訃報:吉田喜重監督

吉田喜重監督が、2022年12月8日、亡くなられました。89歳でした。

東京フィルメックスでは、2008年の第9回東京フィルメックスにて吉田監督による短編「ウェイトレス」が含まれたオムニバス映画『ウェルカム・トゥ・サンパウロ』を上映し、トークイベント「『ウェルカム・トゥ・サンパウロ』のできるまで」にご登壇下さり、また、2012年の第13回東京フィルメックス「木下惠介生誕100年祭」において『楢山節考』の上映後トークイベントにもご登壇くださいました。

第9回東京フィルメックス「『ウェルカム・トゥ・サンパウロ』のできるまで」トークイベント公式レポート

第13回東京フィルメックス『楢山節考』上映後トークイベント 公式レポート

ここに、謹んで哀悼の意を表しますとともに、心からご冥福をお祈りします。

東京フィルメックス事務局

 

訃報:崔洋一監督

崔洋一監督が、2022年11月27日、亡くなられました。73歳でした。

東京フィルメックスでは、2009年の第10回東京フィルメックス・コンペティションの審査委員長を務められ、同2009年には当会主催の子ども映画製作ワークショップ<第3回「映画」の時間>で講師としてご参加いただきました。

また、2011年の第12回東京フィルメックス「特集上映『限定!川島パラダイス』」の『とんかつ大将』の上映後トークイベント、2012年の第13回東京フィルメックス「木下惠介生誕100年祭」において『死闘の伝説』の上映後トークイベントにもご登壇下さいました。

第12回東京フィルメックス 『とんかつ大将』上映後トークイベント 公式レポート

第13回東京フィルメックス 『死闘の伝説』上映後トークイベント 公式レポート

ここに、謹んで哀悼の意を表しますとともに、心からご冥福をお祈りします。

東京フィルメックス事務局

 

11/5『すべては大丈夫』Q&A

11月5日(土)、クロージング作品の『すべては大丈夫』が有楽町朝日ホールで上映され、コンペティション部門の審査委員長も務めたリティ・パン監督が上映後の質疑応答に登壇した。自ら手作りした粘土人形と様々な映像を組み合わせて、動物が人間を支配するディストピアを描くシネマエッセイ。作品に込めた寓意や製作の経緯をパン監督が縦横に語った。

粘土人形を駆使した作品は、祖国カンボジアのクメール・ルージュによる圧政の記憶を描いた『消えた画 クメール・ルージュの真実』(2013年)以来。フランス在住のパン監督は、コロナ禍のロックダウン中にこの企画を思い付き、書斎をスタジオ代わりに製作に取り組んだという。「最初のロックダウンの時、空っぽになった街に動物が入り込んでいるのを目撃し、クメール・ルージュがカンボジアの人々を追い出した時のことを思い出した」とパン監督。感染対策で始まったはずの規制や検査が、次第に本来の目的を超えて人々をコントロールしているようにも感じ、全体主義の台頭をめぐる寓話につながった。

豚が率いる動物の一群が人間社会を征服する。自由の女神像が倒され、代わりにスマートフォンを掲げた豚の像が建立される。「豚をリーダーにした理由はふたつある」とパン監督。「まず、ロックダウン当時の米国大統領だったドナルド・トランプのことを考えました。四六時中流れてくるトランプのツイートは、まるで世界をコントロールしようとしているかのように思えました」。一方で、豚は賢い動物で、ヒトに近い面もあるという。「豚と人間には互換性があるんです。私たちが皮膚移植する際も豚の皮膚を使う。失敗に終わったが、数カ月前には豚から人間への心臓移植手術もあった。いずれは実用可能になるかもしれません」

では、動物たちが自分を人間に似せようとしたらどうなるか。「人間のような5本指を持ちたいと願い、人間の行動を模倣した動物たちは、やがて全体主義へと行きつく。そのプロセスを寓話として描いたのが今回の作品です」とパン監督。「新型コロナウイルスはどこから来たのかを考えてみて下さい。人間が森を破壊し、そこに住んでいた動物たちが否応なしに街に出て来る。そしてウイルスが広まり、今度は人間たちがロックダウンで閉じ込められる。そういう現象を映画にしようと思ったのです」

