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『山のかなたに』エラン・コリリン監督Q&A


img_232511月22日、有楽町朝日ホールで「特集上映 イスラエル映画の現在」の『山のかなたに』が上映された。この作品は、第20回(2007年)東京国際映画祭で東京サクラグランプリに輝いた『迷子の警察音楽隊』のエラン・コリリン監督による長編第3作で、ある平凡な家族の姿を通して、イスラエルが抱える様々な矛盾を浮き彫りにした野心作。上映後には、コリリン監督によるQ&Aが行なわれ、客席からの質問に答えてくれた。 

登壇したコリリン監督はまず、本作が生まれたきっかけを語ってくれた。
元々は、旧約聖書の中にあるダビデ王とバテシバの物語の現代版を作ろうとしていたらしい。人妻のバテシバに恋をしたダビデ王は、バテシバの夫を戦場に送り、亡き者にした上でバテシバと結婚する。このエピソードを現代に置き換え、体制の中で権力を持っていた男が、追放されて失った権力を取り戻そうとする物語を作ろうとして脚本に取り掛かった。

img_2339ところが、「書き始めると、登場人物たちがだんだんそれぞれの世界を生きていくようになり、当初、主人公と考えていた父親だけでなく、他の家族のエピソードも増えて、物語が独り歩きしていきました」

『迷子の警察音楽隊』が大好きだという観客からは、主人公一家の中でも物語の中心的存在となる娘イファットの役割について質問が寄せられた。この映画では、登場人物の意志や行動とその結果が分断されており、それぞれが思ってもいなかった結果を招いてしまう。その中で、大人にさしかかる時期のイファットは、善行に努めようとするが、次第に人生が自分ではコントロールしきれないものであることを理解していく。
こういった経緯を踏まえて、「彼女には、そこから抜け出すことはできるのか、それでも人々はなぜ幸せそうに生きていられるのか、ということを観客に問いかける私の代弁者の役割がありました」

img_2307また、劇中では歌が印象的に使われているが、それらはすべてイスラエルの伝統音楽。「この映画はイスラエル人の感覚について語ったものなので、伝統音楽がピッタリではないかと考えて使いました」
そう語ったコリリン監督だが、実は長い間、伝統音楽には興味がなかったらしい。今回、映画で使用するために改めて聞いてみたところ、イスラエルらしさのエッセンスが凝縮されていることに気付いたという。「基本的にすべて悲劇的な文言が含まれています。うまくいかないだろう、夢はかなわないだろう、悲劇的に終わるだろう、というトーンのものばかりなのが象徴的です」

 さらに、イスラエルの複雑な事情を反映したこの映画に関する国内の反応を尋ねられると、一般公開前にもかかわらず、様々な反応が寄せられていると説明。「色々な意見があることは歓迎しています。政治的なスタンスは明らかにしていないので、どのように受け止めるかは観客次第です。基本的にはやや批判的ですが、イスラエルの伝統に対する愛情を持って作りました」

『山のかなたに』は、11/25(金)15:50から朝日ホールで上映。報道だけでは伝わらないイスラエルの現状を、この映画から感じ取ってほしい。

(取材・文:井上健一、撮影:吉田留美)

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