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『私たち』ユン・ガウン監督Q&A


 

img_238511月23日、有楽町朝日ホールでコンペティション作品『私たち』が上映された。ユン・ガウン監督の長編デビュー作である本作は、2人の少女の友情を通して子ども達の繊細な世界が丁寧に描かれ、家庭環境の格差や学歴社会など現代の社会問題にも触れた力作。上映後にはユン監督を迎えたQ&Aが行われ、数多くの質問が上がった。

上映後、登壇したユン監督は流暢な日本語で挨拶し、会場から大きな拍手が贈られた。司会の林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターから制作経緯を訊かれると、監督自身の子どもの頃の体験がベースにあると語った。「大好きな友達との幸せで心が痛むような出来事。心に強烈に残っていたこの体験をいつか映画に撮りたいと思っていた」

まるでドキュメンタリーのように自然な子ども達の表情が際立つ本作。子ども達のキャスティングにはオーディションを何度も重ね、8ヶ月を要したという。ユン監督は「何名かで一緒に即興芝居を演じてもらって選考した」と自然な演技へのこだわりを明かした。

_t2a2932続いて会場との質疑応答へ。子ども達へ演技指導について訊かれると「まずはみんなに美味しいものを沢山食べてもらいました」と微笑む監督。子ども達には台本を渡さずにシーンや状況を言葉で説明し、彼らが自分の言葉で演じられるようにしたという。「実際に使う言葉を子ども達に聞いて台本に反映したり、お互いに心を通わせながらシーンを作っていった」と演出術を明かし、スタッフ全員で和やかな現場作りを心がけたと語った。

 劇中、効果的に登場するのがマニキュア。主人公のソンが、ジアの爪をほうせんかの花で染めてあげるシーンについては「ソンは何かと不器用な反面、絵を書いたり創作したり手先は器用という設定。ここはジアを慰めたいソンが、言葉の代わりに器用な手先を使ってその思いを表現した部分」と説明。ほうせんかのマニキュアは監督自身の懐かしい思い出だと語った。存在感を放ったソンの幼い弟にも観客の注目が集まる。ソンが作った料理の作り方を弟が説明する微笑ましいシーンは「空腹で撮影にのぞんだ子ども達に“美味しく食べてね”と指示しただけの、自然な姿だった」と明かされると、会場は驚きに包まれた。

 img_2496クローズアップのカメラワークが印象的だった本作。クローズアップを多用することで子どもの目線で繊細な感情を表現したかったと話す監督は、主人公のソンが見ている世界とリアクションを中心に物語を展開していったと明かした。子ども達の姿が可愛くてカメラを離せなかった、というカメラマンの微笑ましいエピソードも披露した。

男性が多く描かれる韓国映画で、女性や子どもを描いたユン監督に感謝したいという韓国の観客からの「劇中の大人達が子ども達の問題に対して消極的に見えた」という意見には「登場する大人達はそれぞれの立場で努力はしているが、それが子どもには届かないのも現実ではないか。子ども同士の世界では、自分達で解決していくしかないと思った」と答えた。

主人公と同じような体験をした大人だけでなく、子どもにも見て欲しいという本作。でも今のところ子どもには人気がない、と最後に苦笑いしたユン監督だった。
本作は2017年に劇場公開が決定している。子ども達の瑞々しい姿と繊細な世界を多くの観客にじっくり味わってほしい。

(取材・文:入江美穂、撮影:伊藤初音、吉田留美)

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