動物が支配する社会はあちこちにスクリーンが設置され、過去の戦争や虐殺や独裁者の映像が流れる。そこに警句的なテキストの朗読が重なる。「こんなキツい映画に最後までお付き合いいただき感謝します。こういう映画は全てを理解する必要はないんです。例えばワンシークエンスだけでも何か気になったことを考えて下さったら本当にうれしい」

客席からは、多彩なアーカイブ映像の使い方について質問があった。「建物の管理人が監視カメラを眺める姿をイメージしました。人工衛星、スマホ、顔認証技術。様々なものが我々を監視し、コントロールしている。そんな全体主義的状況を映画にしました」とパン監督。一方で、ロックダウン期間に見直した映画史上の作品群のイメージも生かされているという。「ジガ・ヴェルトフやフリッツ・ラングの映画の要素がピンク・フロイドの『ウォール』のビデオに生かされているように、アーティストは互いを模倣しあっています。私もこれはいいと思った他の監督の作品をピックアップしている。もちろんそのままコピーするわけではなく、別の表現方法で。芸術には真の意味でのオリジナルなど無い。私は自分を『イメージの盗っ人』と呼んでいます」

共同脚本を手掛けたのは作家クリストフ・バタイユ。「彼とのコラボは3、4作目になるかな。『この映像に言葉を足して』って頼むと、言葉の自動販売機みたいに足してくれるんです。そのまま映像に当てはめるのではなく、別の場面と組み合わせることもある。決まりごとはありません」。音楽は『消えた画』や『名前のない墓』でも組んだマルク・マルデル。「彼も30年以上一緒にやっているので、様々なサウンドを彼の方から提案してくれる」。編集の際は「音楽で説明しないよう心がけている」とも話す。「フィクションは別の方法を取るけれど、今回のようなタイプの作品では、サウンドとテキストとイマージュの一体感を常に意識しています。いわばコラージュ。私はコラージュが大好きなんです。いろんなものを重ねて貼ったり、日曜大工のように組み立てたり。そして、物を書くようにそれらを編集していくんです」

ひとつの質問への回答が15分以上に及ぶことも。様々な事象をつなげて現代社会への危機感を語る様子や時おりのぞくユーモアは、パン監督の映画さながら。映画祭の締めくくりにふさわしい充実した時間となった。

文・深津純子
写真・吉田留美、明田川志保

11/5『すべては大丈夫』Q&A

11月5日(土)、クロージング作品の『すべては大丈夫』が有楽町朝日ホールで上映され、コンペティション部門の審査委員長も務めたリティ・パン監督が上映後の質疑応答に登壇した。自ら手作りした粘土人形と様々な映像を組み合わせて、動物が人間を支配するディストピアを描くシネマエッセイ。作品に込めた寓意や製作の経緯をパン監督が縦横に語った。

粘土人形を駆使した作品は、祖国カンボジアのクメール・ルージュによる圧政の記憶を描いた『消えた画 クメール・ルージュの真実』(2013年)以来。フランス在住のパン監督は、コロナ禍のロックダウン中にこの企画を思い付き、書斎をスタジオ代わりに製作に取り組んだという。「最初のロックダウンの時、空っぽになった街に動物が入り込んでいるのを目撃し、クメール・ルージュがカンボジアの人々を追い出した時のことを思い出した」とパン監督。感染対策で始まったはずの規制や検査が、次第に本来の目的を超えて人々をコントロールしているようにも感じ、全体主義の台頭をめぐる寓話につながった。

豚が率いる動物の一群が人間社会を征服する。自由の女神像が倒され、代わりにスマートフォンを掲げた豚の像が建立される。「豚をリーダーにした理由はふたつある」とパン監督。「まず、ロックダウン当時の米国大統領だったドナルド・トランプのことを考えました。四六時中流れてくるトランプのツイートは、まるで世界をコントロールしようとしているかのように思えました」。一方で、豚は賢い動物で、ヒトに近い面もあるという。「豚と人間には互換性があるんです。私たちが皮膚移植する際も豚の皮膚を使う。失敗に終わったが、数カ月前には豚から人間への心臓移植手術もあった。いずれは実用可能になるかもしれません」

