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『あの日の午後』ツァイ・ミンリャン監督、リー・カンションさんQ&A

1128afternoon_01有楽町朝日ホールで11月28日、特別招待作品『あの日の午後』の上映が行われた。ツァイ・ミンリァン監督と、20年以上にわたり同監督作品の主演を務めたきたリー・カンションさんが、ともに歩んできた歳月を振り返る本作。上映終了後は2人が登場して質疑応答を実施。作品がそのまま続いているような余韻のなか、午前中から集まった観客は2人の話に熱心に耳を傾けた。

『あの日の午後』は、窓の外に森のような緑が広がる廃墟の一室で、2人が語り合う様子をカメラに収めている。まず、林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターから撮影場所について問われると、ツァイ監督は「私とリー・カンションは2年前、健康面の問題で台北近郊の山に引っ越しました。そこには廃墟が何棟かあって、その一棟の内装をやり直して住んでいます。撮影場所は、両隣にある廃墟のままの建物です」と明かした。作品の中では、饒舌に語るツァイ監督の隣で、リーさんが言葉少なにそれを受け止める姿が印象的だが、「何の心の準備もなく撮った」という。「その頃の監督は体調が悪く、撮影に入る前にどうやら遺言のようなものを残したいと言っていました」と振り返るリーさん。「でも今は、僕の方が体調が悪く、逆に監督は元気になりました。この1年、僕らは一緒に運動をしているんです。首の病気が『河』の頃の状態に悪化してしまい、時々スパや電気療法に行っています」

1128afternoon_022時間17分にわたり2人は会話を続けるが、「最初から収録時間が決まっていたわけではない」とツァイ監督は言う。「『郊遊〈ピクニック〉』(13)に関する本を書く企画があり、内容をより豊かにするため対談を行ったのがきっかけです。撮った素材を見たとき、映画にしなければと思いました。編集は加えていません」。

すると、シンとした会場の雰囲気が気になったらしいツァイ監督、「今日の会場は、まるで遺言を聞いたような深刻な空気になっていませんか?」と突然客席に語りかけると、自身の健康をアピールした。「最近はリー・カンションを連れて運動しているおかげで彼より健康になりました(笑)。近ごろは映画を自由な気持ちで撮られるようになりました。前のような焦燥感がなくなったのです」

一時「引退」と騒がれ、実際に劇場で一般公開されるような映画作りからは退いた形のツァイ監督だが、「以前は10本撮ったらもういいと思っていました。でも今はもうちょっと撮れると思っています」と晴れやかな表情で続ける。「でも、僕が映画を撮り続けるには1つ条件があって、必ずリー・カンションでなければいけないということ。人生は長くない。私が一番やりたいのは彼を撮り続けることなので、早く健康になってほしい。皆さんも彼を応援してください!」。そう言葉に力をこめると、会場からは拍手が沸き起こった。

1128afternoon_03質疑応答に戻ると、作品の中の対談でリーさんが「他の監督の映画に出るときツァイ監督からアドバイスを受ける」と明かしていたことについて質問が上がった。今年3月の大阪アジアン映画祭で上映された『サシミ』のときはどうだったのかと尋ねられ、「新人監督の作品だったのですが、編集された最初のバージョンを見て、ツァイ監督が少し編集を手伝った」と明かしたリーさん。ツァイ監督は「本当は秘密なのですが…」と前置きした上で、「シャオカン(リーさんの愛称)は特別な俳優。『サシミ』の中の彼の一番良い芝居がNGにされていたので、その部分を戻してもらいました。彼が他の監督の作品に出るたび、上手く演じてもらいたいと心配で乳母のようになってしまう。手伝わせてくれた(同作の)パン(・ジーユエン)監督には感謝しています」と苦笑いして見せた。その言葉を受け、寡黙なリーさんが珍しく、「僕はツァイ監督の脚本のない撮影に慣れている。だから、脚本があって、日本語の台詞もある『サシミ』は難しかったのです。僕は感性と経験で演じるタイプで、台詞で表現する俳優ではありません」と熱心に補足。愛情たっぷりの母親のようなツァイ監督に対し、控えめに役者としてのプライドを主張するリーさんの、絶妙の関係性が興味深い一幕だった。

林ディレクターの「遺言のようでしんみりした作品でしたが、ツァイ監督が隣で見ていてもピチピチで安心しました(笑)。スバル座での特集上映(11/28〜12/4)も始まるので、観にいらしてください」という挨拶でQ&Aはお開きとなったが、最後にツァイ監督から、「ぜひ、(最新作)『秋日』を観て下さい」と追加のメッセージが。『秋日』は、昨年東京フィルメックスで来日した際、黒沢明監督のスクリプターを長年務めた野上照代さんを撮影した短編作品だ。「野上さんが活躍された時代の日本映画は素晴らしい作品がいっぱいあって、大好きなものばかり。野上さんと、初期の頃から私の作品のファンでいてくださる日本の皆さんに捧げた作品です」と語り、大きな拍手に包まれながら会場をあとにした。

作品を観た野上さんが「大胆ね」と感想を述べたという『秋日』も、スバル座での特集上映で他の短編3本とともに鑑賞できる(12月1日、12月3日ともに18時20分上映開始)。

(取材・文:新田理恵、撮影:白畑留美、村田まゆ)

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