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『わたしの名前は...』アニエス・トゥルブレ(アニエスベー)監督インタビュー
from デイリーニュース2013 2013/12/ 5
今年もバラエティ豊かな作品が上映された東京フィルメックスだが、その一つに、世界的ファッション・デザイナーでもあるアニエス・トゥルブレ(アニエスベー)監督の長編デビュー作『わたしの名前は...』がある。実際の出来事を元に、少女とトラック運転手の交流を瑞々しいタッチで描いたこのロード・ムービーは、初監督とは思えない見事な内容で客席を沸かせた。そこで、11/30(土)、有楽町朝日ホールで同作品の上映およびQ&Aを終えた直後の監督に、作品に関するお話を伺った。
Q&Aを終えたばかりのアニエス・トゥルブレ監督は、ステージ上と同じく目にも鮮やかな真赤な衣装で登場。主人公の少女セリーヌが着用する赤い服にも通じる色なので、まずその点について尋ねてみると、「彼女は家出しているので、ずっと赤い服です。青い空に赤い服の女の子って、とても可愛いですよね。赤いトラック(劇中で主人公2人の移動手段として使われる)に青い空という、赤と青のコントラストがすごく好きなんです」と嬉しそうに答えてくれた。確かに、海辺の澄んだ青空とセリーヌの赤い服のコントラストは、映画を見終わった後も脳裏から離れない。それは、赤い服がモノトーン調の背景の上に鮮やかに浮かび上がって見えたことも一因。そこには次のような演出上の意図があったという。「五線譜の上に音符を付けていくようなイメージで、起伏の少ないシンプルな土地を背景にストーリーを語ろうと考えていました。」そこでロケ地として見つけたのが、フランス南西部にある、道が真っ直ぐ300キロほど続く松林だった。
その"五線譜"の上で奏でられるのは、互いに心に傷を抱えたフランスの少女セリーヌとスコットランドから来た中年のトラック運転手ピーターの交流の物語。偶然の出会いをきっかけに、旅を通じて次第に距離を縮めて行く2人だが、年齢も境遇も全く異なり、言葉すら通じない。「その通りです。セリーヌとピーターは、同じ言葉を話しません。言葉が通じないからこそ、ちょっとした仕草とか、他の伝達手段を編み出して理解し合うようになるんです。例えば、2人でピクニックをするなんていうのもその1つです」この映画では"ピクニック"がキーワードのように何度か繰り返されるが、その理由について「私は子どもの頃からピクニックが大好きだから」と微笑みながら語ってくれた。
そんな2人の姿は、言葉が通じるにも関わらず分かり合えないセリーヌの両親とは対照的だ。「それぞれに苦しみを抱えているという事情が、言葉の通じない2人を結びつけたと考えています」続いて、独特の表現を交えて愛についての持論を展開。「私は日ごろから"愛はボヘミアンの子ども"と言っています。愛はボヘミアンのようにどこにでも生まれる可能性がある。そんなイメージを持っています。だから、突然出会った2人の間に愛が芽生えることもある。非常に純粋でミステリアスですね。」さらに、劇中でのセリーヌのピーターに対する感情については、次のような解釈を披露してくれた。「セリーヌもピーターに対しては、どちらかというと父親に対する愛情というよりも、女として恋心を抱いていたという風に表現したつもりです」
「映画は物語や小説とは違い、言葉で説明するのではなく、映像で語るもの」と語るアニエス・トゥルブレ監督。「だから、全てビジュアルで見せるようにしました。今回の映画に映っているすべての要素は、私が一つ一つじっくり考え抜いた末に登場させたモノ」と拘った様子。その結果、「小物やオブジェなどもすべて私が選んでいるし、私の家から持ってきたモノもあります。自分の頭の中にあることをビジュアル化できるのは、本当に素晴らしいことです」と、初監督に満足そう。自らを"完璧主義者"と分析しながらも、「俳優たちの子ども時代や若かった頃の写真も持参して、食器棚に置くなど、みんなが参加する形で作っています。劇中に登場する2人のインスタント写真は、私と娘の写真にダグラス・ゴードン(ピーター役)の写真を合成したモノなんです」と遊び心も忘れていなかった。