では、動物たちが自分を人間に似せようとしたらどうなるか。「人間のような5本指を持ちたいと願い、人間の行動を模倣した動物たちは、やがて全体主義へと行きつく。そのプロセスを寓話として描いたのが今回の作品です」とパン監督。「新型コロナウイルスはどこから来たのかを考えてみて下さい。人間が森を破壊し、そこに住んでいた動物たちが否応なしに街に出て来る。そしてウイルスが広まり、今度は人間たちがロックダウンで閉じ込められる。そういう現象を映画にしようと思ったのです」

動物が支配する社会はあちこちにスクリーンが設置され、過去の戦争や虐殺や独裁者の映像が流れる。そこに警句的なテキストの朗読が重なる。「こんなキツい映画に最後までお付き合いいただき感謝します。こういう映画は全てを理解する必要はないんです。例えばワンシークエンスだけでも何か気になったことを考えて下さったら本当にうれしい」

客席からは、多彩なアーカイブ映像の使い方について質問があった。「建物の管理人が監視カメラを眺める姿をイメージしました。人工衛星、スマホ、顔認証技術。様々なものが我々を監視し、コントロールしている。そんな全体主義的状況を映画にしました」とパン監督。一方で、ロックダウン期間に見直した映画史上の作品群のイメージも生かされているという。「ジガ・ヴェルトフやフリッツ・ラングの映画の要素がピンク・フロイドの『ウォール』のビデオに生かされているように、アーティストは互いを模倣しあっています。私もこれはいいと思った他の監督の作品をピックアップしている。もちろんそのままコピーするわけではなく、別の表現方法で。芸術には真の意味でのオリジナルなど無い。私は自分を『イメージの盗っ人』と呼んでいます」

共同脚本を手掛けたのは作家クリストフ・バタイユ。「彼とのコラボは3、4作目になるかな。『この映像に言葉を足して』って頼むと、言葉の自動販売機みたいに足してくれるんです。そのまま映像に当てはめるのではなく、別の場面と組み合わせることもある。決まりごとはありません」。音楽は『消えた画』や『名前のない墓』でも組んだマルク・マルデル。「彼も30年以上一緒にやっているので、様々なサウンドを彼の方から提案してくれる」。編集の際は「音楽で説明しないよう心がけている」とも話す。「フィクションは別の方法を取るけれど、今回のようなタイプの作品では、サウンドとテキストとイマージュの一体感を常に意識しています。いわばコラージュ。私はコラージュが大好きなんです。いろんなものを重ねて貼ったり、日曜大工のように組み立てたり。そして、物を書くようにそれらを編集していくんです」

ひとつの質問への回答が15分以上に及ぶことも。様々な事象をつなげて現代社会への危機感を語る様子や時おりのぞくユーモアは、パン監督の映画さながら。映画祭の締めくくりにふさわしい充実した時間となった。

文・深津純子
写真・吉田留美、明田川志保

11/5『彼女はなぜ、猿を逃したか?』Q&A

 

11月5日(土)、メイド・イン・ジャパン部門『彼女はなぜ、猿を逃したか?』が有楽町朝日ホールで上映された。脚本家の高橋泉さんと俳優の廣末哲万(ひろすえ・ひろまさ)さんによる映像制作ユニット「群青いろ」の最新作。動物園の猿を逃がした女子高校生への取材を通して、メディアのあり方を問う。上映前には監督を務めた高橋さんと出演の廣末さん、藤嶋花音さんが舞台挨拶し、上映後には高橋監督と廣末さんによるQ&Aが行われた。

本作は、高校生が猿を逃したという実際にあったニュースがモチーフになっているという。事件の発生が報じられただけで詳細は不明だったため、高橋監督はその高校生が猿を逃した理由が気になって脚本を書き始めていったそうだ。

