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『念念』シルヴィア・チャン監督Q&A

1127murmur_01第16回東京フィルメックスも6日目も11月27日、有楽町朝日ホールで特別上映作品『念念』の上映が行われた。上映後には、シルヴィア・チャン監督が登壇。今年は本作以外にも、俳優として出演した2本が上映された。今年の本映画祭の主役のひとりであるチャン監督の堂々の監督作とあって、満員の会場から大きな拍手が送られた。 

「私がこの映画を撮ることは運命だったのだと思います」と切り出したチャン監督。もともと本作の脚本は、台湾で俳優として活躍している蔭山征彦さんによるもの。林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターから監督をすることになった経緯を尋ねられると、「なぜかこの脚本が私の机に置いてあったのです。読んでみると、突然とても切なくなりました。ある青年の父母に対する解けないわだかまりや心の痛みが幻想的に表現されていて、私は一人の母親として、心を動かされたのです」と語った。

1127murmur_02本作でイザベラ・リョンさん演じるヒロインは、アーティストを目指しているという設定。そのため劇中に複数枚の画が登場するが、質疑応答では、エンドロールに「Painter」としてヒロインの母親を演じたアンジェリカ・リーさんがクレジットされていることに関する質問があがった。「この映画に出てきた油絵はすべて彼女が描いたものです。実は当初、台湾の男性画家に描いてもらおうとしましたが、女性の心をなかなか描けず、女性の画家にお願いしたら、彼女はどうしても私たちが表現したい母性を表現できなかった。アンジェリカはもともと画家なので、彼女にお願いしたら作品にふさわしい絵を描いてくれたのです」

3人の若者が抱える過去の呪縛と葛藤を、チャン監督らしく強くしなやかに描いた『念念』。時間軸を自在に行き来するため、観客から「最初は戸惑った」という意見が出ると、「商業的な映画ではないし、情感を描いた作品なので、脚本のことは忘れて役者ひとりひとりから醸し出されるものを撮っていきました」と監督。「予想していなかった不思議なことがたくさん起こりましたね。私はこれまで、追加撮影を行ったことはなかったのですが、この作品では最初のバージョンを編集し終わったあと、また緑島という島に行って背景の撮影を行いました。それから、約9カ月かけて編集を行いました。私にとっては珍しい経験です」

1127murmur_03追加撮影といえば、劇中、カギとなるシーンで登場する「藤」という名のバーについても言及。「台湾で日本人が30年以上やっている会員制のバーで、4回も撮り直しに行ったため『また来たのか』と嫌がられました(笑)。30年前から変わらず時間を重ねてきた雰囲気を持っている小さな店で、忘れ去られていましたが、この映画の公開をきかっけに行く人が増えました」

一度忘れられた場所という意味では、ヒロインとその兄が幼いころ暮らした緑島も同様に、多くの台湾人には忘れさられた島だったという。観客から緑島を選んだ理由について聞かれると、「最初の脚本では台湾と北海道という設定だったのです」と明かしてくれた。「でも、北海道だと遠すぎて撮影には難しい。緑島は台湾東部にある離島で、昔はいくつも監獄があったところ。忘れられ、また人々もあの島について触れようともしませんでした。でも、監獄の多くが移転され、いまでは1箇所しか残っていません。それから観光地化が進み、ダイビングも盛んです」。忘れたくとも忘れられない想いが語られる本作に、ぴったりのロケーションだったようだ。

女優歴40年以上という大ベテランでありながら、少女のように溌剌とした笑顔で質問に答えていくチャン監督。キャストの衣装について聞かれると、「私が一番ステキだと思うのは薄いピンクのタンクトップよ!」とボクサー役のジョセフ・チャンが筋骨隆々の上腕をむき出しにしていた一着をお気に入りに挙げ、会場を沸かせていた。

最後に、「『念念』は拝見するたびに印象が違う映画。お時間があればもう一度ぜひ」という林ディレクターの挨拶で締めくくられたQ&A。29日17時から、2回目の上映が同じ有楽町朝日ホールで行われる。

 (取材・文:新田理恵、撮影:村田まゆ)

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