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『楢山節考』吉田喜重監督トーク


TOKYO FILMeX (2012年11月23日 15:00)

1123narayama_1.jpg11月23日、東京フィルメックス開催初日、東劇にて特集上映される「木下惠介生誕100年祭」 が幕を開け、木下監督の代表作『楢山節考』(58)がオープニングを飾った。上映後のトークイベントにゲストで登壇したのは、本作を含む10本の木下作品で助監督を務めた、映画監督の吉田喜重さん。吉田監督は本作の映画化を木下監督に薦めた張本人でもある。当時の貴重なエピソードや作品解説に、詰めかけた観客は熱心に耳を傾けた。また、期間中に上映される『香華(前篇・後篇)』(64)の主演女優で、吉田監督の妻でもある岡田茉莉子さんの姿も客席にあり、会場からは温かい拍手が送られた。


木下監督との最初の出会いは松竹の入社試験の面接だった、と吉田監督は振り返る。当時の面接官は木下監督と『君の名は』(53)の大庭秀雄監督の二人。2600名の応募者の中から8名の助監督のひとりとして入社した吉田監督は、その翌年、オリジナルの脚本が木下監督から認められ、『夕やけ雲』(56)から4年間、木下作品の助監督を務めることになる。
「松竹の他の監督と木下さんの映画の撮り方は全然違っていました。木下さんはシナリオを口述するんです。それを助監督がすべて筆記する。ト書き(場面設定)から語りだし、女性のセリフであれば女性の言葉と声色を使って語ります。私にとっては書くという作業が脚本を考える根本になるのですが、木下さんの場合は、映画に吹き込む呼吸やリズムを自分の肉体の中に持っていました。木下映画が感情的であると言われるのは、そこにあると思います」


1123narayama_2.jpg撮影現場では、木下監督からスタッフに相談することは皆無であり、監督に声を掛けることも許されなかったようだ。「木下さんには確固としたビジョンがあり、つまらないことを聞くと激怒してしまう。彼のリズムが狂ってしまうわけですから。キャリアのある俳優なら木下さんも知った上で配役しているので問題ないのですが、新人の場合は予想と違うこともあります。他の監督は指導したりするのですが、木下さんはしない。自分の思い通りでないと、ただ激怒する。俳優がちゃんと反応しないと途中でも変えてしまう。それぐらい激しい人でした。映画監督だからこそ許される、そういう生き方をした人ですね。木下監督というのは非常にキャラクターの強い、自己主張の強い、そして天衣無縫のところがある人でした」


深沢七郎の小説『楢山節考』の映画化について、木下監督は「民話風にはしたくない」という考えを持っていたようで、そのために音楽やセットを歌舞伎風にし、あえて演劇的な手法を用いている。「木下さんは姨捨(うばすて)伝説はあくまで伝説であり、事実ではないという視点で作ろうとしたのだと思います。私も伝説だと思っています。ただ試写で見た時、映像としてみるのか舞台としてみるのか、迷いが生じました。ラストに唯一リアルなカットで、信州の雪景色のなか蒸気機関車が走るシーンを入れていますが、あの瞬間、たぶん皆さんも違和感を覚えたと思います。最後に現実の映像を入れることで、それまで見ていたものは現実ではない、つまり姨捨伝説は現実の話ではない、ということを木下さんは表現したのだと思います」


1123narayama_3.jpg木下映画を一番象徴している作品として、吉田監督は『カルメン純情す』(52)を挙げ、「映画監督と観客との関係を世界で唯一告白した映画」と言い切った。物語のなかで、貧しいストリッパーである明實(小林トシ子)が生活に困り赤ん坊の面倒を見るのにも途方に暮れて、隅田川の土手を歩いている。悲しげな音楽が流れ、観客の誰もが「今にも自殺しそうだ」と思う。するとその通り、彼女は向こうに飛び降りてしまう。直後、画面が切りかわり、そこに通りがかった自転車の男がひっくり返る。「映画に突然現れたその自転車の男が、彼女を助けたい、という観客の気持ちを代弁するのです」。しかし実際には彼女は土手の向こう側に降りただけで、ふたたび歩き出す。この場面について「観客は彼女に感情移入しているから、飛び降りたら自殺だと思うわけです。しかしこんな乱暴な話はないわけで、観客というのは、その名もなき自転車の男のような存在にすぎない、ということを映像で痛烈に示しています。木下さん流の観客批判でもあるんですね」と吉田監督。それに対し『二十四の瞳』(54)は観客の感情に水を差すようなシーンを徹底的に排除して作られた作品、と加えて述べた。
吉田監督曰く、映画監督は"観客のことだけを考えて撮る監督"と"観客を無視して自分のために撮る監督"のどちらかになるそうだが、木下監督については、上記の理由から「その間を自由に行き来した唯一の監督」と評した。


最後に、木下監督らしいエピソードとして、陸軍省から依頼を受けて撮った『陸軍』(44)のラストシーンに触れ、トークを締めくくった。「ラストに出征する息子を延々と見送る母親の視線を入れています。そこには『生きて帰ってきなさい』という無言のメッセージがあり、『お国のために死んで帰ってきなさい』という当時の戦争映画とは異なります。木下さんは戦争中の国策映画ということを当然承知していたので、おそらく無意識的に撮ったのだと思います。国策映画で反戦のショットを入れるなんて危険すぎるからです。ところが、危険だということを考えずにそのまま作品にしたのです。そのために、彼は松竹を辞して、戦後まで映画を撮れなくなるんです」


今回はデジタルリマスター版での上映が実現し、吉田監督も「特殊な技術を用いて撮った作品だったのでネガの劣化が激しかったのですが、本当にきれいになっていますね」とコメント。『二十四の瞳』と『カルメン故郷に帰る』もデジタルリマスター版で上映される。
「木下惠介生誕100年祭」は12月7日まで東劇にて開催され、24作品が上映される。『楢山節考』は11月26日13:30、29日19:00、12月1日14:00から、再度上映。



(取材・文:鈴木自子、撮影:清水優里菜)






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