廣末さんの役柄は、過去に自主映画を撮っていた人物。自己言及的な設定にした理由について高橋監督は「(登場人物の)言ってることや、やっていることを自分にリンクさせたかった」と説明。「だんだん自分に夢中でなくなっていることに気付いた、と言うのかな。昔は自分の成功や失敗にすごく一喜一憂していたと思うんです。でも、今は誰か(他人)の成功や失敗に一喜一憂することが増えてきた。誰かが落ちれば自分が上がるみたいな感覚が嫌だなぁ、と思っていて、それで『自分に夢中』な映画を撮りたくなった」と思いを語った。

高橋泉監督

撮影監督は、映像作家や俳優として活躍している恵水流生(えみ・りゅうせい)さんが務めた。自然光を生かした恵水さんの撮影技術やセンスに高橋監督は絶大な信頼を置いていたと明かした。主人公夫婦が暮らす家も、実は恵水さんの自宅。家具や小道具もすべて恵水さんの家にもともとあったものをそのまま使ったというエピソードに、会場からは驚きの声が上がった。

自ら監督を務める作品のみならず、『凶悪』『朝が来る』『東京リベンジャーズ』『仮面ライダーBLACK SUN』など他の監督の作品にも脚本家として参加してきた高橋監督。脚本へのアプローチについて、自主映画は「頭の中にあるものをビチャーと出したまんま」作るのに対し、他の監督作品では頭の中を「細かくしっかり整理整頓する」という違いがあると説明。自主映画は「自分たちが見るために作っているので、完成したものが誰かに伝われが嬉しいとは思うけれど、作る時点ではまず自分が見たい世界を撮らせてもらう。頭の中で考えることは一緒でも、出し方を整理するかしないかの違いは大きいです」と語った。

藤嶋花音さんと萩原護さんという若手キャストの演技も、本作の魅力の一つだ。高橋監督は、藤嶋さんの第一印象について「高校生活が楽しくでしょうがないという様子」だったと語る。「僕らの作品はトーンが暗くなってしまうので、陰のある女の子を使うと、いい意味でツンケンした“17歳の毒”みたいな人の焦げちゃいそうなまぶしさは出なかったと思う」と振り返った。一方、萩原さんについては、他の仕事のオーディションで会った時からずっと気になっていたとのこと。彼のために役を二つ作ったというほどの絶賛ぶりだ。

会場からは「『ある朝スウプは』などのストイックな初期作と比べて、本作は会話や音楽などかなりポップな感じがした」と、映画作りの変化を尋ねる質問もあった。高橋監督は「昔は、リアルとは何かをすごく突き詰めていた」と回想し、「でも、だんだんリアルを追うならドキュメンタリーでいいんじゃないか、と。自主映画の中でリアルを追い詰めていっても、ドキュメンタリーの方が面白いものが見られるし」と説明。さらに「本作も含めて、最近はフォーカスするもの自体がファンタジックになってきている。例えば廣末くんのようなファンタジーを支える土台があるのだから、そっちに行ってしまいたいという感じですね」と付け加えた。

廣末哲万さん

「群青いろ」での役割分担にも話は及んだ。廣末さんは、「群青いろ」作品における自らの立場を「司令塔」や「インナープレイヤー」という言葉で説明。「高橋監督の言いたいことを、芝居をやる者として中で伝える、他の役者さんに感じさせる役割を僕が担っているような気がします」。高橋監督は「僕は監督といっても、脚本でだいたい演出を終えている。それを廣末くんが今度は内側から支配する。それで成り立っている感じですね」と補足した。編集のプロセスも独特。高橋監督がざっくりと編集した後、廣末さんが細部を編集するという二段階の構成で行っているという。廣末さんの監督作品のファンだという高橋監督は、廣末さんの感覚やリズム感に寄せてもらうと明かし、さらに「届ける時には届けたい人たちの顔が徐々に見え始めているので、そこは頑張っています」と話した。

 

