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『ひそひそ星』園子温監督、神楽坂恵さんQ&A

1121hiso_0111月21日(土)、TOHOシネマズ日劇1にて園子温監督の最新作『ひそひそ星』がオープニング作品として上映された。上映後のQ&Aには園監督と主演の神楽坂恵さんが登壇した。司会の林 加奈子東京フィルメックス・ディレクターは「オープニングで上映することができて、とても光栄です。ありがとうございました」と感謝の言葉で園監督と神楽坂さんを迎えた。

園監督は東京フィルメックスと縁が深く、第9回では『愛のむきだし』(09)、第11回では『冷たい熱帯魚』(10)、第13回では『BAD FILM』(12)が特別招待作品として上映されている。本作『ひそひそ星』は今年9月のトロント国際映画祭でNETPAC賞を受賞し、今回の上映がジャパンプレミアとなる。全編モノクロのSF作品で、福島県の富岡町、南相馬、浪江町でロケを行い、地元住民の協力のもと制作された。

1121hiso_02本作品の脚本と絵コンテは1990年に執筆されたが、当時は予算の問題があり断念したという。その代わりに『部屋/THE ROOM』(93)(ベルリン国際映画祭フォーラム部門で上映)を作ることになった、と園監督。林ディレクターは「『ひそひそ星』を見たとき、『部屋/THE ROOM』の空気感を思い出し、これぞ園さんだ、と染み入るようなうれしさがあった」と応じた。

園監督の妻であり主演とプロデューサーも務めた神楽坂さんは、撮影中の園監督について訊かれると、「監督と女優として向き合ったときは、厳しく追い込んでもらった」と答えた。園監督は「神楽坂さんは、僕の25年前の脚本を尊重してくれた」と応じ、「20代の頃の自分は僕にとってもはや(自分とは異なる)「彼」であり、僕にとって、「彼」が純粋に映画を作ろうとする本能的衝動に対してリスペクトするよ、という立場で作りました。ちょっと変な感じです」。神楽坂さんは「この映画の絵コンテ、ずっと持っていたんです。引っ越しのたびに絵コンテの箱を運んでいて…(笑)いつか撮りたいと思っていました。このタイミングで撮ることができて、そして出演することができてすごく嬉しかった」と語った。

1121hiso_03絵コンテはワンカットずつ詳細に描かれており、膨大な量があったという。執筆時の構想と撮影にあたっての変更点を訊かれると、園監督は「(セットの)宇宙船の部分は絵コンテ通りで、大きく変わったのはロケーション。当時は地球に対する人類の過ちを象徴する場所として、例えば夢の島みたいなところを想定していたんですけど、今は福島を舞台にせざるをえないと思った。そして福島を舞台にするなら、『希望の国』(12)で取材した、震災で被害を受け、人生が変わってしまった人たちに敢えて出てもらおうと思ったんです」と語った。

観客から、『桂子ですけど』(97)との構成の共通性について質問が上がると、園監督は「『桂子ですけど』は本作のリファレンス」だと明かした。「当時、『ひそひそ星』を作ることができなくて悔しかったので、ここで描きたかった日常を『桂子ですけど』で描きました。日常は宇宙的で、永遠の繰り返しであるということを、自分がその時出来る範囲で撮っておきたかったんです」。

音に対するこだわりについて訊かれると、「1990年にベルリン映画祭で観たソクーロフ作品の音の使い方に影響を受けました。その頃の映画に比べて、最近の映画は音へのこだわりが少なくなってるかな、という印象があって。自主制作でそんなことやるバカはいないと思うんだけど、『ひそひそ星』は1年間かけてダビングをしていて、本当はもっとやりたいと思ってるくらい」と応じた。

劇中、ワンシーンだけカラーにしたのは何故かという質問が寄せられると、園監督は「この作品にとって、福島で撮った、という事実が非常に重要でした。あの場面で映し出される、草に覆われた場所はかつて人の住む街だった。そこに青空があり、緑があるという風景は、感覚的にカラーにしようと思ったんです」。

また、影絵を使ったシーンの演出の意図は、という質問には「言葉にすると陳腐だけど、人生は一瞬で、走馬灯のようだ、という表現です。小さい時、仏間の行灯がくるくる回って、障子にさまざまな影を映し出していた光景をよく覚えています。行灯が灯されるのは誰かが亡くなった時だから、その影がその人の人生のようだと思っていた。25年前の絵コンテに、現在の福島という要素を入れることで、人間の儚さを重層的に引き受けることになったと考えています」と答えた。

ラストシーンの演出について質問が及ぶと、「ラストは、現場で絵コンテとは違うものに変わったんです」と神楽坂さん。福島を記録するというテーマが加わったことで、ラストシーンが変更されたのだそう。トロント映画祭での上映では観客から「福島の現在の姿が映像に残されてよかった」という言葉を貰い、福島の人々を思って涙が溢れたという。園監督も「ロケハンしている最中も、陽炎のように福島は刻一刻として変わっていった。この映画の中の風景も、今はもうないんです」と応じた。

福島をテーマとしたインスタレーション作品も発表している園監督。今後も可能な限り福島を舞台にした作品を撮り続けたい、と締めくくった。

「作中に登場したカメは、『ラブ&ピース』(15)のカメでは?」という質問に、監督が「よく分かりましたね!いまはスタッフが飼っていて、園組の立派な一員です」と嬉しそうに応じる場面も。本作品は2016年5月に新宿シネマカリテにて公開が決定している。園監督の想いが詰まった本作、是非劇場に足を運んでご覧いただきたい。

(取材・文:谷口秀平、撮影:明田川志保、本田広大、村田まゆ)

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