今年でデビュー30周年を迎える阪本順治監督。第20回東京フィルメックスにて特集上映を行った。11/27(水)第一回目に上映された『鉄拳』は、これまで26本の長編作を撮ってきた監督の2作目となる。
上映後には、市山ディレクターそして阪本順治監督も登壇。客席から温かい拍手が送られた。
阪本監督は、1989年『どついたるねん』で衝撃のデビュー。移動式映画館「シネマプラセット」での劇場公開も話題となり華々しいデビューを飾った。そして翌年の1990年に発表した作品が『鉄拳』だ。
大スター菅原文太を主演に全国一斉上映ということも話題になった今作。
市山ディレクターは、「『鉄拳』はどこかで必ず紹介したいと思っていた作品」とし、今回の東京フィルメックスでの上映実現を喜んだ。
デビュー作である『どついたるねん』と『鉄拳』は、ボクシングを題材に作られた映画であるという共通点を持っている。しかし、題材は同じであってもその両者に両者の面白さがあり、そして全く違う映画となっている。
このことを踏まえながら市山ディレクターが、「どういった経緯で2作目に取り組まれたのか」と問うと、阪本監督から「最初はおじいちゃんのハードボイルド映画といった全く別の企画を立てていた」という意外な答えが返ってきた。しかし、プロデューサー荒戸源次郎さんからボクシング映画を2回続けて撮った監督は世界で一人もいないと言われ、もう一度ボクシングで映画を撮ることに決めたと語った。
阪本監督は、「『どついたるねん』は、ルールに基づいて戦いを行うスポーツとしての面の強いボクシング映画であったが、2本連続やるとなった時、今度はリングの外に出で戦うシーンを撮りたいと考えた」と語った。
客席からの質問では、イランの映画監督であるアミール・ナデリ監督が真っ先に手を挙げ、「映画内ではコメディーとシリアスの要素が入り混じっていたが、脚本段階でどのようにその2つを組み込んでいったのか」と質問された。阪本監督は、「ユーモアがあるからこそある種の緊迫感が生まれるのではないか」と答え、「当時そうした緊迫した場面と映画的ユーモアの両方に興味のあった自分にはどちらか一方に偏った映画を作るのは難しかった」と語った。
また、客席から「今の阪本監督から見て、初期の作品はどのような作品か」と問われると、「当時は今にはない暴力衝動があった。自分の中に蓄積されてしまったそれをある種映画の中で解消していくような作業だった」と阪本監督は語った。
しかし、だからといってヤクザや警察と戦う映画を作ることには違和感があったとし、ずっと戦う敵を探していたと言う。
「ボクシングは憎悪のない戦いだが、アクションとして撮ることができる。そして2作目の『鉄拳』では、敵をヘイト集団とすることで小さな社会で起こりうる事件性をもたせたかった」と阪本監督は答えた。
しかし、一方で自身の暴力性とは反対にユーモアや空想性なども自身の大事な側面であると語り、そうした側面もあったからこそ映画を作り続けることが出来たのではないかと答えた。
「ヘイト集団のモデルとなったものはあるのか」という質問には、様々な要因があるとしながらも一つに自身の身体コンプレックスや幼少期での体験などを挙げた。そうした違和感は当時の健康ブームなどへの違和感に繋がり、ああ言った排他的な集団が出来上がったと語った。
『鉄拳』は、緊迫したアクションシーンがとても印象的だが実際に敵のヘイト集団にはプロの格闘家を6人起用して行い、俳優たちは本当に痛い思いをして撮影していたと語った。
阪本監督は、「今はもうあんなことは出来ないだろう」と少し微笑みながらも「本物を作るんだという気持ちで取り組まれていた」と当時の映画に対する覚悟を明かした。
今回の特集上映一回となった『鉄拳』は、ユーモアとシリアス、暴力性と空想性というような一件対立する側面を両方持ち合わせた作品であり、そこから続いていく阪本監督作品の振れ幅の多さが存分に現れた作品であった。
特集上映第2回目は『ビリケン』11月29日(金)10時から上映。
第3回『KT』は11月30日(土)10時から。4回目の『この世の外へ クラブ進駐軍』は11月30日(土)、13時30分より上映。
(文・柴垣萌子、写真・白畑留美、明田川志保)