本作で印象的なのがプリンを使ったシーン。「プリンを用いるというアイディアは、いつどんな時に思いついたのか」という質問に、高橋監督は、「プリンのことは常に考えていますね」と即答し、会場は笑いに包まれた。廣末さんも「プリンを手に乗せるって、ふつうしないじゃないですか。僕もこれまで生きて来てやったことがない。不思議ですよね、もうSFです」とコメントした。また、バルコニーから飛行機雲が見えるシーンは偶然撮れたものだという。高橋監督は「呼ぶ時は呼ぶんだと思いますね。撮ってる側のエネルギーを感じてくれると思う」。高橋監督は音楽へのこだわりも披露。本作の音楽を担当した小山絵里奈さんと相談したり、曲を書き直してもらったりしながら完成させていったと語った。

最後に、廣末さん演じるキャラクターの狂気性が話題になった。誰もが狂気性を持っているのではないかと廣末さん。「結局、それをでっかく膨らましているだけなんだと思います。結構苦労します。小さいものを引っ張り出してきては膨らますイメージでやってます」。一方で、「僕のああいう演技を他の現場でやったら、たぶん監督さんは迷われると思う。自由すぎて現場が止まっちゃう。でも、高橋さんには、人はなんでも起こしうるという許容範囲の広さがある。はみ出しているかどうかのジャッジはちゃんとしてくれるので、内側ギリギリで自由にやっている」と高橋監督の懐の深さへの信頼を語った。これに対して高橋監督は、「僕は廣末くんの演技がツボなので、笑ってしまって見てられない時は、よーいスタートをかけて消え去ります。で、戻って来て『よかったです』って(笑)。それくらい信頼しているし、ダメ出しすることもほとんどない」と絆の強さが垣間見えるエピソードを披露した。

たくさんの質問にユーモアを交えながら答えてくれたふたり。映画製作の裏側を伝える様々なエピソードからは、キャストや
スタッフの間の信頼関係も感じられた。

文・塩田衣織

写真・吉田留美

 

11/4『アーノルドは模範生』Q&A

11月4日(金)、有楽町朝日ホールでコンペティション作品『アーノルドは模範生』が上映された。自由を軽視する学校に対する抗議運動を学生たちが始めるなか、国際数学オリンピックでメダルを獲得した模範生アーノルドが不正に加担していく姿を、ユーモアを交えつつシニカルなタッチで描いた作品。上映後には、これが長編デビュー作となるタイ出身のソラヨス・プラパパン監督が登壇し、観客からの質問に答える形で制作の舞台裏を明かしてくれた。

本作は、2020年にタイ国内で起きた「Bad Student運動」という高校生たちの抗議運動に影響を受けて脚本が大きく変更されている。その経緯についてプラパパン監督は、「脚本執筆中の2020年半ばから『Bad Student運動』が起こったため、その模様を2021年1月頃まで撮影し、脚本に盛り込んでいきました」と語った。

運動に関する情報収集にはSNSを活用した。「学校の髪型に関する規則など、様々な抗議活動が起き、生徒たちは日曜日には街なかでデモを繰り広げ、平日は学校で抗議活動を行っていました。その情報がハッシュタグを使って拡散されていたので、フォローして情報収集しました」。こうして撮影された実際の抗議活動の映像も、劇中で使用されている。劇中には「サバイバルの手引き」というイラストがところどころに挿入されるが、これも「Bad Student運動」に参加した学生たちが制作、配布していた規則だらけの学校生活を生き延びるためのガイドブックを元にしている。「その主張がこの映画にも通じるという理由で挿入しました。そのアイデアは脚本段階ではなく、『国外の観客にも主張が伝わるように』というプロデューサーの発案により、編集段階で追加することになりました」。このガイドブックを生徒たちに配布する様子も劇中で再現した。

続けてキャスティングに話が及ぶと、プラパパン監督はメインキャラクターを演じたのが素人であることを明かした。先生役には、実際に大学や高校で教えている教師を起用。ただし、「本人たちは劇中のように、生徒たちを威圧するような人ではありません(笑)」と、しっかりフォローした。

一方で、主人公アーノルド役のキャスティングは難航したという。その理由は「タイ語と英語を流暢に話すキャストを探していたため」だった。7カ月かけてキャスティング部門のスタッフがようやくふさわしい少年を見つけ出したものの、出演が決まったところでコロナ禍に突入し、撮影が延期になったという。

