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『ジョニーは行方不明』ホァン・シー監督Q&A



11月22日(水)、有楽町朝日ホールにて『ジョニーは行方不明』が上映された。台北映画祭では脚本賞をはじめとする4部門受賞、金馬奨では主演のリマ・ジダンが新人俳優賞を受賞している。台北の住宅地を舞台に、都市で生きる人々の孤独が繊細なタッチで描かれる。上映後のQ&Aにはホァン・シー監督が登壇した。
はじめに市山尚三東京フィルメックス・プログラムディレクターが、中心となる三人の登場人物の関係性の面白さに触れ、オリジナル脚本を書くにあたり、どのようにキャラクターを造形したのか尋ねた。ホァン監督は「これまで出会った人を思い浮かべながら脚本を描いた。都市で生活している友人や、観察して心に残った見知らぬ人たちをコラージュしながら、人物を作り上げた」と語った。
続いて脚本制作の過程に話が及ぶと、ホァン監督は「この脚本を書きながら、他に二本の脚本を同時に書き進めていた。その二本はハリウッド方式で取り組んでいたが、本作はエッセイのような形で進めた」と独自の脚本作りの方法を明かした。
台北の風景として、交通機関が印象的に捉えられる本作。観客の一人から撮影で苦労した点を聞かれたホァン監督は「渋滞シーンの撮影は困難だったが、この映画ではどうしても台北のありのままの生活風景を撮影したかった」とコメント。また、ゲリラ的に撮ったあるシーンでは「台湾の交通網を少し乱してしまいました」と会場の笑いを誘った。市山PDから「夕暮れ時の大がかりな撮影だったので、チャンスは1回だったのでは」と聞かれると「結局は6テイクぐらい撮ってしまいました」と、その柔らかな物腰とは対照的に撮影時のこだわりの強さが垣間見えるエピソードを明かした。
本作の主人公は、ジョニーという男あての間違い電話を何度も受ける女性。その着想について、ホァン監督は「香港の友人から同じような話を聞いていた。友人は間違い電話に最初はイライラしたが、いつしかその相手に親しみを感じるようになったそうで、それが心に残っていた」と明かした。また「”行方不明”を表す”Missing”にはもう一つ”懐かしい”という意味がある。そのことが、執筆中ずっと頭の中にあった」とコメントした。
本作の製作総指揮はホウ・シャオシェン監督が務めた。ホァン監督はニューヨーク大学在学中に、ホウ監督の『憂鬱な楽園』(1996)にインターンとして参加し、帰国後に『黒衣の刺客』(2015)、テレビ用の短編映画” HOUSE”の製作に関わっている。
観客の「ホウ監督が本作にどのように携わったのか」という質問には「まず、私が執筆した幾つかの脚本の中から本作を選んでくれた。撮影に来ることはなかったが、120分あった最初のバージョンの試写を観てもらった際、「疲れる」と言われた」とユーモアたっぷりに明かした。そこから97分バージョンを作り、ホウ監督にOKをもらったが、ホァン監督は切りすぎたと感じていたので、再編集して、今の105分バージョンにして再度許可をもらったとのこと。
「ホウ監督にどのようなことを学んだか」という質問に対しては「映画のことだけでなく、人に対してどのように接するのかということを、知らず知らずのうちに学んだ」とホウ監督の人柄が伝わるエピソードを明かした。
続いて、役者の演技指導について話が及ぶと「人と人との関係をどう紡ぐかというのが本作の大きなテーマの一つだった。役者には自分のパート部分のみの脚本を渡し、映画全体や他の部分について、余計な情報を与えなかった。ごく自然な状態で役に入り込んでもらうことが大事だったので、現場でも役柄と関係のない人とほとんど接触させないようにした」と語った。
最後に、都市を撮影するにあたって意識していたことを問われると、ホァン監督は「台北の街をある地点からある地点に移動する中で、時間軸と空間軸が交じり合う瞬間があり、そこに興味を持っていた」と応じ、また「本作はごく普通の人々の日常を描いているが、そこに哲学性やイメージをもたせたいと思っていた。脚本執筆時には、その要素が引き立つよう登場人物たちの過去や未来を考えた」と製作中、常に頭の中にあったテーマについて語ってくれた。
多忙の中、フィルメックスに駆けつけてくれたホァン監督。日本も東京も好きだそうだが、今回あまり滞在できないことが「残念です」と日本語で挨拶すると、会場内は大きな拍手に包まれながらの幕引きとなった。
(取材・文 高橋直也、撮影:吉田留美)

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