11月26日(火)、有楽町朝日ホールにて、コンペティション作品『気球』が上映された。チベットの草原で3人の息子たちと暮らす夫婦の生活と葛藤を描いた。上映後のQ &Aには、主演俳優のジンパさんが登壇した。
ジンパさんは、ペマツェテン監督の前作『轢き殺された羊』(第19回東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞)でも、主演を務めた。今回が初めての来日となる。
最初に、市山尚三 東京フィルメックス・ディレクターが、客席に向けて「『轢き殺された羊』を観た方はどれ位いらっしゃいますか?」と尋ねると、ほとんどの人の手が挙がっていた。
ジンパさんは俳優になる以前、詩や文学の創作、教員、政府の仕事などを経験。2011年に初めて短編映画に出演し、2014年から本格的に俳優の道に進んだ。同年、北京でペマツェテン監督と初めて出会い、2017年に『轢き殺された羊』を、2018年に『気球』を撮影し、共に作り上げてきた。
「ペマツェテン監督は、私にとって様々なことを教えてくれる先生であり、友人です」とジンパさん。
続いて、客席との質疑応答に移った。劇中、暴れる羊を捕まえる場面が登場するが、その技術をどのように身につけたかという観客からの質問に、ジンパさんは「放牧を行う地域で育ったので、羊の扱いには子どもの頃から慣れていました」と答えた。
また、「子役の演技も自然で、本当の親子のようだった」という観客から、その秘訣を尋ねられると、撮影の1ヶ月前から一緒に過ごし、コミュニケーションをとったと明かした。一例として、お小遣いをあげてみたり、好きなことを言わせてみたり、とジンパさんが現実的な手段を挙げると、会場から笑いが起きた。
「嘘のない演技が、最も良いと考えています。私たちの演技を褒めてくだる方が多いのですが、それは彼らとのコミュニケーションが上手くいったからだと思います」
最後の質問は、アミール・ナデリ監督から。「編集も音も演技も演出も素晴らしく、こんなに純粋な映画をひさしぶりに観ました」と絶賛し、脚本について尋ねた。ジンパさんは「もともと脚本は完成していたのですが、撮影をする中で少しずつ修正していきました。映画の冒頭から順番に撮影したわけではありません。撮影の1-2ヶ月の間に、私の演技が上達するにつれて、色々な場面を加えていったのです」と説明した。
終始、和やかな雰囲気の中で行われたQ &A。ジンパさんも出演する、ソンタルジャ監督の『巡礼の約束』が2020年2月8日(土)より岩波ホールで公開されることが発表され、会場から温かな拍手が送られた。
(文・宇野由希子、写真・明田川志保)