アーノルド役の役者はまだ若く経験も浅いので、あまりインプットしすぎないよう気を付けながらさまざまな話をしたという。「演技のレッスンを受けた方がいいですか?」と尋ねられた際は、「アーノルドは、そういうところには行かないタイプなので、行かなくていいよ」とアドバイスしたという。

さらにプラパパン監督は、主人公のモデルは、アーノルドという名の友人だとも打ち明けた。「彼は非常に機転がきくタイプで、先生と口論になっても言い負かしてしまうほど。そういう部分をこの役に生かしました」。現在は不明だが、10年ほど前は、彼のような成績優秀な学生が、劇中のアーノルドのように高額の報酬と引き換えにカンニングの仕事に誘われることも多かったという。

最後に、「政治的なメッセージ性も感じたが、ライトなタッチ。なぜこういう作風を選んだのか?」という質問には「色々な怒りはあるが、それを表に出してしまうと公開禁止になりかねない。だから、最初は軽い感じにして、最後に平手打ちを食わせようと思いました」と答えた。

こうしたしたたかな計算もあって無事完成した本作。まだ検閲の手続きはしていないが、プラパパン監督は「タイ国内でも恐らく問題なく公開できるでしょう」と前向きな見通しを語ってくれた。

文・井上健一
写真・吉田留美、明田川志保

11/4『アーノルドは模範生』Q&A

11月4日(金)、有楽町朝日ホールでコンペティション作品『アーノルドは模範生』が上映された。自由を軽視する学校に対する抗議運動を学生たちが始めるなか、国際数学オリンピックでメダルを獲得した模範生アーノルドが不正に加担していく姿を、ユーモアを交えつつシニカルなタッチで描いた作品。上映後には、これが長編デビュー作となるタイ出身のソラヨス・プラパパン監督が登壇し、観客からの質問に答える形で制作の舞台裏を明かしてくれた。

本作は、2020年にタイ国内で起きた「Bad Student運動」という高校生たちの抗議運動に影響を受けて脚本が大きく変更されている。その経緯についてプラパパン監督は、「脚本執筆中の2020年半ばから『Bad Student運動』が起こったため、その模様を2021年1月頃まで撮影し、脚本に盛り込んでいきました」と語った。

運動に関する情報収集にはSNSを活用した。「学校の髪型に関する規則など、様々な抗議活動が起き、生徒たちは日曜日には街なかでデモを繰り広げ、平日は学校で抗議活動を行っていました。その情報がハッシュタグを使って拡散されていたので、フォローして情報収集しました」。こうして撮影された実際の抗議活動の映像も、劇中で使用されている。劇中には「サバイバルの手引き」というイラストがところどころに挿入されるが、これも「Bad Student運動」に参加した学生たちが制作、配布していた規則だらけの学校生活を生き延びるためのガイドブックを元にしている。「その主張がこの映画にも通じるという理由で挿入しました。そのアイデアは脚本段階ではなく、『国外の観客にも主張が伝わるように』というプロデューサーの発案により、編集段階で追加することになりました」。このガイドブックを生徒たちに配布する様子も劇中で再現した。

続けてキャスティングに話が及ぶと、プラパパン監督はメインキャラクターを演じたのが素人であることを明かした。先生役には、実際に大学や高校で教えている教師を起用。ただし、「本人たちは劇中のように、生徒たちを威圧するような人ではありません(笑)」と、しっかりフォローした。

一方で、主人公アーノルド役のキャスティングは難航したという。その理由は「タイ語と英語を流暢に話すキャストを探していたため」だった。7カ月かけてキャスティング部門のスタッフがようやくふさわしい少年を見つけ出したものの、出演が決まったところでコロナ禍に突入し、撮影が延期になったという。

アーノルド役の役者はまだ若く経験も浅いので、あまりインプットしすぎないよう気を付けながらさまざまな話をしたという。「演技のレッスンを受けた方がいいですか?」と尋ねられた際は、「アーノルドは、そういうところには行かないタイプなので、行かなくていいよ」とアドバイスしたという。

