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『神水の中のナイフ』チャオ・イーハンさん(プロデューサー)Q&A

img_248811月21日、有楽町朝日ホールにてコンペティション部門『神水の中のナイフ』が上映された。上映後のQ&Aには、プロデューサーの一人、チャオ・イーハンさんが登壇。最新作を撮影中のワン・シュエボー監督の来日は叶わなかったが、観客に向けてビデオメッセージが届いた。中国のイスラム教徒である回族をテーマとした本作について、ワン監督は「普通のムスリムの生活を描きたかった。ロケ地の西海固は私にとっても、思い入れのある特別な場所」と紹介し、「次回作もフィルメックスで上映できることを願っています」と期待を込めて語った。


舞台は中国西北部の寧夏回族自治区の村。妻を亡くした老人は、イスラム教の慣習に従い、葬儀から40日後の法要で動物の生贄を捧げる必要に迫られる。息子は、耕作に向かなくなった老いた牛を殺すことを提案するが、家族のように育てた牛を殺すことに、老人はためらいを覚える。原作は1998年に発表された、シー・シューチンによる同名の短編小説。回族を描いた作品の中では非常に有名で、第2回魯迅文学賞を受賞した。

img_0783Q&Aに登壇したチャオ・イーハンさんは、映画化の経緯について、「監督の大学の同期であり、本作の総合企画を務めるシー・イェンウェイさんが、監督に原作を紹介したことがきっかけ」と説明した。漢民族であるワン監督に対して、回族であるシーさんは彼らの生活様式にも詳しい。ワン監督は西海固に強い興味を示したという。
この土地は、国連の世界食糧計画機関によって、人が生存するには最も困難な地域の一つと認定されている。黄土高原地帯に位置し、10年あれば9年は干ばつという厳しい環境下にある。

撮影期間は28日。雨や雪の季節は限られるため、時期を逃さず撮影する必要があったという。
原作小説は老人の内面描写が中心で、情景描写はほとんどないが、映像化にあたり、ワン監督はこの地域のイスラム教徒の生活をリアルに描くことを考えた。例えば、映画は「人生の縮図」とも言える葬儀の場面から始まる。また、イスラム教徒の習慣である大小2種類の沐浴も織り込んだ。全身を洗うのが大きな沐浴、手や顔を洗うのが小さな沐浴だ。

水が乏しく、雨水さえ貴重な彼らの生活を表現するにあたって、「清潔さ」や「清らかさ」は作品の中で非常に重要なテーマだ。透き通った水の中を見つめる牛は、その視線の先に「清らかなもの」としての生と死を見る存在として描いている。

img_0791登場人物は全員、現地でスカウトした人々。主人公を演じた男性は役柄と違い、国内外の様々な場所へ出掛けたこともある、快活な人物だという。彼らに意図した役柄を演じてもらうのは、「ワン監督の並々ならぬ手腕」とチャオさん。「普段の彼らの生活と密着した脚本だったため、気持ちが入りやすかったのでは」と分析した。

映画は4:3の画角で撮影されているが、その理由について、チャオさんは「3つある」と明かした。一つは監督がミレーの絵画が大好きで、油絵のような画にしたかったこと。二つ目は、現代的な映画ではなく、古典的な雰囲気の映画に仕上げたかったから。三つ目は、西海固の山々が広大であったことから、人物を際立たせる撮り方を考え、この画角に決めたという。
また、音楽については、老人の独白を中心とした静かな映画にしたかったため、当初から入れる予定はなかったという。一時、交響曲を入れる案もあったが、内容と合わず、やはり入れなかったそうだ。

ワン監督は、2015年東京フィルメックスで、最優秀作品賞を受賞したペマ・ツェテン監督作品『タルロ』のプロデューサーも務めている。本作が初監督作品だが、釜山国際映画祭では「ニュー・カレンツ」賞、ハワイ国際映画祭では撮影賞、NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)をする受賞するなど、快進撃が続く。撮影中の次回作にも期待したい。

(取材・文:宇野由紀子、撮影:明田川志保)

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