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『ぼくらの亡命』舞台挨拶・Q&A


254a914711月20日、有楽町朝日ホールでコンペティション作品『ぼくらの亡命』が上映された。本作は、『ふゆの獣』で2010年東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞した内田伸輝監督の最新作。孤独な男女が互いに依存しながらも生きようとする姿を描く。上映前には内田監督をはじめ、出演者の須森隆文さん、櫻井亜衣さん、松永大輔さん、入江庸仁さん、志戸晴一さんが舞台挨拶に登壇し、上映後には内田監督を迎えてのQ&Aが行われた。

ワールドプレミア上映となったこの日、自身の誕生日でもあった内田監督は「今日がこの映画の誕生日、そして僕も誕生日。父と母に感謝します」と挨拶し、会場から大きな拍手が贈られた。

上映後、再び登壇した内田監督は、林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターから制作経緯を聞かれ「今までは短期間で撮影した作品が多かったので、今回は長期の撮影をしたかった」と語った。資金繰りやスタッフ・キャスト集めの問題を解決するため、本作は自主映画として作ったという。週末を利用して約1年をかけた撮影期間を「非常に有意義で楽しかった」と振り返った。

img_2259続いて会場との質疑応答へ。
最初の質問は、主人公・昇役に須森さんを選んだ経緯について。キャストは皆、オーディションで選ばれたという。主人公役の決め手として、監督は「彼のヒゲが濃くて早く伸びること」と明かし、会場を笑わせた。昇という特殊な役柄上、その体質は非常に重要だったという。監督は須森さんの演技について「反応が良かった。指示を忠実に聞きつつもオリジナリティを示してくれる。伸びしろを感じました」と評価した。以前から気になっていたというヒロイン役の櫻井さんは、監督自らオーディションに誘ったという。

「自主映画と決めた時に、恋愛映画をやろう、と思った。恋愛を通して時代や空気、国同士の争い、排他的な感情など社会的な問題を描きたかった」と話す内田監督。昇と樹冬が初めて結ばれるシーンをモノクロにした意図について訊かれると「彼らにとっては愛が芽生えたというより逃亡の果ての出来事。回想のような、すべては結局過ぎ去っていく過去だ、という意味も表現したかった」と説明した。

img_9200過去作『ふゆの獣』(10)では即興の演出が注目されたが、本作では脚本通りに撮影する手法をとった内田監督は「何度も脚本を書き直し、違和感が出ないよう丁寧にテイクを重ねた」と話す。セリフ以外の生活音や騒音にもこだわり「日常では色んな騒音が聞こえる。セリフだけが際立つのはリアリティに欠けると思った」と、丁寧に世界を作り上げていった舞台裏を明かした。

自然のシーンが多い本作では、登場する森や砂浜のロケーションについても観客の関心が及んだ。今回は撮影場所にも具体的な設定があったそうで、劇中の反戦デモのシーンも実際に新宿で行われていた場所だという。「恋愛だけじゃなく排他的な感情や社会的側面を表現したい」という内田監督の想いが随所に感じられた。

プロデューサー、撮影監督など一人何役もこなす斎藤文さんは内田監督の奥様でもある。日常から映画に対する意思疎通もできていて「斎藤がアングルや画角を担当するので、僕はカット割りに専念できる」と敏腕なパートナーを称えた内田監督。自主映画の予算については「1億円以内ということで」と濁し会場の笑いを誘った。次回作でも「人の依存、男女の人間関係や恋愛、そこから見えてくる社会にフォーカスしたい」と語った。

ここで林ディレクターから、来場されていたプロデューサーの斎藤文さんが紹介されると会場から大きな拍手が贈られた。最後にエンディングについて聞かれた内田監督は「その後は、僕の中にはありますが、あとは皆さんにお任せします」と締めくくり、フィルメックスでも人気の高い内田監督らしい、観客の鋭い質問が飛び交う活発なQ&Aとなった。

内田伸輝監督の最新作『ぼくらの亡命』は、2017年劇場公開予定。このワールドプレミア上映をきっかけに、より多くの観客へ届いて欲しい骨太な一本だ。

 (取材・文:入江美穂、撮影:穴田香織、吉田留美)

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