さらにプラパパン監督は、主人公のモデルは、アーノルドという名の友人だとも打ち明けた。「彼は非常に機転がきくタイプで、先生と口論になっても言い負かしてしまうほど。そういう部分をこの役に生かしました」。現在は不明だが、10年ほど前は、彼のような成績優秀な学生が、劇中のアーノルドのように高額の報酬と引き換えにカンニングの仕事に誘われることも多かったという。

最後に、「政治的なメッセージ性も感じたが、ライトなタッチ。なぜこういう作風を選んだのか?」という質問には「色々な怒りはあるが、それを表に出してしまうと公開禁止になりかねない。だから、最初は軽い感じにして、最後に平手打ちを食わせようと思いました」と答えた。

こうしたしたたかな計算もあって無事完成した本作。まだ検閲の手続きはしていないが、プラパパン監督は「タイ国内でも恐らく問題なく公開できるでしょう」と前向きな見通しを語ってくれた。

文・井上健一
写真・吉田留美、明田川志保

11/5 『すべては大丈夫』Q&A


11/5 『すべては大丈夫』Q&A
有楽町朝日ホール

リティ・パン(監督)

神谷 直希(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)
人見 有羽子(通訳)

フランス、カンボジア / 2022 / 98分
監督:リティ・パン (Rithy PANH)

France, Cambodia / 2022 / 98 min.
Director:Rithy PANH

11/5 『すべては大丈夫』Q&A


11/5 『すべては大丈夫』Q&A
有楽町朝日ホール

リティ・パン(監督)

神谷 直希(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)
人見 有羽子(通訳)

フランス、カンボジア / 2022 / 98分
監督:リティ・パン (Rithy PANH)

France, Cambodia / 2022 / 98 min.
Director:Rithy PANH

11/5 第23回 東京フィルメックス 授賞式


11/5 第23回 東京フィルメックス 授賞式
有楽町朝日ホール

MC:RIO
神谷 直希(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)
林 未侑(東京フィスメックス)

松下 由美(英語通訳)
都成愛(韓国語通訳)
人見 有羽子(フランス語通訳)

【コンペティション審査員】
リティ・パン(映画監督、審査委員長) キキ・ファン(映画プログラマー)
キム・ヒジョン(映画監督)

【学生審査員】
はるおさき(東京藝術大学大学院)
山辺愛咲子(武蔵野美術大学)
高野志歩(立教大学)

 

【最優秀作品賞】
『自叙伝』Autobiography
監督:マクバル・ムバラク(Makbul MUBARAK)
インドネシア、フランス、シンガポール、ポーランド、フィリピン、ドイツ、カタール / 2022 / 116分

 

【審査員特別賞】
『ソウルに帰る』Return to Seoul
監督:ダヴィ・シュー(Davy CHOU)
ドイツ、フランス、ベルギー、カタール / 2022 / 116分

『Next Sohee(英題)』
監督:チョン・ジュリ(JUNG July)
韓国 / 2022 / 138分
配給:ライツキューブ

 

【スペシャル・メンション】
『ダム』The Dam
監督:アリ・チェリ(Ali CHERRI)
フランス、スーダン、レバノン、ドイツ、セルビア、カタール / 2022 / 80分

【観客賞】
『遠いところ』A Far Shore
監督:工藤将亮(KUDO Masaaki)
日本 / 2022 / 128分
配給:ラビットハウス

 

【学生審査員賞】
『地中海熱』Mediterranean Fever
監督:マハ・ハジ(Maha HAJ)
パレスチナ、ドイツ、フランス、キプロス、カタール / 2022 / 108分

 

【Talents Tokyo Award】
「Forte」(ソン・ヘソン(SON Heui Song)/韓国)

■スペシャル・メンション
「Future Laobans」(マウン・サン(Maung Sun)/ミャンマー)

「TROPICAL RAIN, DEATH-SCENTED KISS」(シャルロット・ホン・ビー・ハー(Charlotte HONG Bee Her)/シンガポール)