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【レポート】『夜明け』Q&A


11月21日(水)、有楽町朝日ホールにてコンペティション部門の『夜明け』が上映された。本作は、是枝裕和監督のもとで演出助手を務めてきた広瀬奈々子監督の長編デビュー作で、地方の町に現れた青年をめぐる人間関係の中に生じる複雑な感情の機微を紡いだ作品。上映後には広瀬監督が登壇し、「今日はお集まりいただきありがとうございます。先日、完成披露させていただき、Q&Aは日本で初めてなので楽しみです」と少し緊張した面持ちで挨拶した。

まず、市山尚三東京フィルメックス・ディレクターから、原作ベースの作品が多い中で、オリジナル脚本で映画化した本作の着想について訊かれ、広瀬監督は次のように応えた。
「大学卒業の年に東日本大震災があり、就職先が決まらず、悶々とした時期を過ごしながら、社会との関わり方に悩んでいました。その頃のことをベースにしようと考えました。当時、謳われていた絆や家族愛などに懐疑的な視線を加えたいと思い、関係性の美しい部分と闇の部分と両方を見つめようと思いました」
特に具体的な事件やニュースをベースにしておらず、企画を書いては是枝監督に見せるということを十数本繰り返して、ようやく認めてもらえたのがこの企画だったという。「映画化にあたっては、是枝監督からサポートを受けることができ、とてもラッキーでした」と述懐した広瀬監督。

次に、シナリオの書き進め方について、シナリオの構想では最初から結論があったのかどうかという点とアテ書きだったのかという点について話が及んだ。最初から結論があったかどうかという点については、「どこに決着するかわからないまま書き進めていた」と語った広瀬監督。気持ちと行動が一致しないシーンを作りたかったことや、上手く感情表現ができない人間が好きなので拙いまま終わりたかったこと、立ち止まって初めて行先を考え自分の足で自立に向かう終わり方にしたかったことなど、物語の着地点に至るまでの経緯を説明してくれた。

また、アテ書きだったかどうかという点について、小林薫さんに関しては先にオファーしていたそうだが、主人公に関してはアテ書きというわけではなかったという。「なかなか筆が進まない時期に柳楽優弥さんの名前があがり、柳楽さんの顔を思い浮かべると、柳楽さんの生きる欲求のようなものが筆を動かしてくれました」と広瀬監督。ただ、柳楽さんは師匠である是枝監督が見出した俳優だったことから、広瀬監督自身は、柳楽さんを主演に迎えることに抵抗があったそうだが、「その因縁が面白く作用するかもしれない」という予感もあったようだ。

続いて、その柳楽さんにどのような演技指導をしたかという質問があがった。広瀬監督は、「私が指導するというよりも、柳楽さんに引っ張ってもらいました」と述べた。役作りに関しては、柳楽さんが考え過ぎずに現場にいることを望んでいたため、できるだけリアクションに徹する、つまり、周囲のキャラクターに揺さぶられて反応するようにしたという。難しい役どころだったので、何度も話し合いを重ねたとか。

さらにカメラマンとはどういう経緯で組むことになったのかということに話が及んだ。カメラマンの高野(大樹)さんは、是枝監督が懇意にしているカメラマンのお弟子さんのような方で、これまでも何度か一緒に仕事をする機会があったという広瀬監督。「高野さんが撮る画は、被写体と微妙な距離を保ち、被写体に対する奥ゆかしさみたいなものがあって好きです」と述べ、カメラマンとの強い信頼関係に自信をのぞかせた。
ここで、会場で鑑賞していたアミール・ナデリ監督が挙手し、広瀬監督に次のような賛辞を贈った。
「素晴らしい映画をありがとうございました。エンディングも、ペースも、役者の演技も素晴らしかったです。見せすぎず最小限にとどめているところもとても良かったです。これからが楽しみな監督が出てきて、まさに、あなたのような人材が日本の映画界に必要だと思います。今後を期待しています。Cut!」

最後に、広瀬監督は、自身が撮影で一番感動したシーンのエピソードを披露してくれた。それは、主人公が海に出てくるシーンでのこと。「夜が明けてバックショットを撮り終えカットをかけたのに、柳楽さんが海を前にして動こうとせず、今、撮ってくれといわんばかりの背中をしておられたので、慌ててカメラを持って回り込み、光が射す柳楽さんの表情を撮りました。素晴らしいカットが撮れたなと思いましたが、後でご本人に聞いたところ、単に私の「カット」の声が聞こえなかっただけだったそうです」と語ると、場内は笑いに包まれた。

本作は、2019年1月18日より、新宿ピカデリーほか、全国ロードショーが決定している。日本映画界の期待の星、広瀬監督の今後をこれからも見守っていきたい。
追記
『夜明け』は授賞式にてスペシャル・メンション(※)を授与された。
※選外ではあるが特に審査員が触れておきたい作品がある年に授与される
文責:海野由子 撮影:吉田(白畑)留美

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