さらに本作では、監督だけでなく製作、脚本、カメラ、セットデザインまで合計5役を兼任。この点に話を向けると「そうです。セットデザインも自分でやりました」と嬉しそうに、重要な舞台となるセリーヌの家族が暮らす家のデザインについて解説してくれた。「1階にある大きな部屋から薄暗い階段が2階に延びる構造になっていますが、そんな家は実際にはありません。あの家は、私が自分で図面を書いて、ジョアンビルという大きなスタジオにセットを建設しました。」シナリオを執筆する段階から、この家の構造を意識していたというその狙いについては、「家族が集まる部屋は大きくてダイニングにもなるけど、普段はテレビの前に集まって窮屈に生きている。けれど、おばあちゃんが来て料理を作った時だけダイニングルームらしい使い方をされて、家族がちょっとだけ幸せな方向に近づく。そんな対比も意識しています」
まだまだ深く話を聞きたかったが、ご多忙とのことで、最後に長年支援いただいている東京フィルメックスの印象を伺ってみた。すると間髪入れず「素晴らしい映画祭で、心から賞賛しています」と返答。続いて、「フィルメックスは本当に様々な国の作品を上映し、かつ、とても若い人たちが参加している。きちんと自分の考えを持った若い監督たちの作品を取り上げているという印象を強く持っています」と、理解を示していた。
ステージでのQ&A終了直後の短い時間ながら、疲れも見せずに熱意を持って語るアニエス・トゥルブレ監督の口調からは、映画に対する深い愛情が感じられた。また、劇中に日本人ダンサーを登場させ、東京のためにこの日の赤い衣装を選んだと語るなど、日本に対する想いは人並み以上。『私の名前は...』は今のところ日本公開は未定ながら、その想いに応えるためにも、ぜひとも劇場公開が実現することを願ってやまない。
(取材・文:井上健一、撮影:白畑留美)
『わたしの名前は...』アニエス・トゥルブレ(アニエスベー)監督Q&A
from デイリーニュース2013 2013/11/30
11月30日、有楽町朝日ホールにて特別招待作品『わたしの名前は...』が上映され、上映後のQ&Aにアニエス・トゥルブレ監督が登壇した。暖かい拍手で迎えられたアニエス監督は「わたしの名前はアニエス・トゥルブレと申します。ファッション以外で表現するときは、皆さんになじみのあるアニエスベーではなく、本名を使っています」と挨拶した。本作は、孤独な60歳のトラック運転手と父からの虐待で居場所をなくした11歳の少女が旅をする、悲劇的なロードムービー。ヴェネチア国際映画祭、ニューヨーク映画祭、アブダビ映画祭に出品されている。
まず、聞き手の東京フィルメックスの金谷重朗が、この物語の生まれた経緯について訊くと、アニエス監督は「10年前にル・モンド紙でとある三面記事の結末を読んだことがきっかけ」「そこから私の物語を描きたいという思いが衝動的に生まれた」と応じた。二日間で物語を一気に書き上げた監督は、次々にヴィジュアルが頭に浮かんでくる状況を「マジカルな体験だった」と振り返った。「まるで私はこの物語を語る必然性を感じていたかのようでした。もちろん、これは私自身の物語ではありません。でも、この映画で自分が何について語っているかは理解しています」。
アニエス監督が「一目見て、この子だと思った」と語る映画初出演で主演のルー=レリア・デュメールリアックさんは600人のオーディションから選ばれた。特にルー=レリアさんの目力、演出の意図を汲み取って即座に反応する演技力を絶賛する監督。運転手を好演したダグラス・ゴードンさんはコンテンポラリーアーティストであり、アニエス監督の親しい友人でもある。また、イタリアの哲学者アントニオ・ネグリが旅人役として出演、アメリカ実験映画のゴッドファーザー、ジョナス・メカスが焚き火のシーンを撮影するなど、アニエス監督の幅広い交友関係により実現した豪華なアンサンブルも本作の見所だ。
