地の風景が、その人の行動に影響を与える」という考えに基づいたもの。そのため、「大地をどう撮るかが重要」で、撮影場所を探すロケハンには8か月を費やした。その意図については、「広大さや干ばつの雰囲気を捉え、観客にも大地の灼熱感や湿気を感じてほしいと考えていました」と語った。

そして、「小石」という象徴的なタイトルについては「様々な意味がある」と言い、まず「旅をするとき、のどの渇きを抑えるために小石を口に含むことが昔から行われている」と現地の風習を説明。もちろんそれは、ヴィノートラージ監督自身もかつて経験したことで、劇中でも描かれている。さらに「子どもにとっては、どんな問題も小石のようなものだという意味も含まれている」と続け、最後にタイトルに込めた想いを次のように打ち明けた。「ここで描かれていることはどこでも起きていて、(小石のように当たり前の)日常を切り取っただけの物語に過ぎないということを示しています。こういうことは過去にも起きたし、未来にも起きるかもしれない」。

最後に、客席からリモートでつないだ2人に拍手が贈られ、Q&Aは終了した。

 

文・井上健一

写真・明田川志保

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