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【レポート】『ハーモニカ』舞台挨拶、Q&A


11月23日(金)、有楽町朝日ホールにて、「特集上映 アミール・ナデリ監督」より『ハーモニカ』('74)が上映された。本作は、1970年代にイランで制作されたアミール・ナデリ監督の初期作品のひとつで、自伝的作品でもある。上映前には、ナデリ監督が「Good Morning! Good Morning!」とにこやかに登場し、「他の国とは違って日本ではこうして朝早くからシネフィルが集まってくださいます。ありがとうございます」と挨拶した。

上映後にあらためて登壇したナデリ監督は、開口一番、「とても悲しい作品でしたね」と、久しぶりに本作を鑑賞した感想を語った。本作は、ナデリ監督が、イランの子供向けの映画を制作する児童青少年知育協会を拠点にしていたときに制作された作品で、今回は福岡市総合図書館所蔵の35ミリフィルム上映となった。
当時は純粋な気持ちで映画を作っていたため、海外で上映されることを念頭に置いていなかったというナデリ監督。イラン革命当時、『ハーモニカ』と『タングスィール』(’74)がイラン革命を後押ししたと周囲から言われたという。子供たちは『ハーモニカ』を観て、大人たちは『タングスィール』を観て行動を起こしたと。自分は政治的な人間ではなく、ただ、自分が体験した、貧しい町に暮らす子供たちの生活を描きたいと思っていただけで、後から政治的な意味合いを持つようになったと説明した。

また、ナデリ監督は、ハーモニカを権力の象徴のようにとらえたという観客からのコメントに対しても、敢えて権力というもの、権力者というものを意識していたわけではなかったと応えた。ただ、「この映画を観ると、人類の歴史を語っているようにも思えます。子供たちの姿がとても痛々しいです」と、やや複雑な表情を浮かべた。しかし、イラン革命後にアメリカからイランに戻ったとき、学校にはアミールという名前の子供が多く、作品を観た母親が子供に名前を付けたのではないかという話を聞いたという。本作がイランの社会に与えた影響の大きさを物語るエピソードだ。

本作では子供たちの生き生きとした表情が印象的だが、登場する子供たちはすべて素人で、現地で選ばれたという。「自分が撮りたい映像の中に、子供たちを入れるのは大変でしたが、子供たちもカメラの中で普通の生活をしてくれたので助かりました」と撮影時を振り返ったナデリ監督。
さらに、ラストカットで一変する画面の色についての質問を踏まえて、カラー(色彩)について話が及んだ。ラストカットの色は意図的で、「子供たちの中で革命が起きたような感じ」にしたかったそうだ。当時、モネ、ピサロ、ゴーギャン、ゴッホの作品を観て、印象派を意識した色彩(カラー)に力を入れていたナデリ監督は、ゴーギャンやゴッホのように、自然でプリミティブな映像で子供たちの姿を撮るために、自動車やプラスティックなどモダニズムの象徴となるものを消したという。児童青少年知育協会では、自由に何でも作ることができ、フィルムも豊富に用意された環境だったため、1シーンに20テイクかけることもあったとか。

東京フィルメックスでは、「特集上映 アミール・ナデリ監督」と題して4作品を上映してきたが、急遽、追加作品として『タングスィール』の上映が決定した。「『タングスィール』は革命そのものです。ぜひご覧ください!」と、ナデリ監督の呼びかけでQ&Aは終了。朝早くから駆け付けた熱心な観客から、大きな拍手が寄せられた。

文責:海野由子 撮影:吉田(白畑)留美

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