次に劇中、日本の舞踏家が登場した点について訊かれると「モロッコの南部へ旅をしていた頃、砂浜のテントで日本の舞踏家が顔を白く塗ってダンスしているのを見た」と応じた。また、ヴェネチア・ビエンナーレで、舞踏を観て衝撃を受けたそうで「戦後に発展した非常にパーソナルな踊りですが、身体を通して本当にひとりの人物になりきるところが素晴らしい」と語った。
本作では、ジャンプカットやストップモーション、スタイルの違う映像をコラージュした編集が特徴となっている。もともと写真に興味があったというアニエス監督は、短編映画を数作手がけており、「特に構図やアングルを決めるのが好き」なのだそう。撮影中も二台目のカメラで常に画角を気にしていたという。また「人工光は極力使用せず、部屋の内外で自然光を使ってコントラストを際立たせた」と光に対する強いこだわりも覗かせた。
「本作のテーマは家族だと思った」と語る観客から、ラストにおける主役二人の心情について訊かれたアニエス監督は「孤独な二人は似た者同士」と語り、 登場人物たちの生き方や映画の悲劇性についてコメントした。
劇中で印象的だったトラックの色と同様、素敵な赤のドレスでいらしたアニエス監督。バッグは親しい友人のハーモニー・コリン監督からもらったクリスマスプレゼントなのだそう(アニエス監督の設立した製作会社ラブ・ストリームス・プロダクションのもと『ミスター・ロンリー』(07)、『スプリング・ブレイカーズ』(12)を監督している)。アニエス監督は、最後に再度感謝の言葉を伝え「劇中の舞踏シーンは日本の皆さまに対するオマージュです。これからも日本を愛し、賛美していきます。ありがとう、メルシー」と締めくくった。
(取材・文:高橋直也、撮影:白畑留美)
『わたしの名前は...』アニエス・トゥルブレ(アニエスベー)監督舞台挨拶
from デイリーニュース2013 2013/11/28
11月28日(木)、第14回東京フィルメックス特別招待作品『わたしの名前は...』の上映に先立ち、TOHOシネマズ日劇にてアニエス・トゥルブレ監督が舞台挨拶を行った。ファッションデザインだけでなく、先鋭的な映画の製作でも知られていたアニエス監督だけに、会場には全身アニエスベーの洋服をまとった女性や、熱心な映画ファンが多数来場した。
大きな拍手で迎えられたアニエス監督は「皆さん、今日は来ていただきありがとうございます。東京にこれだけの人が来てくれてとても嬉しく思います。ストーリーは10年前に私が考えたものです。実際に作ろうと考えたのは2年前で、自分自身でカメラを持って撮影し始めました。メルシー、ありがとう」と感謝の言葉を述べた。
第70回ヴェネチア国際映画祭でオリゾンティ部門に選出され、大きな話題をさらった本作。
アニエス監督は本作でメガホンをとるまでにも、映画祭後援や、衣装協力、特別上映会の資金援助、店頭でのポスター展示や予告編の上映など、様々なかたちで映画に対する取り組みを行っている。デヴィッド・リンチ監督作品『マルホランド・ドライブ』(2001)、クエンティン・タランティーノ監督作品『パルプ・フィクション』(1994)などでは衣装デザインも手がけた。自らの映画製作会社「ラブ・ストリームス・プロダクション」を設立してからは、ギャスパー・ノエ監督「カノン」(1998)、クレール・ドゥニ監督『ガーゴイル』 (2001)、パトリス・シェロー監督「ソン・フレール」(アルテとの共同製作、2003)、エミリー・ドゥルーズ監督の「ミスターV」(2003)、ハーモニー・コリン監督『ミスター・ロンリー』(2007)、『スプリング・ブレイカーズ』(2012)など話題作を次々と製作した。
(取材・文:高橋直也)
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