第20回フィルメックス最終日は、急遽10時より特別上映が決定した豊田監督新作『狼煙が呼ぶ』の上映から幕上げとなった。
10時になり、劇場のブザー音がなりおわると会場内に突如頭巾を被り法被を羽織った男性が現れた。男性は「やあ、やあ、やあ」と会場中に響き渡る大きな声を張り上げ「ここ朝日ホールに狼煙をあげさせていただきます」と叫んだかと思うと観客席を重々しい足取りで駆け回りはじめた。
不穏な、しかしどこか期待と予感が入り混じる空気の中、男性は「外郎売り」を凄まじい迫力で読み上げる。その肉声が響き渡る会場は、はやくも映画の世界観に観客を一気に引き込んだ。
この演出は約3分に渡り行われ、興奮覚めやらぬ中舞台上には市山ディレクター、そして豊田利晃監督、渋原清彦さん、切腹ピストルズ隊長飯田団紅さんが登壇された。
去年のフィルメックスではドキュメンタリー映画『プラネティスト』が上映された豊田監督。
「今日は朝早く来ていただきありがとうございます。今回16分の映画を急遽上映させていただけて本当に嬉しく思っています」と挨拶された。
渋川清彦さんは、2009年豊田監督作品『蘇りの血』が第10回東京フィルメックスで上映された時の思い出を語り、「あの時も豊田さんは出所後だったそして今回も出所後ですね」と会場を笑わせ、「朝日ホール、そして東京フィルメックスは1番思い出深い映画祭」と挨拶された。
今回『狼煙が呼ぶ』の出演や音楽を担当される切腹ピストルズ隊長飯田団紅も続けて挨拶を行い、会場からは大きな拍手が贈られた。
豊田監督は2019年4月に拳銃不法所持で逮捕されている。しかし、その拳銃は豊田監督の祖父が第一次大戦の時に使っていたものであり、豊田監督はすぐに釈放となった。
しかし、その頃マスコミは逮捕時には豊田監督の逮捕を必用に報じたにも関わらず、釈放後はほとんど放送しなかったという。豊田監督は「相乗効果でいじめのようなものの対象になってしまった」と当時のことを語り、「記者会見を開くかという話もあったが、だったら映画で返答しようと思った」と思いを語った。
16分という長さについては、「すぐ作り、すぐ流さなければ今の時代に対応できない」とし、映画に対して「(自身の事件)それだけでなく、この世の中の不条理や矛盾にもうみんなそろそろ立ち上がろうという気持ちで作った」と述べた。
最後、渋川さんそして、飯田さんにマイクが渡ると飯田さんは「(この映画は)何かの前振りなのではないか」とし、「16分という時間を集中して、前のめりになって見てほしい」と締めくくった。
『狼煙が呼ぶ』は、渋川清彦、浅野忠信、高良健吾、松田龍平、中村達也、伊藤雄和、仲野茂、MASATO、MIUら豪華な俳優陣が出演する。たった16分と短い映画ではあるが、その迫力はまさに何かを予感させる、贅沢な16分となっている。
文・柴垣萌子/写真・明田川志保