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『THE MISSING PICTURE(英題)』リティ・パニュ監督Q&A
from デイリーニュース2013 2013/11/30
11月30日(土)、有楽町朝日ホールでクロージングとして特別招待作品『THE MISSING PICTURE(英題)』が上映された。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門最優秀賞に輝いた本作は、1970年代にポル・ポト政権下のカンボジアで少年時代を過ごしたリティ・パニュ監督が、記録映像と人形によるジオラマ(立体模型)を駆使して当時の再現を試みた異色のドキュメンタリーである。上映後にはリティ・パニュ監督が登壇して、観客とのQ&Aが行なわれた。
本作で強く心に残るのが、失われた風景を再現するために使われた表情豊かな人形の数々。パニュ監督はまず、このアイデアが生まれた経緯を説明してくれた。「フィクションとは異なり、ドキュメンタリー映画を製作する時は、どういう手法を取るか模索するところから始めます」と前置き。その過程で、監督がかつて暮らしていた家の模型を製作することになったという。その際、併せて粘土で人形を作るようスタッフに依頼。それは子どものような遊び心からだった。ところが......「出来上がった人形を最初に見た時、凄く表情豊かで、魂が宿っているように感じました。それで、言葉では表現できないものを伝える上で、この人形が役立つのではないかと思ったんです。」こうして、人形を使ったジオラマという手法が誕生する。ここに至るまで、試行錯誤を重ねて1年半が経っていた。
続いて、人形の数と撮影後の扱いについて尋ねられると、「人形は100体以上作りました。今のところ、その後どうするか決まっていないのですが......」と語った後、思いがけない言葉を続けた。「今回来日して、江戸東京博物館を訪れたのですが、そこで見た昔の日本を再現したジオラマが面白かったので、カンボジアにもそういうものを作ろうかなと思いました」。
質問は表現方法に関する事だけでなく、作中で触れられるポル・ポト時代に失われた映像についても寄せられた。「ポル・ポト政権以前の映像はかなりの部分が失われています。私たちは、"ボパナ視聴覚資料センター"というフィルムの保存施設を建設し、残すべき映像をここに保存している最中です。この作品では、そのセンターにある映像も使用しています」。さらに、話は作品を越えてフィルム映像のアーカイブ問題にまで及ぶ。「映像のアーカイブは、カンボジアだけの問題ではありません。フィルムは、きちんと保存すれば100年ぐらいは持つのですが、良好な保存状態を保つことができない貧しい国がたくさんあります。そういう国は、自分たちの国の記憶を失ってしまうわけです。ですから我々は、残っている歴史の遺産を保存する活動をさらに進めなければなりません。将来的には、そのアーカイブ映像に誰もが公平にアクセスできるようにしたいですね」と、歴史資料的観点からフィルムアーカイブの重要性を強調した。
カンボジアの苦い歴史を扱った映画ゆえに深刻な質問が多かったが、最後に「もし、ポル・ポト時代がなかったとしても映画監督を目指していましたか?」と尋ねられたパニュ監督は、「ポル・ポト時代がなければ宇宙飛行士か、父親と同じ教師になっていたかもしれません」と穏やかに答えていた。
一つ一つ、言葉を選ぶようにじっくり質問に答えるパニュ監督の姿からは、思慮の深さと映画に対する強い思いが窺えた。『THE MISSING PICTURE(英題)』は2014年5月下旬より、渋谷ユーロスペース他にて公開予定。ぜひとも劇場に足を運んで、力強いこの作品をその目に焼き付けてほしい。
(取材・文:井上健一、撮影:穴田香織、白畑留美、関戸あゆみ、永島聡子、中堀正夫)
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