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【レポート】11/29『波高』パク・ジョンボム監督Q&A

11月29日、有楽町朝日ホールにてコンペティション部門『波高』が上映され、上映後のQ&Aにはパク・ジョンボム監督と俳優のパク・ジョンヨンさん、チェ・ジョンモさんが登壇した。本作は、過疎化が進む島の閉鎖的な村社会を鋭く描いた作品。パク監督は、「このように観客の皆さまと出会えることが、私にとっては映画を撮り続ける理由です。新たなモチベーションをいただきありがとうございます」と挨拶した。

さっそく質疑応答に移り、神父のいない寂れた教会が重要な舞台設定となっている背景について質問があがった。それに対してパク監督は、道徳的な腐敗を本作のテーマとしていることを前提とし、「登場人物たちは、信じることを忘れ、愛することを忘れています。道徳的な矛盾に気づきながらも相互の信頼や神を否定するような、精神的に追い込まれた状況にあり、神父のいない、神のいない村のアイロニーとしてあの教会を設定しました」と答えた。

続いて、来場していたアミール・ナデリ監督から、脚本の着想をどこで得たかと訊かれる一幕も。パク監督は、元々は別の作家が書いた労働搾取の物語から出発したこと、韓国で実際に起きた女性教師に対する性的暴行の隠蔽事件をモチーフとしたことを説明。その事件の様子を見ながら、「なぜ人々は事件に対して沈黙したのか、なぜ加害者を擁護しようとするのか」を考えたという。同時に、ちょうどその頃に読んでいたジークムント・バウマンの著書『道徳的不感症(韓題)』(原書:Moral Blindness: The Loss of Sensitivity in Liquid Modernity)からもインスピレーションを得て、平凡な人々の顔の裏に隠された悪を描こうと試みたそうだ。

また、パク監督の作品には繰り返し子供が登場する。「子供(青少年)は、まだ目覚めていない状態にあり、純粋さを持っています。その純粋さは、誰の心の中にもあり、守られるべきものだと考えています」と自身の作品に子供を投影する意義について語った。

さらに、2人の俳優が演じた水産工場で働く若者の過酷な労働環境について話が及ぶと、パク監督は、実は船乗りだった時期があり、劇中の若者たちと同様に水槽タンクで寝かされ、労働搾取を感じたというエピソードを披露。道徳的不感症の被害者として、当時の記憶を本作に盛り込んだという。

最後に、劇中、村人たちが躍起になっていたイノシシの捕獲に込められた意図を問われた。パク監督によると、実際に撮影を行った島では、老婆がイノシシに襲われる事件が発生したばかりで、イノシシ捕獲騒動の真っ最中だったとか。この事件の話を村人から聞いたパク監督は、「なぜ村人たちはイノシシと共存するのではなく、イノシシを抹殺しようとするのだろうか」と考えるうちに、どこか本作に通じるものがあると感じたそうだ。

ここで本作の製作過程の興味深いエピソードが次々と明かされたQ&Aは時間切れとなり、残念ながら、2人の俳優から話を聞くことができなかったが、Q&Aの終了後には気さくに写真撮影に応じるなど、観客との触れ合いを楽しむ様子がうかがわれた。

すでに新作を準備しているというパク監督のさらなる飛躍に期待したい。

 

(取材/文 海野由子)


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